悪人 | ナノ




▼ おこちゃまね

誰よりも早く、誰よりも若く俺は幹部の座まで上り詰めた。わるいことをするのは楽しいし皆が俺の手柄を褒めてくれる。我らがアクア団のリーダーだったアオギリさんはそのまま大きく育ったガキ大将のイメージが大きい。一番疎まれる様な仕事をしていたけれど皆が皆俺の頭を乱暴に撫で回して労ってくれる。まるで小さい頃の秘密基地や秘密組織ごっこをしている様で楽しかった、それだけだ。

「…以上が見取り図のすべてになります」
「ありがとうございます、あなたに頼んで本当に良かった」

珍しくスーツを着た俺は依頼者との取引の為とあるアパートの一室に来ていた。下水道や冷凍コンテナの周囲について事細かく調べ起こした見取り図は満足してもらえる出来になっていたらしく、眼鏡越しの目は笑っていたので一安心。諜報活動は大の得意な物で、こんな仕事で大金を貰うのが申し訳なく思える位だ。勿論スパイ活動の一環で相手組織に潜り込む事だって経験はあるのだが今回の主な仕事は地図製作。もといポケモンの生態調査として適当なポケモンを指示通り捕まえて来るだけ。

「本当にこんな仕事で大丈夫でしたか?」
「いえいえ。今は組織も忙しくてですね、それに優秀な諜報部隊は別件で動いてまして」
「そうでしたか。失礼致しました」

唯一大変と言えたのが下水道の一角から迎える場所、ヒウン唯一の自然が残る小さな空き地に生息するイーブイを捕まえる事だった。要りますか?とボールを渡されそうになったが申し訳ないが遠慮させてもらった。俺のポケモン達は厳ついのが良いんだ。可愛いのだと何となくロマンに欠ける。

「では報酬を支払いましょう、手渡しで宜しかったですね」
「はい。…ありがとうございます」

テーブル上へ無造作に置かれた茶封筒。かなりの厚みを見ると流石に尻込み…しなくなってしまったのはいつからだろうか。心の汚さに悲しくなる事は無いが少し思う事はある。鞄に仕舞い込み、出されたコーヒーを飲み干す。煙草もコーヒーも、最初は駄目だったのにな。

「また何かありましたら」
「えぇ。そこまでお送りしますよ」

目の前の依頼主は妙な感じがする、会った時から何だか"わるいひと"では無い気がする。何故なんだろうな。ちょっとした好奇心で俺は依頼者であるアクロマ博士に聞いてみた。

おこちゃまね

「博士、あなた研究を続ける為なら幾らでも利用する魂胆でしょう」
「おやばれてしまいましたか。その通り、一つの視点だけで物事を見てはならないのです。だからこそあなたに頼んだのですよ。元アクア団幹部のイクリさん。それにあなたもわたくしと同じ思想の持ち主ではないのでしょうか、勘ですがね」
「………うげ」

悪気の無さそうな笑みがちくりと心に刺さった。こんなにも爽やかな笑みなのに知り合いの阿保が脳裏を過ぎった理由が知りたい。







×
「#学園」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -