-creer-

あいつが死ぬ
夢をみた

それは時折
或いはしばしば

手を替え品を替え
異なる死が繰り広げられ

眠れぬさまがとうとう表情にまで出始めた私にあいつは尋ねた
どうした、とただ問うた

暫しの押し問答にいつもの通り根負けし
訳を話すと小さく笑ったあいつは言った

――正夢でなければ良いねぇ

まさゆめとは何だろう
いまひとつ腑に落ちていないことを察したあいつは
私が口を開くより早く、求めていた答えを話してくれた

――正夢というのは、いずれ真になる夢のことだよ

何とまあ夢とは厄介なものだ
どうせなら吉き夢だけが正夢になれば良いのにと呟くと、あいつも全くだ、と頷いた

――私はまだ死ぬ訳にはいかないからね
普段は嘘か真か判らぬ物言いをするあいつが、妙に真実味の宿る声音で言った


誤って蟲を殺した
妙に細長くやたらと白い奇妙な蟲だった
これに近いものを人間共は何と呼んでいただろう
しばらく考えたが、愈々解らずじまいだった

その日から、はたと夢見が良くなった
さてはあの蟲の仕業だったかと気分よくあいつに話した
あいつは、それは何より、といつもの笑みを浮かべたが、どこか妙な具合だった

あれは何と言ったっけ、とあいつに尋ねた
我々は蛇と呼んでいる、とあいつは澱みなく答えた
――蛇は転じて邪に通ずる。邪を退けた君はまさしく神だねぇ
そう褒めそやされて悪い気はしなかった

どうやら悪夢も遠ざかったようだし
妙なことも起こらないに違いない

そう、確かに高を括っていた

夢は真になった
ただそれだけの噺だった

結局私はどこか妙だったあいつの表情の理由を永久(とこしえ)に知ることはできなかった
何度も目にした悪夢のうちのひとつに、どうせこれも夢なのだと笑い飛ばしてしまいたかった

そう、わらって眠るのだ
どうせ目が覚めればなにも変わってなどいないと

信じるにはあまりにも生々しい朱色だった
なにも、なにも変わってなどいなかった

ならばわらって眠ろうか
きっとあいつはそういうにちがいなかった

creer:クレエル
スペイン語
意味:信じる、思う、考える、みなす。思い込む。
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