時刻は午後11時をかなり過ぎた頃。そろそろかな、と席を立ち洗い物を片付けていく。人気者やヒーローっていうのは素晴らしい物だけれど今日くらい俺にだけ独占させてくれよってのが本音だ。まぁこんな事本人に聞かれたか困った顔して頭撫でられるかニヤニヤしながらからかわれるかの2択だろうから絶対意地でも言ってやらん。言わなくても心読まれちまったらお終いだろうけどさ?読んでも彼女は言わないってのがまた質の悪い所だとも思う。
「今年もそろそろ終わりかぁ」
今年も年越し蕎麦を食い適当にゲームして時間を潰し、軽く酒を煽ってれば時間なんてあっという間に過ぎていくものだ。皆に会ってから更に時間が流れるのが早くなった気もするが、最近また遅く感じる様になったのは俺がちょっぴり生き急いでるからかね?早く早くと願っても時間は早く流れないし、俺はまだまだガキのままだ。一回生まれ変わったって、中学生になり高校生になった今もそれは変わらない。ハッピーエンドの続きはゆったりと時が流れていくのが堪らなく待ち遠しい。
1人で寝るには十分すぎる大きさのベッドを確認する。俺は暖房ガンガンに効かせて布団を先に暖めておく派だ。毛布は静電気が起きていかん。枕も掛布団もちゃんと干したからフッカフカ、うん大丈夫。パーカーとジャージを脱ぎシャツと短パンになる。え、裸?裸はあのー、"そういう時"だけで良いんだよ俺的に。腹出して寝ると冷えちまうだろ。そうこうしている内に年が変わるまであと5分を過ぎていた。そして玄関の方からガタンガタン物音が聞こえてくる。
「お疲れちゃん、終わったか?」
「もちろんよ。ちゃんと年越しまでに受け終えてきたんだから」
「流石潤ちゃん俺めちゃくちゃ嬉しい」
「そうかー頑張った甲斐があったもんだぜ」
玄関の方に行けばブーツを脱ぎ捨てている潤ちゃんが居た。今日も今日とて大晦日なのに誰かの願いを請け負う彼女はやっぱり凛々しい。そして可愛い。鼻の頭、真っ赤になってるぜ。
「食事は?」
「仕事前に食った」
「朝飯に蕎麦食おうか」
「いつも悪いなぁ」
「いいよ。ホレ着替えろ」
彼女の手を取り寝室へ直行し、さっきまでコタツの中に放り込んで温かくなった俺のシャツとスエットを潤ちゃんに放り投げた。高校生になった今、体格は元の様に戻ってくれた。いやーちょっと安心したよ本当に。
「いつも思うんだけどあたしそんなに魅力無いってか?」
「アレ言ってなかったっけ?いつもは俺酒飲んでるじゃん」
「別に良いよ」
「俺が良くない。素面にーって言ってんのは潤ちゃんだし俺もどうせなら素面の方が良い。それにお前今まで仕事だろうが、疲れてる彼女を寝かさない彼氏がどこに居ますか。まずは寝て、元気になったら真昼間からやましい事すれば美味しいじゃない」
「………お前ってば、本当に…」
「ん?」
振り返ってみれば寒さからかそれとも他の何かか、ほんのり赤い顔で俺の服を持った下着姿の彼女が…っ、あー、うん。これはね、ちょっとね。あぁゴメン。
「…潤ちゃんやっぱり今の撤回させて」
「感動したってのにか!」
「今のは潤ちゃんが悪い!世の中のいたいけな男の子で今の見て興奮しない訳がない!」
「うわ最悪だコイツ!!」
「最悪で結構!」
彼女の髪より真っ赤になった顔で俺は潤ちゃんに謝りつつ姫抱きに。そしてそのままベットへイン!すまん潤ちゃん。でも今の今まで仕事から帰って来た潤ちゃんに手ェ出さなかったからそれで許してお願い!
「…誘ってみたんだけどキいたみたいで嬉しいよオネーサン」
「その割に最悪だって叫んだじゃねーか」
「まぁな!…来年も宜しく頼むぜ」
「断わる訳があるとでも?こちらこそ宜しくな」
ニコリと可愛らしく笑う潤ちゃんに微笑み返す。うん、やっぱり彼女を独占したい気持ちには変わりないけれどシニカルに笑わない潤ちゃんを見れるだけで十分だ。今年も、来年も彼女の隣に居られますように。そう願いながらリモコンへ手を伸ばし、照明を切る。流石にここから先は俺だけの物です。誰にも見せません。
幸せを啜る僕を許せ
(少年よ、今を謳歌しろ)
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