ふわり、と意識が揺らぐ。
―――どうやら、うまくいったみたいだ。
「…お。気がついたか。…大丈夫か? 俺が分かるか?」
「はい。…何とか。」
私は――“ティラ・アリアス”になった。…尤も、その名がもはや必要であるかどうかは、解らないのだけれど。
「…で。気分はどうだ?」
「御心配には及びません。」
「そっか。――仲間の意識があるのを奪うのは、流石にキツいだろ。…でもまぁ、ロサはお前と一緒だ。――ロサが何か言ってたら、俺にも教えてくれよ。」
「はい。」
「…んじゃ、いっちょやってみっか?」
「…そうですね。」
――恐らく、私が成れるのは。
「おー。流石だな。立派立派。…鷹だねえ。」
「…………。」
もちろん、鳥の姿では会話などできないので、すぐに人型に戻る。
「…長には、到底及びませんけどね。」
「え? 鷹と鷲って大して変わらなくね?」
「……………。…で、これからどうしますか?」
「え? ああ、んー、そうだなー、…」
「…早速、鳥化して飛び立ちますか?」
「あ、いや。……あのさ、ユリア。」
「はい。」
「俺さ。…この辺には仲間は居ねーって、言ったじゃん?」
「仰いましたね。」
「…多分な。…もう、一族は俺たち二人だけなんだわ。」
「……………え?」
「…それとなしに痕跡とか、色々探ってみたんだけど。…」
「じゃ、…じゃあ、ロサの犠牲は一体、どうなるのですか…!?」
「いずれにせよ、さ。…宿るべき一族の者がいないんじゃ、ユリアもロサも消えてた。そうだろ?」
「………………。」
「俺たちの他に仲間が居ようとそうでなかろうと。…どっちにしろロサは、ユリアんとこに行かなきゃなんなかったと思うんだ。…だから、黙ってた。それは、俺が悪かった。」
「…………私たちの他に仲間がもう居ないというなら、…これから私たちは、どうすれば良いのですか…」
「それも、結局一緒。…鳥になって、できるだけヒトのいないところに、行くしかない。」
「……………、…。」
「なぁユリア。お前まさか、ヒトになって残りたいとか、言うんじゃないよな?」
「………。それも少し考えましたけれど、でも…」
「……ロサが、止めたんだろ。」
「…、はい。」
「…うん。やっぱ、そうだよな。」
「………、ロサ…」
「ロサは空を願ってた。…それは俺たちの原点だ。…だろ?」
「そう、ですね。」
「…一番最初に空を願ったのは、誰だったんだろうな。」
「………長は、ご存じないのですか?」
「…さあねえ。…何か分かる気がするんだけど、よく思い出せねーんだな、これが。」
「………。…、あなたらしい、お話ですね。」
――果てのない空に、二羽の大きな鳥が飛び去ってゆく姿。
それを気に留めるヒトは、誰一人として、いませんでした――