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▼ きみの縁(えにし)にどくを盛る

壊れていく木の葉の里。絶えない叫び声と鳴き声。獣の咆哮が響き渡る中、立ち込める煙と血の臭いに私はただ、その光景に呆然と立ち尽くすばかりだった。

思えば、最近のはたけさんやミナトさん、三代目火影様はどこかピリピリとしていた。どうやら奥方であるクシナさんの様子が芳しくないと聞いていたので、その心配を男共はしているんだろうと楽観視していた自分を殴ってやりたい。予定日と聞いていた日にちに近付いていたとある夜。妙な胸騒ぎがして私は眠れなかった。かの殲滅戦に赴く前日のような厭な空気。だからだろうか、非常用の持ち出し袋に資料を纏めて収納してある巻物を突っ込み、そっと枕元に置いて床に就いたのは。
やっと睡魔が襲って来て、心配は杞憂だったと思い始めた時。激しい地鳴りと暗闇にそぐわない光が襲ってきたのは。布団を跳ね飛ばし、慌ててカーテンを開けて外を見れば、それは始まっていた。

「アマモちゃん!」
「八百屋のおばさん……!」

何が起きたのか分からないまま、持ち出し袋を持って外に出てみればそこは地獄が広がっていた。倒壊する家や燃える木の葉の里、そして遠くで何かが起きている事実。まるで戦地に放り込まれた新兵のように、私はただただそこに突っ立っていた。我に返ったのはいつも通っている、八百屋のおばさんに声を掛けられたからだ。よく見れば彼女の頭から流血しており、ぐったりとした子供を背負っていた。

「アマモちゃんも一緒に逃げましょう、アカデミーが避難所だから」
「今、何が起きてるんですか……?」
「九尾が暴れてるのよ、落ち着いてきてると思ったのに、また天災が起きるなんて……!」

九尾。どこかで聞いた事がある、が思い出せない。資料に書かれていた情報も少なかったが何て書いてあったか。そうだ、尾獣だ。恐ろしい力を持つチャクラの塊のような存在がなぜ木の葉に――決まってる。戦に使うためだ。苦い考えに辿り着いたが、まずは安全を確保しなければいけない事を思い出し、おばさんの言葉に頷く。

「じゃあ行きましょう……キャア!?」
「おばさん!」

アカデミーへの道に方向転換したのと同時に、ゴウッっと炎が巻き上がる。どうやら火事が鎮火できずこちらまで回ってきてしまった様だ。私達以外に周りに人はいない。このままでは、このままでは私だけじゃあなくおばさん達まで死んでしまう。

「回り道は!?」
「私が来た道は民家が崩れてて通れないのよ!」
「……おばさん、私は大丈夫だから。私が道を作るからお子さん連れて先にアカデミーに逃げて!」

私がしなければいけない事。錬金術師としての誇り。きっと私の行動はのちのち問題視されるだろう、けれど私はやらなくてはならない。力を持っているのに、見殺しなんかできなかった。
両手を合わせ、地面に打ち付ける。周りの水分を吸収して人が通り抜けできる位の氷のトンネルを生成すれば、逃げる位はできるだろう。

「アマモちゃん、あなた……!」
「氷が解ける前に早く!私、後から行くから!」
「待ちなさい!」

制止を振り切って私は走り出した。確かに『壬波アマモ』は子どもで、守られる存在だ。でも今この場に居るのは圧倒的な力に無力である大人や子どもたちばかりだ。きっと腕の立つ者は尾獣の元に向かっているため、こちらまで手が回らないだろう。少しでも犠牲を減らすため。たとえ偽善だと言われても良い、後から咎められ罰を受けても良い。きっと幼馴染やあの兄弟達ならそうしていた筈だ。

「水遁・水喇叭の術!」
「アカデミーに逃げろ!きっとそこなら救援がいる!」
「家は諦めてさっさと逃げろ!命の方が大事だろうが!!」

チャクラが切れ始めても、煙と土埃で喉が痛んでも私は諦めたくなかった。殲滅戦で人を大勢殺した自分が何をしても変わらないが、アマモである限り私は動くのだ。祈るように両手を合わせ、人を大勢殺してきたこの氷で命を助ける為に。

10月10日、人々はそれを九尾事件と呼ぶ事となる。






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