前編 -side黄瀬-


※赤司様がかなり病んでますので注意



赤司っちに相談した俺が悪かったのか。
自分の気持ちでいっぱいいっぱいで、周りを見ていなかったから、罰が当たったのかもしれない。




「黒子っち!赤司っち!おはよー!」

朝練をやりに体育館へ行くと、黒子っちと赤司っちが先に来ていた。

「おはようございます」

「おはよう、涼太」

「今日寒いっすねー。黒子っち暖めてー」

「ちょ…、抱きつかないでください」

「…こら涼太、テツヤが練習できないだろう。離すんだ」

「えーっ、黒子っち暖かいんすよー」

「…外周に行きたいのか?」

「行きたくないっす!すいません!」

「よし、それでいい」

「おーす」

「遅くなったのだよ」

「おはよー」

じゃれていると、青峰っちと緑間っち、紫原っちの三人が入ってくる。

「ふぁー…ねっみー」

「大輝、もっとシャキっとしろ」

「俺は今育ち盛りなんだよー。お前は分かんねぇと思うけど寝たりねーんだよ」

「…ほう?それは僕がチビで伸びる見込みがないから分からない…と?」

赤司っちは笑顔で言うと、どこからか鋏を取り出した。

「は!?そんなこと言ってねーだろ!」

「おかしいなぁ?僕にはそうとしか聞こえなかったが?」

「うぉっ!あぶねっ!鋏投げんなよ!」

「はは!青峰っちバカっすねー」

二人のやりとりを見て笑っていると、黒子っちも隣でほんの少し笑った。
その笑顔(といっても、口角が少し上がっただけだが)に胸がきゅんとする。

「あーっ、黒子っちめっちゃ可愛いーっ!」

「…だから抱きつかないでくださいってば」

「…涼太、大輝、外周20周行ってこい」

「えぇっ!?」

「まじかよ!」

「早く行け。じゃないと…」

ゆっくりと新しい鋏を取り出す赤司っちを見て、俺と青峰っちは走って体育館を後にする。

「赤司っち容赦ないっすー!」

「てか、あいつのポケットはいくつ鋏入ってんだよ!?四次元ポケットか!?」

「ぶはっ!まさかの赤司っちがドラ●もんwwwそれじゃぁ青峰っちはジャイ●ンっすねwww」

「ふざっけんな!」

そんなくだらない話をしながら、二人で外周を走った。



放課後の部活は、俺が行ったときまだ赤司っちしかいなかった。

「あれ?赤司っちだけっすか?」

「あぁ、それぞれ用事があって遅れるらしい」

「へー」

赤司っちと二人きりって初めてのような気がする。

「寒いっすねー、赤司っちー」

そう言いながら、後ろから抱きつく。

「そうだな」

微笑みながら言う赤司っちに、少しびっくりした。

「…どうした?」

「…いや、てっきり『暑苦しい』とか言って振り払われるかと思ってたんすけど…」

「涼太からの抱擁を断る訳ないだろ?」

「ほ、抱擁って…」

意外すぎる言葉に、顔が熱くなる。

「…それにしてもみんな遅いっすね」

「もう少しで来ると思うが」

あ、赤司っちにあれ相談してみようかな…。

「ねぇ、赤司っち」

「ん?」

「黒子っちって、好きな人いるんすかね?」

「…テツヤの性格からして、いないとは思うが。…それがどうかしたか?」

「…絶対に秘密っすよ?」

「…は?」

「俺、明日黒子っちに告白しようと思ってるんす!」

「………」

「男同士で変って思うかもしれないけど、俺本気で好きなんすよ!」

「………」

「何て言ったら黒子っちに伝わるかな」

「………」

「…赤司っち?」

俺の腕の中にいる赤司っちはピクリともしない。
気になって顔を覗き込むと、赤司っちも同時にこちらを向いた。

「…涼太は、テツヤが好きだったのか」

そう言う赤司っちの目は怒りの色がありありと出ていて、背筋がゾッとした。

「…ど、どうしたんすか?赤司っち…何か怒ってる…?」

「…ふーん。そうだったのか…」

俺の声が聞こえてないのか、ボソボソと呟き始めた。

…何か怒らせること言ったっけ…?

