全く、実家だというのになんであんな息が詰まるような思いをしなければならないんだろう?母上は相変わらずだ。血管の心配をするレベルのヒステリーを起こしてるし、父上なんて空気扱い。シリウスには散々構われ、そこら飛んでるハエ並に鬱陶しかった。弟のレギュラスに至っては、俺をシリウスと同一視してるのかやけに視線が痛かった。クソ!なんで一番人間味ある会話したのが屋敷しもべ妖精クリーチャーだけなんだ!あの家、ハートフルな人間居ねーのか。俺が一番言える立場じゃあないけど。
ホグワーツに行く列車の中、書斎からパクって来た大きな本を開く。
魔法に触れてから早4ヵ月。一応貴族の名家ブラック家として周りの子供よりは早く魔法に接しては来たが、それでもペーペーなのには変わりない。一刻も早く煙草と酒と安泰を手に入れる為に、努力は惜しまない俺は早く頭の中に知識を詰み込みたくて仕方が無かった。ただ単純に面白いって言うのもあるのだけれどね。
本を読み始めてすぐ、外がドタバタと騒がしくなった。煩い生徒を諌めるのは監督生の仕事だろう、早くしてくれないかとイライラし始めた時だ。コンパートメントのドアが勢い良く開いた。
「……何か用か?」
開けた本人がポカンと間抜け面をしたまま動かなかったので嫌々ながらも言葉を紡ぐ。開けた奴――シリウス――を睨み付けながら。
「ノックぐらいはしろ、マナーだ。母上が、とか言うなよ。これが俺じゃなくって女性の、しかも着替え姿だったらどうしてたつもりだ」
「わ、悪い」
「謝る位なら最初からするな。行動で示すんだな。…で、何の用だ」
本を閉じてその上にローブを被せる。表紙を見られたら愚兄はともかく、後ろのお供が煩く喚くだろうと思っての行為だ。
さて、俺の居たコンパートメントに入って何をするか。
何となく奴の後ろに居る人物達を見て想像は出来るが聞いてあげる事にしよう。ジェームズ・ポッターと残り2人は知らないがどうせグリフィンドールだ。そしてポッターに襟首を掴まれている少年。新顔だな、見た事が無い。
「君には関係無い事だよ」
「それはどうかな、ポッター。お前が右手で掴んでる奴はスリザリンか?」
「なんでそんな事聞くの?」
「そいつが誰かはどうでも良いんだ、唇を切っているし、お前が襟首を掴んでいるからか、苦しそうな顔をしている。そしてお前等はノックもせずにこのコンパートメントに入ってきた。…暴行か、何かするつもり?」
こういう時だけは親譲りの端正な顔立ちで良かったと思える。整った顔で人を睨み付ければひっ、と情けない声がポッターの後ろに居る気弱そうな少年から聞こえた。
「今すぐその手を放してここから出て行けよ、俺今機嫌が悪いんだ。本を読む邪魔されてね、魔法の1発や2発食らわせたって良いんだよ、さぁ、早く」
出てけ。声には出さず口を動かして言えば、ワアッ!と蜘蛛の子を散らす様に、彼等は走って逃げて行った。アガスティアとして生まれ変わる前は殺人鬼やっていたんだ。こういう時に圧力を掛ければ、なんて事は分かっているのが強みかな。
どさり。襟首を掴まれた少年が床に座り込んだ。悪い事したな、なんて心にも思ってない事を考えてから一言。
「立てる?」
脅し文句のABC
興味は無かった。
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