大人になる
「アマージョがいるから大丈夫だよ。たまには手紙も出すから」涙ぐむ母と心配そうに忘れ物が無いか聞いてくる父から生まれた僕は、それはもうおっとりとした性格だと思う。もう息子も良い年なんだから子供離れしない?と提案するがイヤイヤと断られてしまえばもう何も言えない。呆れた視線を投げかけるアマージョに苦笑しながら見送りに来てくださった恩師と握手を交わす。
「いやー、スイバがいなくなるのは寂しくなるのぉ!アローラでも元気にやっていくんじゃぞ」
「またカントーに遊びに来ますよ、ナッシーの様子も報告するので是非オーキド博士の意見をお聞きしたいなぁって……。グリーンくんもアローラに来たら連絡してね」
「パスが取れたらレッドと行くから宜しくな」
「…………」
相変わらず顔が整っている友人と無口な友人も見送りに来てくれるだなんて友人に恵まれているなぁ、と思わざるを得ない。なんたってレッドくんがシロガネ山を下りてクチバの港まで見送りに来てくれるんだ。グリーンくんもトキワジムを半休にして僕を見送りに来てくれるしカントーを離れるのがさみしくなってしまう。
幼い頃にカントーに引っ越してきた僕と仲良くしてくれたのがレッドくんとグリーンくんであり、知り合ってから半年後にはポケモントレーナーとしてマサラタウンを発ってしまったけれどそれからずっとの付き合いだ。僕は彼等のように高みを目指した訳では無かったけれど、オーキド博士に憧れて今日まで努力し続けてきた。その結果、タマムシ大学の卒業論文として発表したナッシーについての論文が評価されてアローラにて本格的な研究をすることとなったのだ。
「そんなシケた顔するなって!お前がバトルツリーまで来ればいい話だろ?」
「えっ?僕はバトルあんまり得意じゃないってふたりとも知ってるじゃないか」
「アマージョッ!」
「うわっやめてよアマージョ痛いじゃないか」
僕の心を読んだのか、グリーンが笑い飛ばす上にしっかりしろとアマージョが脛を蹴ってくる。バトルは昔っから苦手でよくアマカジと泣いていたのにすっかり彼女は強くなってしまった。弱いトレーナーでごめんよ、と心の中で思いつつアマージョをなだめる。
「アローラにはわしの従兄弟が居るから何かあったらナオヤを頼りなさい」
「はい。一段落付いたらメールを送りますね」
「半年後までにはそっちにいくから泣かずに待ってろよ」
「もう泣かないよ、ねぇアマージョ」
「ジョ!」
「……アマージョ、スイバを任せた」
レッドくんまでそう言うものだからついつい苦笑いを浮かべてしまう。そうこうしている間に船の出発時刻を知らせる汽笛が鳴ったので僕は急いで船のデッキに向かった。アローラ地方行きの船に乗り込めば乗務員に色とりどりのテープを渡される。あぁ、僕はポケモン達と一緒に新しい世界へ行くんだ。
体に気を付けて、連絡をするんだぞ、達者でなといろんな声が聞こえてきて、もちろんという意味を込めて力強く手を振る。船の出向と共に陸地との距離が開いて行き、手にしていたテープがするり抜けていった。
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