「クレスタ」
「………はいパーパ」
「良い子に、していろ」

――それがパーパの、最期の言葉だった。



「あなた、誰ですの」

 わたしの声は弱々しく震えていた。パーパからの預かり物を腕にしっかりと抱きながら、わたしは扉の方をぎろりと睨む。「埋め立てて」いた扉は荒々しく蹴破られ、もはや木の板に成り果てて部屋に飛び散っていた。同じ、だけれど違う。星のようなきらめきを持つ彼等は遂に来てしまった。来てしまったのだ。それがわたしを孤独の淵へと追いやることは、道端の小石を蹴っ飛ばす以上に簡単なことであった。

「あの子が、」
「あぁ」
「―――クレスタ」

 見知らぬ老人が名前を呼んだその瞬間、わたしの身体の奥底から言い合わせない、ドス黒い感情がごぼごぼと沸き上がってきた。胸の奥が痛い、苦しい、熱い!

「わたくしのッ、名前を、呼ぶなァ!」
「!?」

 分かっていた。パーパの言いつけ通りわたしは部屋の中で"良い子"にしていた。扉の前に立った気配は、パーパとそっくりだけれどパーパではない事を。それでも認めたくなかった。

「あんた達が、殺したのね!?そうでしょう!パーパを、殺した!」
「このガキ、"スタンド使い"!?」
「よくも裏切りましたわねポルナレフ!ジョースターの味方をするなんて!パーパを殺し、わたくしをまたひとりにさせる!」

 スタンドが暴走するが今の私には止める気が無かった。涙がぼろぼろ勝手に出て行く。あぁ、パーパ。わたしは悪い子だ、良い子なんかじゃあない、だってまた泣いてしまった。ひとりになることを、孤独に恐怖して泣いてしまった。わたしは悪い子だ。だからパーパ、わたしをいつもみたいに叱りに来てよ。いつもみたいに。

「わたくしは、あなたを、あなた方を一生怨みますわ、ジョースター!絶対に、わたくしは、あなた方を忘れない、許さない!!」

 わたしが覚えているのはそこまで。結局は若い方のジョースターに殴られ、気が付けば見知らぬ部屋に拘束されていた。様子を見に来たらしいジョースター共に、絞り出すように言葉を吐き捨てた。パーパからの預かり物は取り上げられてしまった様だった。最後の任務は失敗に終わったのであった。

「お主の名前は」
「ジョナは何処ですの」
「ジョナサン・ジョースターの頭蓋骨はSP財団が埋葬した」
「……そうですの」
「質問に答えろ、お前の名前は」
「……クレスタ・ブランドー。……血は繋がっていないけれど、名前を頂いたその瞬間から、……DIO様の娘ですわ」

 名前に意味はなくても、パーパが呼んでくれた。皆に呼ばれていた。それだけで良かった。

なのに。




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