あきぞらのはて。

-08-

日はとうに沈んでいる。
流石に寒くなってきたので、警備員に見つからないようにしながら外に出て、
三人で、帰り道を歩いていた。

「…ああ。あるある! 私、本当は空、飛べちゃうんじゃないかなー、とか。」

私は、一通り、ロサに一族のことを話した。
ロサはそれを、驚くほどすんなりと受け入れた。
今は、ロサからの質問に答えているところ。

「そう。だから、私たちは、」

「本当は、飛べるの?」
「飛べるわ。」

「そう、なんだ。」
「そうよ。…貴女はまだ、名前を覚えていたから。」

「でも、腕が翼になっちゃうとか、そういうの全然想像つかないんだけど。」
「私達に会って、少しずつ前の記憶を思いだせば、飛び方も思い出すわ。」

「そうなんだー。…どうやって思い出すの?」
「それは、」
「んー。主に、夢の中だな。」

「へー! 面白いのね。」
「…本当にロサは、私たちの突飛な話を、すんなり受け入れてくれるのね。」

「だって、今リリカの…あ、ユリアの、言ってくれたこと、全部わかるもん。」
「やっぱ、仲間だな!」
「…そうですね。」

「それにしてもさ! エリオットさんのそのキャラの変わり様、すごいよね!」
「それは、族長ですから。…今までもかなり、こうやって人間界で人知れず、過ごしてきたのよ。」
「いやー、でも結構、窮屈だぞー。やっぱり。」

「自分じゃないひとの振りをするの、結構しんどそうよねー。…出来るかな、私。」
「出来るわよ。」
「ユリアみたいに、元々自分に似てるようなヤツを選べばいいんだよ。」

「確かに、それが一番楽かもねー…」
「俺はさー。もう器探さなくていいからって適当に選んだから、アレだけど。」

「…でも、もともとその体だったひとの魂は、どうなってるの?」
「ん? ああ。何つーか、記憶はとりあえず俺のものになるから、…まぁ、一緒にいる感じかな。」

「じゃあ、一緒に空を見ていられるのね。」
「そうなるな。…今はもう記憶だけだけど、コイツも結構いいヤツだったみたいだ。」

「…。ねえ、ロサ。」
「なあに?」

「私たちは、人の人生を奪って往かなければならないのだけれど。…それについては、抵抗、ないの?」
「…んー。ないって言ったら勿論嘘になるけど、………生き物って皆、そうじゃない?」

「………そうだけど。」
「それがたまたま、ひとだったっていうだけ。」

これには、驚いた。
エリオットさんも、流石に驚きを隠せなかったらしい。

「……アッサリしてんなぁ。」
「いやあ。結構キツいのよ、こう見えて。」
「…………、そうよね。」

「確かにつらい事かもしれないけど、私はそれより、今、とっても清々しい気持ちなの。」
「どうして?」

「私、ずっと悩んでたんだ。……空ばっかり眺めて、何してるんだろうって。」
「………。」

「だからね。……後で、やっぱりつらいなぁって思ってしまうかもしれないけど、今はそれより、すっきりした気持ちの方が強いかな。」
「………、そう。」
「…ま、何かあったら言えよ。俺たちはもう仲間なんだし。」

「うん。……ありがとうございます。」
「あれ。ロサにまで敬語使われんのか、俺…」

「そりゃ、…族長さんって聞いちゃったらやっぱり、…ね、ユリア。」
「そうよ。…それが普通ですよ、長。」

「ちぇー。…じゃ、俺長やってるんだーなんて言わなきゃ良かったか。」
「いえ。…いずれにせよ、私から申し上げているかと。」

「…………。」
「いや、でも私はユリアみたいに真面目ーに、敬語使わないから。…族長さんも、それで良いって言って下さったし。」

「…ほらみろユリア、ロサにまで言われてんぞ。お前やっぱりちょっと、真面目すぎんじゃねーの?」
「…。ロサさんは今、私の事を真面目だとは仰いましたが、真面目すぎるとまでは仰ってませんよ?」

「……いや、ユリアはちょっと、」
「「真面目すぎ。」」

「……………………。そうですか。」

二人して言われてしまっては、やはりそうなんだろうか、と思ってしまう。
…いや、その前に。

「…長がもう少し、仕事に対して真面目になって下されば、良いのですけれどね…」
「いや俺、結構真面目じゃん? 仲間は探してるし。」
「ユリアの場合、…何て言うか、…過剰?」

「あー、そうそう、それそれ。」
「………………。」
「まぁ、真面目な子だったからなー、その子。」

「あ、そっか。ロサはこの、…リリカって子と仲良かったんだよなー。」
「はい。…まさにユリアにぴったりって子、だったのかな…」
「………リリカさんは、」

「あ、うん。分かってるよ。ちゃんとユリアと一緒にいるんだよね?」
「…、はい。」
「…昔は、共存するのすら難しくてな。…今は上手い事、一緒にいられるようになったんだ。」

「昔って、どれくらい前なの?」
「んー。…そーだなー、……数世紀くらい、前?」

「へー。………族長さんって、そんなに長生きなの?」
「おう。…俺、こう見えて結構、生きてんだ。」
「…世渡り上手、と言いますか。」

「ああ、なるほど。」

―――一人、仲間が増えただけで、こんなにも賑やかになるものなのか。

「じゃ、ロサ。…明日から、仲間探すの手伝ってくれな。」
「はい、分かりました。」

「要するに、私みたいなひとを探せばいいのよね?」
「……まぁ、簡単に言えばそういうことです。」
「細かいことは明日教えるから。………ユリアが。」

「…………。…畏まりました。」
「…じゃ、よろしくお願いします。…同じクラスで良かったね!」
「そうそう。そういう意味でな。……めんどくさかったとかそんなんじゃないから。」

「…………………。」

いや、どう見ても面倒臭そうです。
…と内心、思いつつ。

どうやら、私の仕事は増える一方のようだ。

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