水先案内人 | ナノ


 適当に手を抜いて、ほどほどに試験を受ける。そうすれば程良い点数が取れるさ。なんて言えるのは余程頭のいい奴か、新たなる人生を歩んでいる奴だろう。俺は後者に当たる。上から数えた方が遥かに早い試験の結果をチラリと見て、その場を立ち去った。
 お騒がせグリフィンドールはなんでか頭もそこそこ優秀だったらしく、各教科に名を連ねている者が多い。例えばシリウス・ブラックやジェームズ・ポッターとか。その中にはもちろん、アガスティア・ブラックの名前も入っている。

「……100点以上って叩き出せるのね」

 主席が取れなかったのはその一言に尽きる。

「シリウスとお前同席かよ!やっぱりーー」
「それを言ったら流石に怒るぞ!?」
「それを言ったら吹っ飛ばす」

 掲示の前で騒ぎ立てるポッターに思わず反応してしまったのは失態だった。同じタイミングで、同じ様な事を叫んだシリウスと思わず目を合わせてしまい、慌てて向きを戻す。双子だなんてそんなおぞましい事、今更再確認されなくたって分かってるやい。
 シリウスも俺も、同点だったという事はほぼほぼ満点であった筈。それなのに首席ではないのはジェームズ・ポッターがなにかオプションをつけたからではなかろうか。少なからずヘマは踏んでいなかったので、恐らく妖精の呪文辺りだろう。まぁ、でも、少なからず母上が2人を比べる事は無くなりそうなので良しとするか。そう納得づけて、部屋に戻る。今日が終わればホグワーツでの1年間は終了し、次の学年となるからだ。部屋の掃除は今のうちにしておくべきだろう。

「来年の部屋割りはどうなるかな、と」

 今の同室者には本当に悪いが、コネ作りのために仲良くする気なんてサラサラない。なので、非常に居心地の悪い1年間になっただろうことはお詫びする。来年はもうちょい友好的にすべきか?などと悩みながら、誰も居ない部屋の片付けを黙々とこなすのだった。


 さて、今年と去年で違う事がいくつかあるので帰省の前におさらいしておこう。そのいち、魔法が一切使えない。どうやら未成年の魔法使いに特徴的なニオイ(原理はよく分からないが)を感知して魔法の使用を禁止しているらしい。前科持ちになりたくないのなら大人しく従ったほうがよさそうな案件だ。そのに、シリウスと俺に対する態度の違いがより明らかになったのはクリスマスで身に染みた。そのさん、来年からはレギュラスも追加される。憂鬱だ、おぞましい。なにが悲しくてシリウスと同一視されなきゃあいけないんだろうか。とっくの昔に兄弟愛だなんて放棄したけれど情はあるのよね、一応。多少なりとは悲しいのよね。
 そこまで考えてから思い息を吐き出す。どんなにイヤイヤ拒否しても時間は刻々と進んでいくものだ。現に今はキングクロス駅行きの列車の中、クリスマス休暇と違い全員が家に帰るためコンパートメントも窮屈に使わなければならない。

「入れてくれてありがとう」
「別に」

 俺も例外ではなく、同じ1年生の男女と同じコンパートメントになってしまった。何度か見かけた顔だし話しかけられた記憶はあるが未だに名前を知らない彼等である。スリザリンとグリフィンドールの組み合わせが珍しいがきっと将来的にゴタゴタが起きるからどうにかしておいた方が良いと思うよ双方とも。

「……こないだはごめんなさい」
「謝られるような事の覚えがないんだが」
「湖のほとりでシリウス達と喧嘩しただろう」
「……あぁ、アレか。気にしてない」

 そこでやっとクリスマス休暇のコンパートメントだとかハロウィンの女子生徒だとか、あと湖のほとりで一方的な暴力を振るったことに結びつく。そうか彼等はシリウス達と一緒にいる事が多いから必然的に俺とも関わってしまうのか。冗談だろ?やめてくれ。

「アガスティア・ブラックよね」
「だから何?」
「凄くクールでスリザリンでも近付けないっていうけれど本当は優しいのね」
「優しい? どこが」
「何度も助けてくれたり本から目を離して私と会話してくれるところよ」

 やってしまった、と言わんばかりに苦い顔をすればクスクスと笑われた。全部意識していない事だったものだから良い訳がうまく思いつかない。

「……俺は純血主義というより魔法界の視界の狭さが嫌いなんだ。だから自分に必要のあることはちゃんとやる。シリウスのせいで俺まで巻き込まれるのは避けたい」
「純血主義じゃあないの?」
「マグルにも素晴らしい文化があるだろう、それに純血もスクイブもヒトだろ?魔法が使えなくてもできることは沢山ある」
「あなたってスリザリンらしいけれどスリザリンらしくないわ。もっと詳しい話をしたいのだけれど、だめかしら?」

しゃべり過ぎた気もしないでもないがそこまで言い切って、もう一度口を開いた。どうせノーと言っても今後も関わりを持つ羽目になりそうだったので。

「友人になるのは嫌だ。余計な面倒に巻き込まれたくない。ただ……まぁコンパートメントだとか、隠し部屋だとかなら喜んでお相手しよう。それでもいいなら」

 これを根負けと言わずとして何というのか。きらきらと純粋な好奇心が浮かぶ瞳と、じっとりと威嚇するような、彼女の願いを聞き入れなければどうしてくれようかという視線に折れたんだから。

4つの目玉
きみはまことの友を得るだろう

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