「へー。じゃあ、何? 毎日ここで、空見てるの?」
「そうよ。」
――とりあえず。
私もリオンさんも空が好きで、毎日、この時間はここで空を見ているので、ティラも誘ってみたのだ、ということにした。
勿論、毎日ここに来ているわけではないし、ただ空を見上げているだけでもないのだけれど。
「じゃ、二人きりの素敵な空間に私がお邪魔しちゃうことになっちゃうのね…」
「まだその話、続いてるの? そんなんじゃないってば。」
「今はそうじゃなくても、いずれそうなるかもしれないじゃん!」
何故か熱くなるティラの横で、今度はエリオットさんが話について行けず、置き去りにされていた。
――とにかく。
「その話はもういいから。――とりあえず、空を見ていて思う事を話してほしいの。」
「へ? あぁ、うん。――てっきり変なこと言うんだなーって言われちゃうかと思ったんだけど…」
「言わないよ。――何でも思うことを、話してご覧?」
今のは、“仮面”をかぶったエリオットさん――“リオン”さんの言葉だ。
やっと自分の出番が来た、というところだろう。
――これを言うと失礼かもしれないが、エリオットさんにはこういうキャラが似合っているんじゃないだろうか。立場上。
勿論、私が本人にそんな事を言える訳もないが。
「えっと。――これはさっき、リリカにも話したことなんだけど。」
「うん。」
「空を見ていると、吸い込まれそうな感じがするの。それでね、――」
ティラは一度言葉を区切ると、少し不安そうな顔をする。
リオンさんにはおそらく、もうその先の言葉に想像がついているのだろう。――勿論、私にも。
そしてその先を、促した。
「うん。――それで?」
「あのね。……私じゃない名前を呼ぶ、声がするの。」
「そう。」
「これを言うと変な奴だと思われるから、あまり他の人には言ったことなかったんだけど。」
「そんなこと言わないよ。――さっき、そう言っただろう?」
「………。――もしかして、二人にも、聞こえるの?」
「――…聞こえていた、と言うべきかな。…それで、その声は何て呼んでいるの?」
「…。……『ロサ』、かな。」
「なるほど。――リリカ、一族にその名前の子はいたかな?」
「えっと。……ごめんなさい、『ロサ』、だけですか?」
「ううん、違う。確か、…『リエン』。『ロサ・リエン』。……」
「『リエン』。………」
私はエリオットさんから、一族の“名前”を預けられている。
つまり、一族の一人ひとりの名前を、諳んじているということだ。
もちろん。
この役目を賜れるということは、族長から信頼を得ているという証でもある。
一族の者にとっては、光栄なことだ。
「――、いたの?」
「少々お待ち下さい。――…あ、…いました。」
「そう。………じゃ、今度こそ確定だな!」
「はい。…ですがもう少々、説明しなければならないことが。」
彼は、“仮面”を脱ぐのが早すぎると思う。
余程、その仮面は窮屈なのだろうか。
「あー、はいはい。…長いから、ユリアに任せてもいい?」
「……、わかりました。」
本当は族長自ら説明すべきなのだが、彼にそう言われてしまっては仕方がない。
「じゃあ、いい? ティラ、…いいえ、ロサ。よく聞いて。」
――あなたは、空を飛びたいと思ったこと、ある?