悪人 | ナノ




▼ ふたしかの入江

都会の良い所を言え、と言われたらなんて答えるだろうか。流行に乗れる、だとか交通が便利、とかそういう点か。俺は人に紛れやすく怪しい場所が満載、と答えるだろう。今まさに俺は妖しい場所へと来ている。ヒウンシティの数ある通りの中でちょっと他と雰囲気が違う道、スリムストリート。隠れ家カフェである『いこいのしらべ』がある通りと言えば分かってくれるだろう。ただ、今日はそちらに用ではなく、更に入り組んだ所にあるこじんまりとした喫茶店に用があるのだ。ジュンサーが尾行してきていない事を確認し、店へ入る。最近どうもプラズマ団が変に動くせいでジュンサーの警戒が解ける事が無い。まったく何をしてくれた。

「よぉ」
「マジでこっち来てたのかよ」
「いやだって、クロバットに進化してるとは思わなかった」
「それを言うならお前の手持ちも同じだろうよ。見てねえけど」
「全員進化してるよ……しっかしフード被ってないお前なんか気持ち悪いな」
「ウヒョヒョ!バンダナ締めてないお前に言われる筋合いはないね」
「それもそうか」

カウンターに座る目付きの悪い黒髪の男。気さくに手を振ってこちらを見ているので、隣に座る。適当にコーヒーでも注文し会話に戻るとしよう。本日わざわざここまで来た理由、それはこの男からいきなり誘われたからだ。このご時世に手紙で、しかもポケモンに届けさせる始末。住所分かってるんならせめてキャモメ便を使えよ。

「俺ひこうタイプ持ってないって知ってたろ。行かなかったらどうしてたんだよ」
「家入って金だけ持って帰る」
「強盗やめろ……。手癖が悪いのは変わらないんだな」
「悪ガキに言われたかねーな!俺とお前の仲だろ?」
「敵対組織の元諜報員?」
「つれねぇな」

ウヒョヒョ!と妙な笑い方をするのは健在な様だ。マグマ団のホムラ、と言えばヘンな笑い方が特徴的な恐ろしくキレる頭脳の持ち主である。アクア団でバリバリ活動中だった頃はお互い騙し騙され、バトルを繰り広げていた仲である。なんでか知らないが奴もヒウンにやって来ていたらしい。先日、いきなり現れたクロバットに驚き、手紙の内容を見て更に驚いたのは新しい記憶だ。呼び出されてみれば、相変わらず赤い、しかもフード付きのパーカーを着た男がヘラヘラ笑っているじゃあないか。必ず青いものを身につけてしまう俺といい勝負。

「んで、呼び出した理由は」
「別に。たまたま寄った町にたまたまお前がいたのを見かけただけだ」
「同じ穴のジグザグマだろ」
「……この街、どうもキナ臭くてな」
「やっぱりか。街どころじゃない、ここらの組織はヤバい」
「だって俺達がまず海と陸同好会だったもんなぁ」
「おおらかな見方をすれば自然を増やす会だもんなぁ」

ゲラゲラゲラ、とひとしきり笑った所で仕切り直しだ。お互い悪い遊びに夢中になり過ぎて、どうにも沼から抜け出せない。きっと死ぬまでダメだ、性癖と言っていいだろう。痛い目見ても直ってないんだからしょうもない大人達である。

「お前いつクビになんの」
「多分来年位には……。ちょっとやりたい事ができた」
「どうせくっだらねー事だろう」
「そうともさ。―――ホウエンチャンピオン様が来るんだってさ」
「どっちの?」
「グロリアスな方。水使いとしては無謀な博打に勝ってみたい」
「ウッヒョヒョヒョヒョヒョ!―――底無しのばかだ、テメェは」
「陸地沈めるってのよりは現実的だ」
「海を干乾びさせる事かは非現実的だな」

ふたしかの入江

いいか、と前置きして俺の目を見据えてくる彼の目は見慣れたものであり、諜報員としての彼の顔であった。

「俺は絶対に巻き込まれたかないね。あとお前はバカだ。プラズマ団、あれとは関わるな」
「あと1年持たないだろう」
「その前にとんでもない事をしていやがる、ギンガ団の二の舞だ」
「察した。分かった、そろそろ手を引いて引っ越す」
「次はどこに行くんだ?」
「そりゃあ決まってるさ」

お前が火山のある所へ引き寄せられるように、俺も海がある所へいくのさ。そう言えば、相変わらずおっかないニタニタ笑いで俺を見るのだ。ちょっと年上だからって舐めやがって。






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