天のこたえ

むかしむかし。
神様が人間たちに一本の杖をお授けになって、言いました。
「その杖を使えば、願いがなんでも叶う。しかし、ある時、合図を送るから、それに応えられなければ、お前たちが願いの対価を払わなければならないぞ。」
人間たちは不思議に思いながら、その杖をありがたく受け取りました。

幸運なことに、その杖を託された人間たちは皆善良な者達だったので、杖を託されて争いや諍いが起こることはありませんでした。
誰もが皆、思い思いに幸せに暮らしていました。

ある日、杖を持つ者たちがとある建物に一同に集い、パーティーを開いている時のこと。
神様は言いました。「さぁ、人間たちよ、私に応えを送るのだ。」

…しかし、人間たちは神様に一体どんな合図を送ればいいのか、さっぱり分かりません。訝しがる人間たちをよそに、不意に地面が揺れ始めました。
グラグラと地面は揺れます。人間たちは、いつかは収まるだろうと冷静に思っていましたが、一向に揺れが収まる気配はありません。

ズシンと、建物が歪む音がします。
…これはまずいと思った一人が叫びました。「皆、早く外に出るんだ!」

そう叫んだ一人は、たまたま建物の出入り口のそばにいました。
建物のなかはたくさんの人でごった返していますから、そう言われたとてすぐに動けるわけではありません。
…そう叫んだ一人を除いて、誰も助かりませんでした。直後に建物が崩れてしまったのです。

残ったひとりは呆然としました。
…あんなにたくさんの人がいたのに。もう自分ひとりしかいないなんて…。

…ひとりは、絶望から立ち直ると、天に向かって願いを込めた一筋の光を打ち上げました。
「こんな杖など要りません。神様、どうか皆を返してください。」

その一人は、神様に応えた唯一の人となりました。なので、杖は変わらず願いを叶えるモノで在り続けました。
たちまち時間が巻き戻り、建物は元の形のまま、中にいた人達もまた、元通りになりました。その対価として、皆の杖は神様に返上されたのです。…けれど、誰もが幸せに暮らしてゆきました。

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