03
 アローラ地方へ帰って来てから早幾日が過ぎてウィリは早くも暇を持て余していた。というのも、マリエ庭園で会う約束をしていたククイから断りの連絡があったからだ。どうやら研究所近くに意識を失っている少女が倒れており、そちらの対応を優先すると。人命救助はすべきであり、ククイの研究所があるハウオリシティの外れはハウオリビーチより遥かに訪れる人間は少ない。そこで発見されたとなれば事件性は高いと思われるので起きた問題を早急に片付けて欲しい。なので今日1日の予定がなくなってしまった訳である。

 呑気にポケマメを頬張る自身のポケモンをぼうっと眺めながらウィリは今後の行動をどうするべきか悩んでいた。ククイは埋め合わせに今度マリエの方まで向かうと言い残してから電話は繋がらない、別にこちらへ来るのは構わないが心の準備をしなくてはならないので早めに連絡をしてほしいなと思う位だ。問題はアローラ行きの船でも考えていた、居住地だ。居心地の悪さを我慢してモーテルに泊まるべきか。それとも長い滞在になるがポケモンセンターで過ごすか。いいや、どれもこれもあまり好ましくない案ばかり。最後に残った案も決断を渋るものではあったが、その2つの案より遥かに良く思えてくるから不思議である。トランクの中身に押し込んでいて良かったな、心の中で過去の自分に称賛を送りウィリは立ち上がった。

「デリバード、山に帰ろう。ケケンカニも」


 地域センターにてライドギアの手続きを済ませてからマリエシティを出る。10番道路からホクラニ岳に行くのも候補に挙がったが、それはまた後日で構わないだろう。リザードンで空を飛べばすぐ目的の場所に着くだろうがウィリはそれを選ばず徒歩で移動することを決めていた。案外久方ぶりの故郷に思いを馳せているのかもしれない、苦笑せざるをえなかった。
 呼び出したバンバドロにキャリーケースと自分を乗せて12番道路を進んでいけば懐かしい風景が広がり、ほうと感嘆の息を吐いた。乾いた空気に土埃、そして迫りくる岩肌むき出しの大地。ギアを持たない頃は裏ウラウラ海岸でひたすらポケモンとじゃれ合っていたり、流れてきたり砂に隠れているほしのかけらを集めたものだ。忘れていた思い出が次々と脳裏に浮かび上がってきた。自分の知る景色そのままであることが何故かとても嬉しく思え、辺りを見回していればトレーナーと目があうことは自然な事。申し込まれたバトルを快く受け、道の端にバンバドロを停めて相手になる。盗まれても特に問題の無い荷物ばかり、それでも流石に放っておくのもどうかと思うので見張りのポケモンを出してから相手に向き合う。

「ダブルバトルでいいのかな」
「オネーサン手持ち2匹以上ある?大丈夫?」
「問題無いよ、楽しませてね」

 見た目はいわゆるバッドボーイとバッドガールの様だ、しかしこちらを気遣ってくれる辺りなかなか優しい性格なのも好印象である。にやりと口元を歪ませ、モンスターボールを繰り出す。まばゆい光の中から現れたのは幼い頃からのパートナーであるデリバードと、アローラを飛び出し向かった先でゲットしたバイバニラ。2匹とも公式戦ではない久々の野良バトルにすっかりやる気を出しているらしく張り切った目をウィリに向けてきた。

「好きなだけ暴れて。お兄さんとお姉さんが相手してくれるから」
「バイバニラ初めて見た!」
「アローラの人じゃないんじゃない?ホラ行くよ」

 相手が繰り出してきたのはヤンチャムとワルビル。まだまだ進化の余地を残している可能性を秘めしポケモンだ、手持ちのポケモンを育てるいい相手になったのかもしれないとそっと思ったが、今はケケンカニと一緒に荷物を見張っている。また今度の機会で良いかと思い直し今はバトルに集中する事にした。挑戦者を相手にするかの如く、きりりと気持ちを引き締めて鋭く指示を出した。

