我輩は狗である。名前はもう無い。
物心付いた時から誰かのために一生涯を捧げ、"運命の人"を待ちわび尚且つ主とする犬畜生にも劣る素晴らしい奴隷精神に高笑いする程嫌悪感しか持たず、誇りになんか一切思わなかった。かの《戦争》に巻き込まれてゆっくりと死んでいく時にようやく私は笑えた気がした。
『来世では幸せに生きて運命の人と出会えますように』、だなんて思ったんだ。元《殺し名》序列第2位の闇口集の癖して。
だから。
「ばちが当たったのかな」
叶うはずが無かったんだ、まず前世の記憶を持って転生するのが可笑しかった。父親は知らない。母親は売春婦。愛人の借金のカタに私が売られたのはかなり昔の話。今では立派なメイド長兼簡単な性欲処理やってました、えぇ5分前までは。
不気味な位音が聞こえない館をバタフライナイフを忍ばせながら歩いていく。賊が入って早5分。
「もしもし、旦那様」
「………」
「入りますよ」
性的にしか私を見なかったハゲデブ死ね、ではなく旦那様の部屋をノックするが返事はない。嫌な予感しかしないが一応安否を確認するため扉を開ければむせかえる程溢れ出す血の臭い。と、嬉しくない打撃の嵐。全てをかわしながらバタフライナイフで応戦するけれどこちらも避けられた。
「オイお前、何者だ」
「館のメイドです。あなた方は」
「幻影旅団だ」
「旅団…」
幻影旅団、別名蜘蛛。A級犯罪者の集いで盗賊の輩、だったはず。でも旦那様はそんなに金持ちでも珍しい物も持っていなかった筈なんだけどなぁ。
「用件は何でしょうか」
「"黒曜"を盗みに来た」
「は?何ですかそれ」
「黒髪、透き通る様な白い肌、精密な作り…噂だとビスクドールと聞いた。ここの家主が自慢していたのを聞いて欲しくなった」
すでに周りは囲まれている。真ん中のオールバックの男の話を聞きながら可笑しな点を考えていく。旦那様の側に一番居たのはこの私、ビスクドールなんて買ってない。確かに自慢話を良くする狸だった。だが自慢話の内容は、
「…私だ」
「何が?」
「多分"黒曜"とは私の事だと思われます」
「冗談は通じないよ、メイドさん」
「旦那様のお側に一番近かったのは私、ビスクドールなんぞ購入しておりません。メイドで黒髪なのは私だけ、自慢話で自分の話をされ続け辟易しました」
「なんだと…!?なぁシャル、オメー写真は?」
「今だすよ。ハイこれ」
女の人2人にサイドを固められながら写真に群がる旅団を見る。正直携帯に群がるA級犯罪者って中々見れないよね普通に暮らしていたら。
「確かに似てるな、目元とか黒子の位置とか」
「団長この子ウソは言ってないみたい」
「そうか、よし。お前を連れて行こう」
「ですよねー」
平和、だなんて裏世界に籍を置いていた、しかもプロのプレイヤーに一番そぐわない言葉。叶うなんて信じていた私って本当に馬鹿ですね。私はこれからも一生自分自身の、一族の性に縛られ続けるんでしょう、ずっとずぅっと。でも。
「そういえば"黒曜"、お前の本名は?」
「…名前はございません、私はただの犬畜生ですから。ポチでもタマでもどうぞお好きな様にお呼び下さいこのペド野郎共」
飼い犬だって偶には手を咬みたくなる。
呪えども殺せず
あぁ、恨めしい。
―――――――
遅くなりました、本当にすみません!
闇口って崩子ちゃん達含めて3人くらいしか本編出てきてないんじゃないかと思い立ち闇口主で×狩人してみました、転生やらトリップやらで趣向が違っていたらすみません…
お持ち帰り等はうらめさんのみでお願いします。
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