サンタなんて存在、この年になってまで信じている訳ではない。居たとしてもこんな鬼にプレゼントを渡してくれる筈もない。…でも、もし本当にサンタが居て、俺に何か与えてくれるとしたら。
何もいらないなんて言えなかった
朝起きて、着替えをしてからリビングに向かう。毎度の事ながら人気のしない、がらんとしたリビングを見る度に俺は思う―――やっぱ夢でも見てんじゃないのか、と。
今から丁度1ヶ月前に俺はとある事件を起こした。被害は最悪、後始末もせずにその場を離れて行ったから大丈夫かなとは思ったが後から調べてみればきれいさっぱり、何が起きたかを隠蔽されていたので多分問題ないんだと思う。俺が調べて何も出なかった所辺りからあちらさんが本気を出していたんだろうって事も分かった。
唯一の生き残りである俺が連れられてきたのは京都市内にある変哲もないただの一軒家。今は忙しい、落ち着いたらまた連絡するから。…そう彼は、零崎双識は微笑んで俺と家を後にした。そして昨日まで全く連絡の1つも無かったんだが。
「いきなり何なんだよ、ったく…」
がっしゃがっしゃ音を立ててクリームを泡立てる。どこのアラームが鳴っているんだか、ピピピピ喧しい。キッチンをフルに稼働させて俺は何十人分だよ、と叫びたくなる量の食事を作っていた。
[もしもし、私だよ。実はクリスマスに間に合う様に用事を終わらせられる目途がついてね…いきなりで悪いけれど食事を用意して欲しいんだ、私も何か買っては行くけれどどうせなら久し振りに手料理を食べたくて。お金は最初に教えた場所にあると思うからそれで材料は用意してね、じゃあ早く帰る様に頑張るから、また後でね]
…と、珍しく話が脱線しなかった上に気持ち悪い事を言わなかった電話のメッセージに気付いたのは昨日。どうしたんだろきもちわるい。そう思っても久々に会えた――ざっと15年は会う事が出来なかったので仕方が無いいっちょ一肌脱いでやろう。そう俺は考えて料理をせっせと作っていた。
「………よし!俺天才!」
リビングをクリスマスチックに飾り付けをして、ケーキも豪華にデコレーションして、料理は温めれば即出せるしノリに乗ってツリーも凄く煌びやかになっている。…やり過ぎた?でもこの位はしゃいだっていいよねー俺一応小学生ですし?小学6年生ですしねぇ。時刻を見ればアレ?可笑しいぞもう20時過ぎてる。あと4時間でクリスマス終了のお知らせなんですけど。…ま、ひとりで過ごすクリスマスも中々……な訳ない。別に良いけどさぁ……はぁ。
勝手にテンションあげて勝手に落ち込んでいたその時。ピンポーン、とインターホンが鳴った。誰が来たんだ、カメラを見ようと立ち上がって―――
「メリークリスマァァァス!!!」
バァンッ!!!
「………へ?」
リビングのドアが、吹き飛んだ。
「あ、やり過ぎた」
「…え?え?は?」
「あーあ、何やってるっちゃ」
「でもサプライズには丁度良いんじゃないかな」
「うにー、流石だよねぇ」
「だったら僕の人喰いでも良かったじゃーん」
「バッカ、掃除するの誰だと思ってるんだよ」
「………逆識?」
「うん、悪くない」
「いや悪いだろうが!」
ハッと我に返って叫ぶ。いや俺掃除しないから!勝手にレンジで温めて料理を並べている奴も何やってるんだ!ありがたいけどさ!てか、なんで。
「ビックリしたかい?」
「え、状況が読み込めない」
「ノイ、君が最後だったんだよ。見付かるのが」
「見付かるって、」
「最初はビックリしたっちゃ。気が付いたら赤ん坊になってて」
「死んだと思ったら強くてニューゲームとかさー」
「あっちこちに《2周目》始めた奴が居てビックリしたよ」
「…俺だけじゃ、なかった?」
「そうさ、あたしだって《2周目》さ」
「折角だから交流のあった人達で集まろうって思ってさ。この発案は確か」
「俺だ。どうせなら壮大に、だろ?」
「さっすが遊び人は考える事が違いますよねえ。玖渚まで使ってとことん隠すんですから」
「ごめんねすーちゃん」
わらわらとやってきて、次々に声を掛けてくる面子。中には前敵だった奴とか、死んでしまって会えなくなった人とか、たくさん居て。
「…ゆめ、じゃないよな」
「あぁ」
「皆生きてる、んだよな?」
「勿論だ」
「そうか。…そ、か」
我慢出来なくて、いつの間にかに切り分けられていたケーキを口に放り込んだ。あぁおいしいよクソ。甘ったるいわ。急いで食ったから少し噛んだじゃないか、痛い。痛いから、夢なんかじゃない。生きているから、痛いのか。
「これからはずっと一緒だよ」
「ありがとう」
「来年も、再来年も一緒だから」
もうひとりじゃないんだな?
「おかえりなさい、逆識」
「…ただいま」
それが、とても嬉しくて。
あたたかな涙が零れ落ちた。
かぞくとともだちがいてくれて、ひとりじゃない。そんなまいにちをのぞみます。
メリークリスマス!
121225
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