「バイバニラに向かってやまあらしだ!」
「デリバード、ヤンチャムにねこだましで動きを封じて!」

 同時に両ポケモンに指示が下る、が先に動いたのはデリバードだった。降り注ぐ岩石を軽々と避けヤンチャムの目前まで迫り強烈なクラップ音が辺りに鳴り響き、音に怯んだヤンチャムは目を白黒させている。間髪入れずにデリバードは構えを取り、掛け声と共に技を繰り出した。

「そのままつばめがえし、バイバニラゆきなだれで畳みかけろ!」
「バニャー!」
「ワザとがんせきふうじを受けたのはこのため!?そうはさせないよ、噛み砕けワルビル!」

 既にワルビルの放ったがんせきふうじを受けていたため、つらそうな顔をするバイバニラだったがそれも一瞬。温暖なアローラの気候にはそぐわない大量の雪を瞬時に精製する。ヤンチャムへのつばめがえしが無事決まったデリバードが後ろに下がった瞬間に相手のポケモンの頭上から容赦なく雪が降り注いだ。
 粉雪が勢い良く舞い上がり、視界が遮られる。雪慣れしているウィリ達はまだまだ動けるがきっとアローラ育ちであろう相手はこれ以上動けないだろう。ウィリの予想した通り視界が晴れた先にはすっかり目を回しながら雪に埋もれてしまったヤンチャムとワルビルがいた。

「バトルは終わりかな、今日はわざ外さなくて安心したよ」
「デリ?」

 慌てて雪から互いのポケモンを救出する彼等を手助けしに入り、バトルは終了となった。積もる雪はきっとすぐにアローラの温暖な気候によって大きな水溜りと化すだろう。ボールにポケモンを戻したふたりからささやかなファイトマネーを頂き、共に12番道路を抜けた先にあるオアシスまで一緒に歩く事となった。

「ポケモンセンターには行かないの?」
「ポケセンはちょっと……ねえ」
「あんまり行きたくないっつーか、ねぇ」
「ふーん。まぁその気持ちも分からなくないけれど」

 オアシスにある仲間の元でポケモンを回復させる、と言っていたバッドボーイとバッドガールはウィリの質問に対して渋る様子で言葉を返す。ポケモンセンターに連泊しくないが故にこうして目的地に向かっているため思わず同意してしまう程だ。

「オネーサン観光客でしょ?ポケセンに泊まらないの?」
「観光と言えば観光なんだけれどね。野宿してる方が遥かにマシだよ」
「島巡りの時期でもないのに野宿なんて珍しいなぁ。どこで?オアシス?」
「オアシスもちょっとなぁ。水場があるけれどもっと奥」
「へ?」

 キャリーケースを叩きながら何とでも無い様にウィリは言い放った。だがウィリは子どもの頃から入り浸っていた場所である事や、つい先日までシンオウで最も寒い町で生活していたからこそ問題無いと思っていたのであり、アローラ生まれアローラ育ちであるバッドボーイ達からしてみれば常識的に考えられない選択であったのだ。

「ラナキラマウンテンの中だよ」

 何故、そんな過酷な場所で野宿をするのか。手前にあるポケモンセンターに宿泊しないのか。何なんだこいつは、と奇異の目であんぐりとウィリを見つめるが当の彼女はすました顔で前を見据えるのみ。オアシスでウィリと別れた後、呆然とした様子でキャンピングカーに戻った彼等は仲間――アローラ地方で厄介者の集団とされているスカル団――におかしな女とバトルをした旨を伝えた。

「あの人、ラナキラマウンテンで野宿するっつーヤバイ事言ってたんだけど」
「マジで?寒いのに?なんで?」
「こおりタイプ使いだったかじゃね?バトルに出してないだけでケケンカニ居たし……」
「観光客じゃないでしょ、ケケンカニ持ってるならアローラ出身じゃん」

 そこでバッドボーイは思い出す。確かにケケンカニは基本的にアローラ地方の固有種であり、他の地方では見かけない筈だと。なんでそこに気が付かなかったんだろうと思いハッとする。

「でもさ、Zリング持ってなかったよな?」




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