最近大蛇丸さんの様子がおかしい。
相手をしてくれる時間が減り、質問をしに行っても前は快く答えてくれたのに最近はどうも断わられる事も多くなってきた。ブツブツ何かを呟いている事もあればヒステリックを起こして手を付けられない場合もある。何があったんだろうか?まぁ大蛇丸さんにもきっとぶつかるべき壁があったんだろう。子供の姿をしている私は力にはなれないだろうし、そう楽観視して暫くが経っていた。
「こんにちは、…?」
いつもの様に私は大蛇丸さんが良く居る研究所へと向かった。大体いつも返事が聞こえてくるというのに今日は返って来なかった。トイレかどこかに行っているんだろう。勝手にそう納得して私は研究所の中へ入り込んで―――
「!」
後ろの方から殺気。地を蹴り壁の方へと走って行くと同時に何かが投げられカキンカキン、と金属質な音が聞こえた。先程までいた場所を見ればクナイが数本落ちている。一体誰がこんな事をしてくれたんだ。
「侵入者め…」
「誰だお前は」
「お前こそ誰だ!ココが何だか分かって来たのか?」
「知っているから来てるんですが…」
「嘘付け!大蛇丸様以外はカブトと被験体の奴等しか見た事が無い!」
「大蛇丸さんはともかく、私は被験体も見た事も無いしカブトって名前も初耳なん」
「やっぱりお前侵入者だな!私が相手だ!」
「うわっ!?」
部屋の隅からしたその声に思わず身構えた私は悪くないと思う。隅から現れたのは気の強そうな…女の子。キリッとした目を吊り上げて私を見据えている、誤解を解くのは難しそう。侵入者と決めつけるその物言いにちょっとばかし苛立ったのは仕方が無い。
こちらに走ってきた彼女を避けつつ、どうしようかと悩む。話を聞かないのでここは一発水遁かますべきか…駄目だ大蛇丸さんの家が水浸しになる。案外彼女の動きが早く、逃げ回っているうちに壁に追い詰められてしまった。壁を登って逃げる事も出来るけれどそれじゃあこの女の子は私を追いかけてくるだろう。
「観念したか、侵入者!」
「………」
こういう時は戦意を削ぐのが一番だろう。女の子が走り出したと同時に私は両手をパァンと両合わせにし、地面に手をつけた。バチバチバチッ、パキンパキン!聞き慣れた懐かしい音が地面から聞こえてくる。女の子の表情はみるみるう引きつっていくが仕方無い。
「ひょっ、氷遁…!?」
「多分霜焼けになると思うんで手当はきちんとして下さいね…話を聞くべきだったとは思うんだがなぁ、まっすぐなのは短所にもなるぞ?」
蔦が絡みつく様に氷が彼女の足を覆う。うんともすんとも言わない足を呆然と見つめる彼女を見て、私は久し振りの錬成が上手くいったことで安堵の息を吐いた。
「アナタ、氷遁使えたの?」
そう、あの時は。
ニタニタした顔の小娘を今すぐ氷漬けにしてやりたい衝動をグッと抑え、素直にイエスと答える。私の中での"錬金術"とは至極当たり前の事だが、ここの世界ではそれはまかり通らない。複雑な印を何個も何種類と合わせてチャクラを練り…と面倒な工程をしてやっと忍術を使えるこの世界とあの世界は物事の通りが違う。だから、仕方が無い。
「でもこれ、私以外出来ないと思います…印無しですし」
「禁術の類ってワケじゃないの?」
「きっと大蛇丸さんでも火影様でもそのー、うちは?の人とかでも無理なものだと思います。だって私の家系でそんな異端な忍術使ってる人とかって居ました?私知らないですけど」
私も人の事言えない位には小娘なんだけどさ。大蛇丸さんに見事に告げ口された結果、先日小娘に対しやらかした事を根掘り葉掘り聞かれていると言う訳で。言っても出来ないと思うけれど。
「空気中の水素を一気に冷やしてこう、氷にするんですよ。無から有を作ることは不可能ですしそれこそ死んだ人間を生き返らせるだなんて御伽噺も叶いっこありません。しかも扱うにはそれなりの覚悟と理解力、天性の素質だって影響します」
「…つまり私には無理ってことね」
「そうですね。だって大蛇丸さんにさっき見せたじゃないですか。あの紙に全部書いてありますよ」
「暗号が難し過ぎるわ、脈絡のない文にしか読めないもの」
「私は読めます」
「…そうね」
申し訳ない事をしたと思うけれど仕方ない仕方ない、ここで大蛇丸さんが錬金術に興味持ったとしても真理に引き擦り込まれて顔か腕か命かその辺を"持って行かれる"だろうしさっさと諦めてもらった方が今後によさそうだ。
「そうおいしい話なんかじゃないんですよ。リバウンドしたらもっと大変な目にあいますし」
「例えば?」
「えー…っと。確か機械と体が合成されてしまったりとか、上半身と下半身が爆発したりとか結構」
「もういいわ。試してみたいと思ったけれど、ハイリスクでそんなもんじゃあ何にも足しにならなさそうね…話してくれてありがとう」
「いえいえ」
そう言った大蛇丸さんの顔には興味というものが浮かんでいなかったのでもう大丈夫だろう。私も本当の話は喋ってないのだから。
まず人間を作ることは可能だとは一言も喋っていない。…人間の構造をした"人造人間"なら作る事が可能であるし、無から作る人造人間と人間をベースとした人造人間もいる。あとは私は氷以外にも応用は利くのだけど喋っていないし、金も作れる事も言ってはいない。下手に喋ってしまえば私の事なんか幽閉して色々と働かされる未来しか見えないからだ。大蛇丸さんが私に何かを隠しているこの状態で私も流石に喋る訳にはいかないし。…しかし、だ。
(禁術…ねぇ)
嫌な響きを含んだものだ、と今はその位しか思わなかった。