私はあなたになりたいのだ。

例えば、その大きな手のひら。温かいその手のひらにはたくさんの人達を救って来たのだろう。悲しみや苦しみを拭ってくれるその手のひらはまるで魔法のように私を魅了する。自分の手を広げても彼の大きな手のひらには到底似つかない。ああ、私も幸せを包み込めるそんな手のひらになりたい。

私はあなたになりたいのだ。

例えば、その身長。あなたは私より背がとても高いから視野が広く見えるだろう。背が低い私は視界が狭すぎて景色がちっともよくない。足元ばかり見ているから人の顔を見ることも空を仰ぐ事さえも忘れてしまうんだ。ああ、いつでも上を向き、青空を謳歌するあなたに私はなりたい。


「そう、私はあなたになりたいの」


お前はいつもオレを見るなり、そう口にする。その度に息が出来なくなるほど苦しくなるんだ。オレはお前が思っているほど出来た人間ではない。

「オレはね、お前になりたいんだ」

例えば、弱い部分を見せられる正直さ。弱さを隠して感情まで無くしたオレにはお前が羨ましくて仕方ない。涙を流そうにもどうしたらいいのか分からないんだ。

だが、それは忍にとっては好都合なことなのかもしれない。感情なんて持ち合わせていたら忍なんてやってられない。そうやって気持ちに流されて失った仲間達をオレはたくさん見てきた。情けないことだと思う。だが、心の片隅ではそいつらが立派に思えてしまう自分もいるんだ。

『カカシはどうしたいの?』
『私は、どうすればいい?』

そうだな。じゃあお前とオレで痛みを分け合おう。お前がオレにはなれないように、オレもお前にはなれない。お互い欠けている部分を補い合って一緒に生きていけばきっとうまくいくと思うんだ。

そしたら痛みも喜びも半分ずつ、半分こだね。

彼を真似る事で彼の苦しみを全て飲み干すはずだった。何も出来ない事は愚か、彼の優しさに甘えてしまう私は無能な人間だ。頬を伝う涙は彼の代わりに流しているものなのか。それとも自分のためか。今は分からないが、優しく笑う彼を見て、そっと頷いた。




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