「誕生日には何が欲しい?」そう聞かれて答えたのは「いつもの日常が欲しい」だった。

彼女は一瞬驚いた表情を作るとすぐに笑みを零し、「それで良いの?」と訊ねた。オレは強く頷く。

「生きているだけで幸せだから、これ以上に望むものはない」

彼女は納得していない様子でオレを見たが、何も言わずただ黙って頷いた。
誕生日にはプレゼントも祝福の言葉もない、いつもの日常をただ過ごす。
この年以降の誕生日からは、いつも通りの日常を過ごすことが恒例となった。
別に寂しくはなかった。それが、自分の幸せのあり方だったから。

数年後の9月15日。無事に一日が終わったあと、ベッドに横になり目をギュッと閉じた。暗闇が引きずり込むのは、苦しい記憶。フッと現れた記憶から逃れようと今日の出来事を必死に思い出した。
今日も、幸せな一日だったな。夕飯の秋刀魚の塩焼きと茄子の味噌汁、美味しかったな。瞼の裏側で今日の出来事を思い出しては、クスッと笑みが溢れる。

「…カカシ、寝た?」

彼女の声が背後で聞こえ、咄嗟に寝たふりをした。しばらくしたあと、彼女がオレの背中にピタリとくっついて息をする。布越しに伝わる熱があたたかく、くすぐったい。

「カカシ、誕生日おめでとう」

ささやくようにして言われた言葉にジワリと、幸福感が胸に滲んだ。

誕生日にはいつもの日常が欲しい。

言いながらも、オレは彼女のこの言葉を毎年待っていた。本当はオレのために毎年誕生日に好物を作ってくれていることも知っていた。オレが寝た後にこうしてくっついて祝福の言葉をささやいてくれることも、全て知っていた。生まれたことを感謝してくれていることがとても照れくさいのと同時に揺るぎなく、温かい。

毎年、彼女の言葉を返すことなく寝たふりをして次の日を迎えてしまうけれど、今年はなんとなく、なんとなくだけど彼女に反応を示したくなった。寝返りを打ち、彼女を抱き締める。

「カカシ、起きてるの?」

首を横に振った。もちろん彼女は寝たふりに気が付いているだろう。

「そう、寝てるのね」

ジン、と目頭に熱いものを感じる。優しい嘘も、頭を撫でる手の温もりも全部、離したくないなぁ。

「カカシ、生まれてきてくれてありがとう」

その言葉に救われながら、オレは生きることができる。愛の欠けているオレに、彼女はいつでも愛を与えてくれる。君と一緒に過ごせる日常があれば、それでいい。これ以上、なにも望まないよ。














22.09.15.happybirthday.kakashi







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