水先案内人 | ナノ


 皆がウキウキする季節、バレンタイン。閉塞的な空間であるホグワーツでは、行事は非常に重要な役目を担っている。つまるところマンネリ防止だ。そんな訳で今日は非常に空気が甘ったるい。どこぞの校長がしもべ妖精に命じたのだろう、チョコレートが食卓に溢れる大惨事(他の奴らは大喜びだ)や、そこらで開かれるチョコレート、脱走した蛙チョコが鬼の如く振りまいてくる甘い臭いという意味がひとつ。
 もうひとつはそこらで節操無くいちゃつくカップルやこれを機にと開かれる大告白大会というもの、精神的にも物理的にも甘い甘い世界が広がっていた。

「つらいなぁ」

 独り身と甘い物嫌い、双方の意味で。こういう時こそカップラーメンとかインスタント味噌汁が役に立つのに俺はイギリス人だしここはホグワーツ。絶対卒業したら姿くらましておいしい食事食べに日本に行くんだ。静かなる決意をし、どうにかこうにか食事を胃に推し込める。あー気持ち悪い。すん、と鼻を啜れば噎せ返るほどの甘ったるさ。今日は必要以上に外に出ない事にした、あとハロウィンとバレンタインの反省を生かし、来年からは非常食を持ち込める工夫を考えよう。
 片付けるべき課題の優先順位を考えながら席を立つ。こんなことに現を抜かしているより、筋トレしてた方がモテると思う。あと課題をちゃんとやって、今後のテストに備えるべきだ。この学校のテストは1年を通して行った事全て、なんと全教科テストがある。今の内にやっておかないと、この体の頭も鍛えていかないとどんどん馬鹿になってしまうから。普段より騒がしい廊下を進んでいると、前の方からきんきんとした女子の声がしてきた。

「ひどいわ!こんなことをするなんて、あんまりよ!」
「アー…悪気は無かったんだ、こいつがぶつかってくるから!」
「お前がリリーにちょっかいを出すからだ!」
「何だと!?ジェームズに突っかかったのはお前じゃないか!」

 あっこれマズいヤツ。巻き込まれるやつだ。
 声の主を察して今来た道を引き返そうとしたが、よくよく見てみると赤毛の女子の服にはベッタリとチョコレートが付いている。いくらなんでも女子にこんな非道な真似をするとはいただけない。しかもなんか涙目じゃないか。やばい、いくら関わり合いになりたくないといっても愚兄が女子を泣かせるのはマズい。

「おい、何やってるんだ」

 ぎゃいぎゃい騒ぎが広まって、監督生が来る前にどうにかしないと。その一心で俺は厄介事に自分から首を突っ込んだ。すべてはそう、他の先生から寄せられるあの視線を防ぐ為に!

「うわっなんだよ!?」
「ちょっと黙ってろポッター。テルジオ、スコージファイ!」
「きゃっ」

 とりあえず拭い、個人的に甘ったるい香りが立ち込めるのはナンセンスなんで清めておいた。しばらくは服から泡がブクブク発生すること間違いない。

「あのさ、本当にこういう事はやめておいた方が良いと思うぜ」
「だって」
「言い訳するのは別に良いけど、この女子に謝った?」
「あ…その、ごめんよリリー。そのー熱くなって周りを見てなくて」

 カッカしていたポッターに質問すればシュン…と勢いがなくなる。お前はなんだケトルか何かか?その様子を見て、どうやらポッターがこの女子か、言い争いをしていたスリザリンの男子と口論してた際に手を振り回したんだろう。それで彼女のローブにべったりチョコを擦り付けたと。蛙チョコでも握り締めてたか?掌が溶けたチョコレートで汚い。

「紳士の欠片もないな。勝手に寮の点数を減らしたり問題起こすのは勝手だ、周りに迷惑かけずにひとりでやるんならな」
「………」
「一応消臭しとけば?スッゲー甘くて不快」

 正論だったのか特に突っかかられる事も無く終了。大人しいので退散しておくのが吉だ。ポッターと愚兄が静かな間にさっさと俺はその場を立ち去り、その日は部屋にこもって筋トレやら課題やらを黙々とこなした。

「あ、そういや誰だったんだ結局」

 名前すら聞いてなかったわ。思い出したのは寝る直前だった。

土曜日の昼下がり
至って平和な一日だったものでして

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