初めて見る赤司っちの雰囲気に、少し恐怖を覚える。

「お前ら何やってんだ?あっつくるしーな」

「…っ、あ、青峰っち」

静寂の中、いきなり聞こえた青峰っちの声に驚いて体が跳ねた。

「…いや、遊んでただけっすよ」

ぱっと赤司っちから体を離し、笑顔を作る。
それからみんなが集まって練習を始めても、赤司っちは一言も話さなくて、ただじっと静かな目で俺を見ていた。
さすがにおかしいと思ったのか、みんなが俺の傍に来た。

「お前、赤司に何かしたのか?」

「さっきからずっと黄瀬ちんのこと見てるよねー」

「…多分何もしてないと思うんすけど…」

「そういえば、俺が来たとき赤司とじゃれてたじゃねーかよ」

「その時赤司君を怒らせること言ったんじゃないですか?」

「…えー、だって俺、黒子っちのことしか話してないっすよ?」

「僕のことですか?」

「何々ー?」

「あ、えっと…っ」

やばっ、口が滑った…!

「く、黒子っちは可愛いっすよねーって!」

「…すみませんが、僕可愛いなんて言われてもちっとも嬉しくないんですけど」

「でもまぁ、黄瀬がそんなこと言うのはいつものことだし、それで赤司が怒るとも思わねぇしな」

「だが確かに赤司のあの目は怒っているのだよ。あれは本気だな」

「赤ちんの本気の怒りとか、めっちゃ怖ー」

「早く何したのか思い出せよ」

「俺が怒らせたってもう決定っすか!?」

「当たり前だろ。ずっとお前のこと睨んでるんだからよ」

「言いがかりっすよ!俺ほんとに何もしてないっすから!」

本当に黒子っちのことしか話していない。
あの会話に、赤司っちを怒らせるようなとこはなかったはずだ。
しかし、赤司っちが変になったのはあの時からなのも本当だ。

「その空っぽの頭の中の引き出し全部開けて探しだせ」

「いって!て、うわっ!」

いきなり背中を思い切り叩かれ、体がぐらつく。
足に力を入れてなかったため、支えを失って床に倒れこむ。

「…って〜」

「何やってんだよ黄瀬。アホだな」

「青峰っちが急に背中を押すからじゃないっすか!あー、膝から血出てきちゃったじゃん!」

「気ぃ抜いてるからだバーカ」

「バカは青峰っちっすよ!モデルの体に傷をつけるなんて!」

「大丈夫ですか?」

俺たちの口喧嘩を見ていた黒子っちが俺の前に膝をついた。
ポケットから取り出したハンカチを、膝に巻き付けてくれる。

「えっ、汚れちゃうっすよ!」

「平気です。ハンカチよりも君の方が大事ですから」

「…っ!」

同じチームとして、友達としてだとは分かっているけど、それでも嬉しくてドキドキする。

「お前たち」

その時、凍てつくような赤司っちの冷たい声が響いた。

「一ヶ所に集まっていないで散らばるんだ」

いつもより迫力のある赤司っちの言葉に、みんなは無言で散らばった。
それを確認してまだ座り込んでいる俺のそばに近寄ってくる。

「立てるか?」

「あ、はいっす」

差し出された手を握り、立ち上がる。
その間も赤司っちの射るような目つきは変わらない。

「涼太はまだまだパスもシュートも甘い。練習に集中するんだ」

「はいっ」

赤司っちは元の場所に戻っていく。

…やっぱり、赤司っち変だ。

赤司っちの視線を感じるせいか、あまり練習に集中できなかった。
部活が終わり、帰ろうとした時、赤司っちに呼び止められた。

「涼太」

「何すか、赤司っち?」

「これから僕の家に来ないか?」

「赤司っちの家?」

「あぁ」

俺に用でもあるのかな…?

