「何シケた顔で見てんのよ」
「仕事探し。めでたく近々クビ」
「何やらかしたんです」
「やらかしたんじゃねえよ!」
アラ残念。全く残念そうな顔をしないで言い放たれた言葉にムッとしながら、手元の求人誌を読み進めていく。最近はずっと仕分け作業をしていた冷凍コンテナも、大体の片付けが終了したため仕事がなくなりそうなのである。雇い主のヤーコンは今後できる予定の施設の職員や、フキヨセ等のコンテナの方に斡旋してくれるとの事だが、一応他に道は無いかを探す必要がある。今後の予定をスムーズにこなす為にも。
「まーたなんでクビ?お前揉め事起こすタイプじゃねーだろ」
「アンタもかい…。冷凍コンテナ、潰すんだよ」
「ホモエドが妙に活気づいてるけれどその一環?」
「そろそろ発表するってヤーコンは言ってたけどさ」
そう、今から1年前。丁度、プラズマ団のひと騒動が起きて終息した年だ。あれから彼は町おこしを考えていたらしく、冷凍コンテナを潰してまでとある施設を作ろうとしていたのである。工事はローブシンやらまぁあの辺がするから今からでも終わるだろう。その前に、やることがたくさんあっただけ。結局俺のクビは免れる事はできないのである。
「PWT、ポケモンワールドトーナメント」
「へ?」
「バトルサブウェイに次ぐ、新しいバトル施設だって。とは言ってもあの廃人列車とは方向性が異なるんだと」
「トーナメント式のバトルならイッシュリーグがやってますもんね」
イッシュリーグも面倒だけれど、多分こっちの方も面倒だと思うぞ…。あまり良さそうな求人が無かったので、溜息を吐いて雑誌を放り投げた。
「売りは各地方のジムリーダーとのポケモンバトル」
「…マズいですねそれは」
「カントージョウト、ホウエンにシンオウ。カロスは未定だ」
「んーでもまだ問題無いんじゃあ」
「チャンピオンも呼ぶらしいぞ」
「ゲェッ!?マジかよ!?じゃああのガキも来るんじゃねえのか!?」
「カントー枠はグリーンだって聞いたけど」
「じゃあワタルかしら…あの子の顔はもうしばらく見たくないわ」
どの地方でもチャンピオンに近い、それ以上の実力の子どもが悪の組織を悉く潰す、なんてジンクスでもあるんだろうか。ロケット団なんて2度も潰されているのだし。
「……イクリはそういう事考えないの?」
「なにが」
「あの時ガキが来なかったらなー、とかそういうのだよ」
「あんた等はガキに恨みの1つでも持ってる?」
「当たり前でしょう」
何を言っているんだ、と言わんばかりの視線が飛んでくる。あぁ、さっき求人誌を投げなきゃあ良かった。
「んー、まぁ思う所はある。でも恨みとかではないな。結局助けてもらったのには変わりないし、俺達は『悪の組織』じゃない。ちょっと海と陸を愛し過ぎた、ただの自然保護団体だからな」
悪いことはしてきたさ。潜水艦を強奪したし、ソライシ博士やデボンから盗みは働いたし。意図してないにせよ生態系をぶっ壊そうとしたし。あとミナモの海に勝手にひみつきち作ったりとか。
でも誇れる事はある。俺達は他の地方の『悪の組織』のように、人からポケモンを強奪した事はない。ポチエナだって、キバニアだって、ズバットだって。元々自分のポケモンだったヤツもいればリーダーがモンスターボールをくれて初めてゲットしたヤツだっている。
「だからまぁ、ボウズ達とはもっと色々話したいことがあったんだよな。そのラグラージ、すっげぇお前に懐いてんだな、とかさ」
かつて海の見える坂道
確かに俺達は『わるいこと』が大好きで、多分これからも悪事に関わって行くだろう。でも、結局の所ところはあの日の思い出に縋っているのだ。素敵なリーダーと上司に揉まれ、たくさんのしたっぱを率いて遊んでいた昔に。あぁ、マグマ団とぎゃあぎゃあ争うのも。あのボウズやオダマキの娘とポケモンバトルをするのも。とてもとても楽しい事だったんだって。
「………なんだよ」
「…いや、案外達観してるんですね、と」
「火山の如く噴火するのはマグマ団。俺は波に揺られる様に落ち着いていたいアクア団なの。海は良いぞ、眺めてるだけで心が落ち着くからな」
そう、初心忘れるべからず。俺は、海が、大好きなのだ。