珍しいお客様が来たな、と思う。
「やぁああああちゃん。今大丈夫かい?」
「何してるのさ双識くん」
「いやさ、髪切って欲しくて」
零崎双識はれっきとした殺人鬼だ。かという私は普通の美容師だ。何故彼の本性を知り、そして私が殺されていないか。学生時代、私は彼の殺人現場にたまたま遭遇した。血まみれでスーツ姿で針金細工みたいで最初見た時なんだこの変質者は、と呟いた事は謝る。見つかってしまったからにはと血まみれの鋏が私の首を狙ったのを見てあぁ死にたくないなぁと思った時だ。
本当に運が悪かったとしか思えない。私は今の今まで友達の家で浴びるほどビールを飲んでいたのがいけなかった、寸での所で私は胃の中身をアスファルト目掛けてぶちまけた、なんたる失敗。変質者な所を除けばイケメンな男性の目の前でリバースする光景で殺意は萎えてしまったんだろう。家まで紳士的に送ってもらい朝まで介抱され、その後お礼と称し会ったりなんなりしていたらすっかり友達になっていた。びっくりである。
「で、どの位切りたいのさ」
「んー、結構バッサリ?肩につくかつかないか位まで切っていいや」
「そりゃなんでまた。まぁいいけどさ」
お客様の要望には応えます。私より長く、腰まであった髪を何故こうも勢いよくバッサリと切ってしまうんだろうか。理由は聞きたかったけれど聞いちゃいけない気がしたのでやめておいた。腰のポシェットから愛用の鋏を取り出し、艶やかな髪に差し込む。
しゃき、しゃきしゃきじゃきん。滑るように、流れる様にあっさりと髪は地面に落ちて行く。その光景が私には少し物悲しく感じた、普段はそんな事思わないのに。
「そうだ双識くん。私隠してた事があったんだよ」
「怒らないから言ってみなさい」
「実は再来月に結婚することにしたんだ」
「…ああああちゃんが?」
「うん。メールしようと思ってたんだけど」
「…そうかい、おめでとう。まさかああああちゃんが結婚できるとは思わなかった」
「どういう意味だこら。変態には言われたくないな」
「目の前でいきなり吐いたああああちゃんには」
「喋ったら間違えて耳切っちゃうかも、動かないでくださいねー」
さらりと黒歴史をほじくり返した双識くんをスルーし、じゃきじゃき髪を切っていく。さっきからなんなんだろう。落ちて行く髪の毛を見る度にどこかがちくちく痛むのだ。
「じゃあそんなああああちゃんに僕も隠していた事を言おう」
「何さ何さ」
「失恋したんだ、こっぴどくフラれてね。我ながら女々しいと思うけど髪を切りに来たんだ」
「…双識くんがフラれたの?」
「そうだよ?いやぁ実に潔くフラれたものだ」
「…私は双識くんの事好きだよ、かなり」
「ありがとう。まぁ気持ちの整理をしたくて髪も切りたくて。僕もああああちゃんの事好きだよ」
「変態に好かれてもなぁ」
「傷心なんだから優しくしてよ」
なぁんだ。双識くんの答えを聞いて少しちくちくが取れた気がする。この物悲しさは、僅かな痛みは失恋した時のわだかまりと一緒じゃないか。悶々としていた考えが少し晴れて私は鏡の中の自分に笑いかける。…でもどうしてだろう、私は失恋なんかしていない。双識くんの悲しみが私にも伝わったのだろうか、なんてね。
明日私も髪を切ろう。
ばっさり、ふとそう思った。
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フーゴ叉は双識さん夢…との事で双識さんを書かせていただきました。フーゴはどうしても夢にならず…書けるものならば一巡後を書いてみたい物です、力量が欲しいですね!上の文章も何だか分かりづらい文章になってしまっているかもです(´・ω・`)
遅くなりましたが1周年おめでとうございます!
お持ち帰り等は永久さんのみでお願いします。
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