「…行くっす」

「そうか、良かった」

よく分からないけど、ちょうどよかった。
俺も何で怒っているのか聞きたかったから。



******



赤司っちの家につき、部屋へと案内される。

「くつろいでてくれていいから。僕は飲み物を持ってくる」

「分かったっす」

静かに待っていると、五分くらいしてお茶の入ったコップを二つ持って戻ってきた。
机の上にコップを置いて、俺の隣に腰を下ろす。

「………」

「………」

赤司っちが無言のまま俺の顔を凝視してるのに居たたまれなくなって、コップを取り少し飲んだ。

「…あ、赤司っち、俺に何か用があるんすよね?」

「ん?特に無いが?」

「…へ?」

じゃあ何で俺を家に招いたのだろうか。
赤司っちが何をしたいのか全く分からない。

「……えっと…」

「何だ?何か言いたいことがあるんならはっきり言うんだ」

「…用ないなら、何で俺を呼んだんすか?」

「…それは」

「…っ?」

突然視界がぼやけてきた。

「…あ、れ…?」

瞼が重くて、体もゆっくりと力を失っていく。
持っていたコップを落としてしまい、お茶がこぼれた。

「涼太を捕まえるためだよ」

その言葉を最後に、俺の思考は途切れた。



******



「……んー…?」

あれ、俺何でベッドで寝てるんだっけ…?

「起きたのか」

赤司っちの声で、ぼやけていた頭が一気に目を覚ます。

「…あ!コップ!ごめん赤司っち!お茶溢しちゃ……て、何…?これ…」

体を起こそうとしたが、両手首にベッドの柵と繋がっている手錠がつけてあって起き上がれなかった。

「何で手錠が…?」

「僕がつけたんだよ。涼太をずっとここに留めておくために」

「え、意味がよく分からないんすけど…。冗談、すよね…?」

「僕はいたって真面目だ」

なら、尚更意味が分からない。
椅子に座っていた赤司っちはベッドに乗り上げ俺の近くに来ると、ズボンのベルトを外し始めた。

「…なっ!ちょっと待って!何して…!?」

焦る俺を無視してジッパーを下ろし、足からズボンを脱がせて床に落とす。
冷たい空気が直に肌にあたって寒い。
膝に巻いてある黒子っちのハンカチを取って、ゴミ箱に放り入れた。

「黒子っちのハンカチ…!」

赤司っちは膝の傷に顔を寄せると、舌を這わせた。

「っ!い…っ、やめっ…」

鈍い痛みに眉を寄せて言う。
しかし、気にしない素振りで執拗に傷を舐める赤司っち。

「…ん…、ほんとに…やだ…っ」

「…涼太は僕のだ」

「…?」

「涼太が好きだ。だからテツヤには渡さない」

足を掴んでいる赤司っちの手に力が入り、どんどんと食い込んでいく。

「ずっとここにいよう。僕と二人で…」



******



それから、何日が経ったんだろうか。
身体中のあちこちが痛くて、動くのもダルい。
この部屋には時計がなく、しかも窓は雨戸が閉まっているので時間が全く分からない。
赤司っちは部屋にいないので、学校に行ったのだろう。

「…黒子っち…」

黒子っちに会いたい。
黒子っちの声が聞きたい。

そんなことを考えていると、涙が溢れてきた。

もう流しきって、枯れてしまったと思っていたのに。
この手錠がなければ、今すぐに黒子っちに会いに行けるのに。

悔しくて、手首をベッドの柵に叩きつけた。

「…あ」

すると、手錠の片方が壊れて、金具が弱まった。
それを見て、壊そうと何度も何度も柵に手錠をぶつけた。
腕は悲鳴を上げているが、そんなことはもう気にしない。
しばらくして、手錠が外れてボトリと床に落ちた。

「取れた…!」

嬉しさに立ち上がると、途端に酷い目眩がしてふらついた。
何日間もずっと寝ていたせいで、足も思うように動かない。

「…あ、これ」

机と壁の隙間に俺の鞄が置いてあった。
中から携帯を取り出して、赤司っちの家から飛び出す。
黒子っちに会いに行きたいけど、学校には多分赤司っちもいる。
というか、どこに行っても赤司っちに見つかってしまうような気がする。
そう考えた途端、体が震えだした。

赤司っちに見つかったらどうしよう。
またあの部屋に閉じ込められるかもしれない。
また体を傷つけられるかもしれない。
またあの指で俺を…。

「……嫌だ…っ」

怖い。
嫌だ。
助けて。

「…くろ…ち…っ」

俺は無我夢中で走り、黒子っちの家を目指した。

助けて…っ!
黒子っち…!



―END―

後編 Side赤司に続く


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