あれから結局、気味の悪い鏡を見かける事は1度も無かった。再び出会ったら思い切りパンチして粉々に……なんて野望は簡単に崩れたのでした。そして今日は10月31日。日本ではコスプレパーティー乱痴気騒ぎといった本家とは大違いの仕様である、ハロウィンだ。この学校は魔法使いがたくさんいる訳で、当然のように魔法を使って変装したりお菓子を振らせたり、やりたい放題だ。悲しいかな教授陣もノリノリである。全くもって使えねえ!
「うぷっ……ニオイが甘い……」
地獄と化した食堂を後にする。さっきまで料理を前に、額からじんわり汗がにじませていた。今の顔は青汁を数百杯飲み干した後の様な顔になっている。つまりゲッソリしている。なんて大規模な嫌がらせなんだろう!
学校全体を巻き込んで大騒ぎするだとか考えてもいなかった、マジで信じらんねぇ。まぁ一応やる事はやってたんだよ、クリーチャー――しもべ妖精の名前だ――奴に頼み込んで弟の分を買いに行かせてた。お菓子の差出人は俺だって言ってないけれど、弟に甘いのは昔からだから仕方がない。家族だとかそんなの関係なく、兄は弟を守るものだと『昔』言われたから。
しかしどうしようかこの料理。イギリス料理の中でも美味しい方だと思うが、日本と最も違う点は全体的にこう、日本食の美点……薄味でない事だ。海外の飯濃いんだよ!もっとアジアの方とか、むしろインドの辺りに行けばまた味変わるんだけどこう、なんというか、しつこい!味がしつこいんだ!日本のチョコレートみたいに優しい味の方がまだ甘くてもマシだよぉ!なんだこの不快感。……と、今日はそりゃあもう機嫌が悪かった。素晴らしく機嫌が悪かったんだ。
「だから仕方無い、そう仕方が無いんだ」
「なっ、何を…」
「鬱陶しい視線にしつこい嫌がらせ。ハロウィンだから許されるってゆるっゆるふわっふわなその考え」
「ブ、ブラック落ち着こう。な?」
「どいつもこいつも学校ごと浮かれやがって。俺は講義が無かったら飯も食わずに部屋に居る予定だったんだ!クソ!」
「Mr.ブラック」
「シレンシオ!鬱陶しい!」
教授に見付かって減点されてもいい、とにかく黙らせたくてシレンシオを全員にかけてしまえばギャンギャン喧しい生徒たちは黙らざるを得なかった。お菓子と子供、たくさんのそれが押し掛けてきたかと思えば友達になろうだとか喧しいこと!どうせ親の入れ知恵だろう。残念ながら菓子が好きなのはシリウスの方だ。浮遊呪文でその辺吹っ飛ばしてやろうかな、なんて思っていたらいいものを見付けた。
「おいピーブス」
「ん?……オー!これはこれはあのブラック家の次男様じゃあないですかぁ!」
「そうだよ次男だよ。ハロウィンだからな、菓子はあげられんが代わりにホラ、こいつ等をピーブスに捧げてやろうじゃあないか」
「さっすがぁ!貴族サマは本当に太っ腹だねぇ!」
「イタズラ得意だろう?俺はそういうの考えるの苦手なモンでね」
「ほー。……嘘吐きやがって」
「ははは、何のことだか。じゃ、俺帰るわ」
ニタニタ笑う地縛霊と、にこにこ笑う俺。白を切って子ども達をその場に置き去りにし、俺は急いでその場を後にした。流石ずっと居座っているだけの事はある、ゴーストも馬鹿にできないね。でも俺は厄介者をどうにかしたかった、ピーブスは悪戯をする相手を探していた。良い取引だったとは思わないかね?
悪戯と戯言
めでたしめでたし。
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