「珍しいな、お前がヘマをするなんて」
「医者は行かなくても良いですわ……ベリィド・アライブ」

 しかめっ面で自分の足にスタンドを生やし、傷口へ埋めていく。ぐち、ぐち。粘っこい音が数回した後、スタンドによってクレスタの足はきれいさっぱり、何事も無かったかのような見た目になっていた。
 途中までは上手くいっていたのだ。リゾットは家主の暗殺を、クレスタは必要な情報を奪いに各自動いていた。合流場所に姿を見せず、連絡も取れないクレスタの元へ駆けつけたリゾットは、死体をひとつと足を負傷したクレスタを発見した。

「ロクな情報を持ってこないだなんて、わたくし以外の親衛隊は職務放棄してますわ」
「お前が担当する事もあったのか?」
「当然。仕事は完璧にこなすのが理想ですわ」
「後始末ばかりやっているものだと」
「大抵は。同じ内容を二度調べるなんて時間の無駄ですの、そんなヒマがあったら仕事を片付けて、早めの夕飯でも楽しみたくはありません?」
「……他の奴等とは毛色が違うんだな」
「褒め言葉、でいいんですわよね?」

 傷の深さや状態からして、数日は歩くのに支障が出るだろう。早めに終わったので食事にでも連れて行こうかと思ったが、今回はやめておいた方が無難だろう。車で来てよかった。己の判断が正しかったとこを思いながら、ゆるやかにカーブをきった。助手席ではクレスタが珍しく足を組まずに、揃えて座っている。

「寝てても良いが無理そうか」
「……無理ですわ、ごめんなさい」
「謝ることは無い。ソルベかジェラートだったら良かったんだろうが」
「あの2人過保護ですので……それに彼らでもあんまり」
「無理はしなくていい」
「ありがとう。チームの雰囲気は、思ってたより最高なんですけれど」

 はじめにおかしいと思ったのは、確かスタンドでステルスをしながら、アジトへ戻ってきた時。ソルベトジェラートとリビングにて談笑していたクレスタは、突如会話を切り上げて周りをきょろきょろと窺ったのを覚えている。気が付かれている、と理解したのはすぐだった。

「リーダーもそういう癖ありません?」
「意識はしていないが、あるだろうな」
「職業病とは違うんでしょうけれど」

 彼女は常に気を張っている。人の気配に聡く、誰もがリビングで寝ている姿を見た事は1度も無い。彼女はトラウマから、と零していた。年の割に殺人に躊躇が無いことも、経験豊富であることも、人の気配に敏感であるのもすべて幼い頃のショックが原因だと。彼女に何があったかは知らないし、詮索する事は一部を除いて積極的に行ってはいない。この話も、ソルベやジェラートより念押しされたからリゾットは知っている訳であり、決して彼女がべらべらと喋ったのではない。

「でも夢ですの。あのボロいソファーで悠々と昼寝をするのが!」
「くたびれている割にはスプリングが効いてるからな……争奪戦だぞ」
「蹴落とせばいいんですの。レディーに譲ってもバチは当たらなくてよ」
「男所帯にそれは通用しねえな」
「ケチ!」

 くすくすと笑う姿は、育ちの良い娘にしか見えない。配属初日に、今となってはお馴染みだが人の手を舐め上げるメローネと、それにキレたギアッチョを触手で縛り上げ、ねじ伏せたものとは思えない顔である。
 クレスタはソルベやジェラート、そして意外なことにギアッチョと仲が良い。他の面子とも仲が良いが、イルーゾォやペッシ辺りは最初の方で彼女を怖がっていた節がある。プロシュートやホルマジオは彼女を素直じゃあない小娘、と評しておりメローネとよくショッピングへ出かける姿を目にする。リゾットは、彼女の情報処理能力に助けられている。彼女もリゾットの判断能力に一目置いており、リーダー、と敬意を払っている。暗殺チームに配属されてからしばらく経ち、彼女も彼女なりに馴染んではいるのだ。

「あぁそうそう、ペッシの歓迎、いつまで経っても殺しができないからもうやるって息巻いてましたわよ」
「どうせ酒が飲みたいための口実だ、ノッてやれ」
「はぁい。きっとプロシュートがDOCGやスーペル・トスカーナ引っ張り出すんですわ」
「俺はバローロがいい」
「ガッティナーラで」
「あいつの事だ、なんにせよ上物だろう」
「お気に入りですもの、マンモーニも大変ですわ」
「本当にその通りだ」



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