ヨークシンの冬は寒い。オークション等が行われる中央部の通りは車や人で賑わい、通りの雪は固く踏みしめられ非常に滑りやすくなっている。ネオンや飾り付けられたイルミネーションが煌びやかで、ヨークシンの冬の名物として観光スポットを紹介する本では必ず乗っている位の人気っぷりだ。しかしちょっとだけ中心から外れてみればそこは空の暗さと同化しそうな位に暗い廃ビルの連なった裏通りがある。近辺に住む人間も、そうでない観光客でも絶対に「治安がヤバそうだ」と感じ、近付きやしないその一角にて―――本日の酒盛りは開催されていた。
「なーにがリア充だ!爆発しちまえ!!」
「どうしたのノブナガとフィンクス、荒れてるけど」
「シャル達待ってた時に喫茶店入ったらカップルに指差されて笑われたのよ」
「うわー悲惨。カップルかわいそー」
「そこそこ財布の中身は良かったからねぇ、美味しい料理に早変わり!僕もハッピー彼等もハッピー幸せだね!」
「っつー事で今日は荒れてるから酒の消費も早いよ、アタシ巻き込まれたくないわ」
すでに出来上がっているバカを眺めていたシズクが無表情で可哀想、なんて言うのは凄くシュールで面白い。女性陣に紛れ僕もゲラゲラ笑って指差してると、ウボォーに頭をグシャグシャと撫で回された。
「うわっ、いきなりどうしたんだい」
「別に意味はねぇけど撫でたくなったから。フェイ達がメシ催促してたぞ」
「んー許しちゃう!食事位自分で取りに行ってよー了解したんだよ」
お礼を言い急いでキッチンへと走り冷蔵庫にあったサラダを取り出す。この位自分でやって欲しい物だよ全く!僕はお姉ちゃんではあるけれどお母さんではないんだもの、ねぇ?ワインもついでに持って行ってあげればコルトピとボノレノフがありがとうとお礼を言ってくれた。フェイは…うんいつもの事だしねー。
「遅かたね」
「自分で取りに行くって選択肢は?」
「面倒だから頼んでるよ」
「3バカとかに頼んでよ。…シャルは何やってんの?」
「ネカマ垢で数日前から年明けオフしようって言ってきた奴が居たから盛大に釣ってた。ログ見る?」
「何々…うっわー流石シャルナーク物凄くえげつねえ!」
「草生えるよねホント」
「くっけけけけお腹捩れるわ!」
クリスマスの時なんかレアモノ貢いでるじゃんウケるー、しかも貢物が指輪系アイテムでレアドロとか無いわぁ。相当入れ込んでたろうに中身は金髪碧眼の青年でした。美少女だと思った?残念でした!ねぇ今どんな気持ち?どんな気持ち?とヤジ飛ばしたのは悪くないと思いますだって騙されたのはあっちだし勝手に騙された方が悪いのよ。僕等盗賊、ちょっぴり所か風呂の残り湯並に生温いと思うのね。
「×××」
「なぁにフランクリン」
「オトシダマだ、ノブナガが言ってたのってコレだろ?」
「うおおポチ袋じゃん!」
「ジャポン文化ってヤツ?可愛いねソレ」
「中身は…わぁ!スイーツビュッフェとか僕得じゃない!愛してるんだよー」
「喜んでもらえて何よりだ」
フランクリンから渡されたポチ袋に入っていたのは今流行りのホテル内にあるレストランの優待券だった。パンケーキを筆頭にデザートが美味しいとの評判、行ってみる価値がある!ペアチケットだったので我らが甘党でも誘ってみるか。お礼を言い僕は彼の元へ向かった。
「だんちょーだんちょー!僕ね今フランクリンから物凄くいいもの貰ったの!」
「何だ」
「アルマシーホテルの」
「スイーツか!」
「ご名答!ねぇペアチケットなのエスコートしてくれる紳士が欲しいなぁ?」
「俺はいつでも暇だ、予定を決めよう」
「わぁい!ドレスも買ってー」
おねだりをすればスイーツに釣られたのか目を輝かせて食い付いてきたクロロ。髪降ろしてるせいもあって子供っぽいよ?でもそんなだんちょーも僕好きだからね安心してちょうだいな。にこにこと笑いながら僕等はいつスイーツを食べつくしに行くか、なーんて泣く子も黙るA級犯罪者とは思えぬ会話を繰り広げた。
ここは暗く冷たい廃ビルの中。けれども中はとても温かく、素晴らしい。どこか遠い所でなる年明けの鐘を聞きながら、今日も僕等は笑いあう。
鈍色のハッピーエンド
(あぁ美しき雑音よ)
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