確かにこいつ等は死んでも後が居るだろうし、替えも効く。分家の分家っていう位なんだからそりゃあ数は多いだろうさ、現に数に押されて戦争では本当死ぬかと思った事もある。だけどさ、出て来て良いタイミングと悪いタイミングってモンがあるだろうよ。お前達が出て来た以上俺は、
「憶えているか零崎逆識、俺達の事を」
「匂宮の、分家だろ…俺達にちょっかい出した」
「貴様なんぞに憶えられていた事に酷く気分を害された、最悪だ」
「今回は私めも参加しました。初めまして」
「早速ですが何か言い残した事はありますか?」
「………」
早蕨刃渡、薙真、弓矢からなる早蕨唯一の成功品。憶えているさ、憶えているとも!ただ、今何を言えばいいのかが分からない。何を考えていいのかもわからない。口の中がパッサパサで掠れた声が出るだけで、沢田が何か言っているらしかったけれど聞こえない。眩暈すら、感じた。
「ありませんね。≪1周目≫より若い様ですが手加減は一切しませんので」
「全力で貴方を殺しにかかります」
「動かぬならば、こちらから」
長男と次男がこちらに向かって走り出し、長女は矢に手を掛けた。避けなければ、でも体が強張っていて動かない。沢田が叫んでいるのか?何かが脳裏に映っていく。
落ちた手が2つ。血塗れの鋏、誰かの泣き叫ぶ声、動かない。誰の?何時のだ?―――そんなのは解りきっていた。
「東君!」
我に返り地面を強く蹴ってその場を離れたが息苦しい、嗚呼息苦しい。どくり、全身が何かを求めている、顔を覆う何かを今すぐに剥がしたい。思うがままに、息を吸いたい!
「どっちだ早蕨」
「何がだ」
「どっちだっつーてんだよ俺は」
憶えていたか。あぁ憶えていたさ!忘れるなんて、忘れたかったけれど忘れられなかったんだ!何遍自分を責めた事か、俺があの後どれだけ思い詰めた事か、初めて≪この世界≫で会えた時、どんなに救われた気持ちになった事か!
「何を言って」
「お前等の内、どっちが、双識を」
「危ない!」
「っ!?」
「殺したかって聞いてんだ、よォ!」
叛逆戦鬼を振り上げ、感情のままに薙ぎ払う。潰せはしなかったが何処ぞに引っかかってくれたらしく鈍く光る側面に少しばかりの黒が付いていた。
「…ひ、ひひひひひ」
「!?」
「まーどちらでもいいや。どうせお前等皆殺しだ、仇為したものは全員、殺す」
叛逆せよ、殲滅せよ、何も考えずに鬼に成れ。仇為す者は皆殺し、例え目の前に居る人間が女赤子であってもだ。俺の平穏を、やっと手に入れた俺の大切な物を壊してくれやがった野郎共に正々堂々?そんなもの関係ないね、犬にでも食わせておけ。抑えきれなかったこの感情に名前を付けるならば何がいい。剥き出しになったソレに対し俺は舌舐りを1つ。さぁ始めようじゃあないか。頭の中はすでに赤、一色だった。
「零崎を」
重く重く重くこれ以上かつて無い程に重く。
「開始する」
メガホンで叫ぶはただ一言
(視界はあの日と同じ赤色だった)
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