水先案内人 | ナノ


 アガスティア・ブラックはシリウス・ブラック――兄である自分――から見れば、『気に障るヤツ』だ。
 姿格好は双子の兄である俺とまぁまぁ似ていて、顔も俺と比べたら全然だけれど整っていて、そして頭がとても回るヤツ。でも双子だからって、どこもかしこもが似ている訳が無く、性格は俺よりかは1つ下のレギュラス以上に冷たかった。
昔っから可愛げの無い同じグレーの瞳は仄暗く、コイツと俺は本当に双子なのか?と何回思った事だろう。俺とは違い、親の言う事には全てイエスと答えて両親や親族、レギュラスには非常に人気だった。今思えばアイツはその時にはもう、仮面を被っていたんだろう。

「シリウス・ブラック!」

 俺は嫌だったんだ、俺の体に流れているブラック家の血が。アガスティアはスリザリンだった。俺の両親もスリザリンだ、親族全員が純血であり、スリザリン。だから皆思っているだろう。『ブラック家なのだからこいつもスリザリンに入るんだ』
どうしても嫌だった。あの家が、考えが、血が嫌だった。反抗したかった。だから。

「――グリフィンドォール!」

 組み分け帽子が高らかに寮を言い渡す。俺は嬉しさのあまり、今この場で鼻歌を歌いながらスキップ――は流石にしなかったけれど、泣きそうな顔で笑っていたに違いない。
真紅の垂れ幕が下がるグリフィンドール寮に向かう途中、隣の寮席にちらりと目がいった。真反対の色である深緑色の垂れ幕、スリザリン。そこにいるのは俺の正反対の片割れ、アガスティア。

 お前とは違うんだ。
 親の言うことにハイハイ言って、ぼけっとしているだけのお前とは違うんだ。俺はあいつ等の言いなりにはならない。俺は、俺自身で、考えて動くんだ!お前とは違うんだよ、アガスティア!双子であり、弟であるアガスティアを見下して優越感に浸るのは凄く気持ちの良い事だ。
でも、と思う自分が頭の隅で囁く。俺はいつからアイツをバカにしていたんだろうか?両親の言いなりで人形みたいなヤツだ、と見下していたんだろうか?今の俺にも、年を取った俺にも分からないんだろう。

 あんなに冷徹な顔をする奴だったか。あんなにも笑った顔が怖いだなんて。凍り付いてしまう様な色をしていただろうか。二卵性で、そんなに似ていなかった顔が別人に見えた。

「そもそも、扱いに差があった俺がホグワーツで大人しくしているとでも?やっと窮屈な家から出れたのに?ここは学び舎だ。俺は一人前の魔法使いになる為にここに来た。だから、やれ純潔だ、だの腐りきった思想を掲げる奴とのコネを繋ぐ、だとかそういった子どもらしからぬことはもうしたくないんだ。11年間やったんだ、嫌々な!どっかの愚兄がやらないせいで俺が迷惑を被った。弟なんかすっかりそれがいかに愚かな行為か知る事も無く、『当たり前』だと思い込んでいる。役に立たない兄も家族もどうでもいい、俺は俺が好きな様に生きたいから生きる術を身に着けるんだと、ここで!だから、俺の、邪魔を、するんじゃない。いいな!」

 まさかそんな会話が上級生との間で交わされただなんて知る由もなく、ただただ俺は新しい環境への期待と、青春を共にする友人との出会いですっかり興奮しきっていたのである。

無知は罪だ、目を背けるな。
そう言われている様な気がした



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