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それは春の日差しがぽかぽかと暖かい日の事。前回のお仕事でギトギトになってしまった曲弦糸のお手入れをする僕は背中をノブナガに預けていた。僕の後ろでは同じく刀の手入れをするノブナガ。のんびりと過ごしていると、ずどどどどど。物凄い音が遠くの方からこちらへと近付いて来る。何事だと顔を上げればナイスタイミングでウヴォーギンとフィンクスが雑誌を手に部屋に入って来た。まーた3バカか…なんて思ったけれどノブナガはずっとここに居たし今回は3馬鹿トリオって訳じゃなさそうね。

「煩いよー、パクやマチに怒られちゃうよ」
「悪い悪い!いやーハナに聞きたい事があって」
「悪ィとか思ってねーだろお前等」
「まぁまぁ、んでハナ。お前ジャポン人だろ?」
「そうだけど?」
「この、"オハナミ"って行事はなんだ!?」

質問の内容に思わず目が点になる。ノブナガを見てみれば彼もぽかんと間抜け面だった。

「また…なんでそんな雑誌持ってんのよ」
「シャルが殺ってきたヤツの家からパクってきたんだと」
「どれ見せてみろ。『花見・芸者・天麩羅〜ジャポンの見所大特集!〜』…なんつーベタな内容だこと」
「親日家ならもうちょっと良いモン転がってただろうに…ジャポンは案外地味そうな物が価値高いとかあるからね、気を付けなよ」

パラパラと雑誌をめくって内容のベタさに思わず苦笑いになる僕。カッカッカと笑うノブナガは放っておいて、とりあえず説明しましょうかね。

「花見ってのはジャポンの伝統的な風習でね。サクラって花を見ながら春の訪れを噛み締める行事なんだよ。まぁ静かに見てるだけじゃなくって酒飲んだりご飯食べたりで宴会騒ぎになる事がほとんどだけど」
「酒!?」
「メシ!?」
「ちなみにサクラそっちのけで食べたり飲んだりしてる様を表す諺もあるからね。今の君達みたいなのが」

こいつ等絶対花見ずにドンチャン騒ぎしたいだけだろ…とため息を吐けば挙動不審になってる彼等。分かり易過ぎてからかう気力も無いよ。

「サクラは綺麗なんだけどねーこの辺りには咲いてないんじゃないかな?元がジャポンの固有種だし」
「オレも見たのは数える位だしなァ」
「という訳で花見はしません」
「ケチだぞー」
「ハナミしたっていいじゃねぇかー」
「花見ずに酒飲むのはいつだって出来るでしょうが。でも、うん。サクラ久し振りに見たくなったよ」

基本的に春が嫌いな僕が何度も見たくなる花、桜。魔性の花なんじゃあないかって何度思った事か。

「サクラには面白い話があってね、ジャポンの文献に書かれているものなんだけれど。サクラってのは満開になると物凄く綺麗なんだ。そのあまりの美しさに不安と憂鬱を抱いた青年はこう思ってしまったんだよ。『こんなに美しく咲き誇る桜の下には、死体が埋まっているに違いない!』…ってね。サクラの花弁は淡いピンクなんだけど綺麗な色を出す為には人の血が養分になっている、なんて話さ。フィクションと言われたらそこで終わりなんだけど、僕はこの話が好きだよ」

特に夜、人気の無い所で桜の木の下に立っているとそれが実感できてね。本当に何人か埋めてやろうか、なんて思ったさ。最後に桜を見たのは皆が生きている時だから結構昔になるのか。大切な人と見る桜は絶景としか言えないよ。もう過去になってしまったけれど。今の家族も昔の家賊も僕は大切にしているつもり。

「だから君達にもいつか見せてあげたいなー満開のサクラ。その為なら僕ちゃぁんとサクラに養分与えて、鮮やかなピンク色の花を咲かすよ」

そう言えば笑ってくれるこの人達が僕は大好きだ。こうやって愛している間ならば言うだけタダだって思うの。だってどうせ叶わない事でも言うのは自由じゃない?もしも実現出来たらそれはそれで嬉しいなぁ。

不鮮明な約束
(春の陽気に紛れてゆく嘘)

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