「うちの愚兄がすまない事をした」
「あ、あぁ…」
「俺はアレの愚弟に当たるんだが」
「知っている。僕もスリザリンだ」
「そうか」
思った以上に会話が続かないぞ。手当をしつつチラリと少年の顔を覗いてみたが多分彼は栄養があまり足りていないんだろう。この年にしては頬がこけており、顔色も青白いというか土気色というか病弱な色をしている。髪はべたついているし着ている服もちょっぴりみずぼらしい。言ってみれば若干不衛生な感じが漂っていて『いかにも』ってオーラが漂っていた。
「これで顔拭いたら?」
まずは煤で汚れた顔をどうにかして欲しかったので濡れたタオルを渡す。うん、顔は良くみられるしね。おずおずと受け取ったタオルで顔を拭き始めた事に満足し、俺は手当を続けた。
「…お前は」
「なんだ」
「どうして僕を助けた?」
「ハァ?」
いきなりの質問がそれかい、と心でツッコミを入れつつも優しい俺は対応してあげる。いやもう手当は終わりそうなんですがね。
「なんでって…そりゃあ身内の始末は自分でやらないと」
「それだけか?」
「それだけだよ。だって俺お前の事知らないし覚えられないし」
「本当に?」
「ウソ吐いたって良い事無いじゃん。正直寮とかもどうでも良いしあいつ等に絡まれてる事だけは可哀想だなーって思うけどさ。ハイ終わり、もう出て行って良いよ」
「あ、あぁ…ありがとう」
「どういたしまして」
納得のいかない顔をされても俺にはどうする事も出来ないんだってば。じゃあねと手を振り、彼をコンパートメントから追い出す。そして再び扉に呪文を掛け、いそいそとローブを被せてあった本へと手を伸ばしたのだ。人助けより本を読む時間の方が今の俺には大切な事だからね、人でなしで結構結構。助ける予定の無い少年を手当てしただけ十分じゃあないか。
こうして俺は小説内でも非常に重要なキーパーソンと遭遇した訳だが、当の本人は全く気が付かずに邂逅を終えたのである。
第一印象、とは
だって名前すら聞いてない
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