「とは言っても、仕事しなきゃ老後が心配なんだよなぁ……あぁお前は心配しなくても良いんだぞ」
独り言に反応したトドゼルガがこちらを見る。ダイバースーツを着ているとはいえ、そろそろ仕事を切り上げなければ明日に響く。冷凍コンテナの中は名前の通り寒いのだ。もうひと潜りして、今日の仕事はやめにしよう。厄介な連中が来る前に帰りたいものだ。
「トドゼルガ、行くぞ。ダイビングだ」
元気に一鳴きして、トドゼルガと俺は海の中に潜り込む。この遺跡は一定の深さまで人間もしくはポケモンが入り込むとスイッチが作動するらしい。一定時間が経過すると恐ろしく強い水流によって入り口近くまで押し戻されてしまう、というものだ。古代人は一体何を思ってこんなのを作り上げたんだ。それに、今回の依頼内容もおかしい。だが金が貰えればそれでいい。アクロマ博士との関係は仕事の依頼人、それだけだ。
(やっぱり何者かが入り込んだ形跡があるな)
何度も入り直し、正しいルートを掴む。こういった不思議な仕掛けはホウエンにもあった筈だ。おふれのいせき、あそこと同じ雰囲気がする。ただ遺跡の方は昔大暴れしたと言われるポケモン達を封じ込めているとかそんな感じだった気がするが……。中心部辺りまで辿り着き、壁画に書かれてある通りの指示を行えば、上のフロアへの道が開く。その繰り返しだが、道は同じ様な景色が続く入り組んだ迷路になっており、古代文字は読みにくい。というか、指示を聞いていなけりゃ多分無理だ。イッシュの言葉はホウエンと違うからやりにくい。確かカロスも違う筈だ。
2つめ、3つめのフロアをようやく抜け、最上階まで上がってきた。やっとここまでこれた。あとは頼まれ事を済ませれば今回のミッションは達成となる。
(それっぽいもの……これか?)
部屋の中心。台座があるだけの質素な部屋だ。左右の石板に何が描いてあるのかはさっぱりだが、台座の上にはかなりの年月が経っていると考えられる王冠が置いてあった。そろり、と王冠へ近付き防水性のライトで台座を照らす。
(最近動かした様な跡があるな。水流で動いたとは考えにくい、指の跡も残っている)
俺の手よりかは小さい、恐らく子供だろう。台座にうっすらと水草や藻が生えていてくれてよかった。きっとこの手の持ち主は一度台座から王冠を持ち帰り、再びここへ戻しに来たのだろう。何の為に?そこまでは知らないが、アクロマ博士は何かを掴めるのだろう。部外者は知らない方が良い事だってある。逃げる為にも身軽であるべきだ。
(トドゼルガ、そろそろだ)
写真を撮り納め、しっかりカメラを身に着ける。水流で流されたりしたらおしまいだ。トドゼルガの逞しい背中にガッチリしがみ付けば、ゴゴゴ……と低い音が響いたのちに恐ろしく強い水流が俺達を襲った。痛い!強い!134番すいどうといい勝負なんじゃあないか!?ガボガボと流され、一息つく頃には既に俺はヘトヘトになっていた。
「……明日はちょっと良いポケモンフード食っても良いぞ」
「……ヴォ」
眠らぬオルカ
翌日、目が覚めるとやけに体が怠かった。そりゃあ真冬の海に揉まれたら風邪の1つや2つ引きますよね。でも仕事は仕事、適当な薬を飲んで冷凍コンテナに向かった。寒いは寒いけれど、仕事中もあったかい服装してて良いから大丈夫だろう、バカだから風も短く済む筈。
「ってな訳でメールで送った通りです」
「分かりました。体調の方は大丈夫ですか?」
「冬なんで仕方無いでしょう……もう仕事は無いですか?」
「あるといえばありますが、そこへの調査は私が直々に行きたいと思っています」
「ちなみに、どちらへ?」
「でんきいしのほらあな、ですね!」
「アー、それは博士が行って頂けると助かります」
でんきタイプはくさタイプと同じ位に苦手だ!