「来年から遂に中学生だよ、どうしようか」
「今年と同じだよ。僕等は兄さんを守らなきゃいけない」
「そうだよねぇ」
自分の部屋なのにどうして声を潜めて話さなきゃいけないのか。頭に来るが1階に居る母さんと愚兄、その他大勢にねちねち小言を言われたくないので僕と妹は小さな声で話し合っている。
今年の夏、可笑しかったこの家は更におかしくなり始めた。ヒットマンを名乗る赤ん坊が現れ、見た目は美人な女性や弁髪の子供にモジャモジャ頭、はたまた無重力を使う不思議な子供がいつの間にか勝手に居候し始めた。気が付けば僕等の部屋は無くなっていて、今居る納戸が僕等の部屋だ。暖房は無いけれど敷きっぱなしの布団と毛布が暖かいから大丈夫。それに僕等は子供体温だから、あたたかい。
「来年中学行ったらアイツ等のパシリもしなきゃいけないんでしょ?兄さんだけだったらともかく他は嫌だよ」
「僕は兄さんのパシリすらしたくないけどね」
「えー!なんでー!?」
「声が大きいよ…だってもう僕等中学生だよ、いい加減好きな事してみたい」
「そうかなぁ…」
「そうだよ。趣味を増やすのは良い事だってお兄さん言ってたじゃないか」
「あ、そうだったね!」
今の"兄"という言葉で浮かんだのは我らが愚兄、沢田綱吉ではない。あの妙な赤ん坊が現れてすぐに僕等が出会った命の恩人の事だ。あの日食べたハンバーグの味を僕は一生忘れる事は無いだろう。
「本当は誘いに乗ってお邪魔したかったけれどリボーンにバレたらヤバいもんね」
「残念だったね。餅が食べられるって喜んだのにな」
「でも中学生になったら迎えに来てくれるって言ってたし」
「楽しみだね。手続きにちょっと時間かかるみたいだけど」
「そりゃー面倒だもの仕方が無い。ボンゴレの影武者だって楽じゃないもん」
「さっさと影武者辞めたいよ」
あと1年我慢すれば僕等はこんな狭い部屋で小さくなって生きる必要もない。ちゃんとした部屋で、ご飯もおいしい炊き立てが食べられて、おはようって言えば誰かがおはようと言ってくれる生活が送れるんだ。今みたいに母さんに無視されずに済むし兄さんに殴られる事も無い。妹がケガする所を見なくたって済むんだ。お兄さんはネグレクトって言ってたけれど、妹は信じようとしない。まぁ僕が守るから良いんだけれどね。
「来年も頑張ろうね」
「今年も頑張ったよね」
「僕、来年から自分の事、俺って言ってみようかなって」
「わぁ!なんか大人になってる感じがする」
「…そう?じゃあ練習してみるよ」
「うん!来年はもうちょっと豪華なご飯が食べたいなぁ」
そう笑った妹の顔を見て少し悲しい気持ちになった。中学生になったら何か変わってくれるのかな。早く双識お兄さん達と家族になって、幸せに暮らしてみたい。そうすればきっと妹はもっと幸せになってくれるかもしれないから。
警報の鳴る楽園
(モラトリアムはまだ始まらぬ)
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