絶対勝ちます
「黒子っち!」
「はいっ」
「黄瀬っ!」
「はいっス!」
ダァンッ!
黒子からパスされたボールを青峰にパスし、そしてそのままダンクが決まる。
「っしゃぁっ」
「やったっスね!黒子っち!青峰っち!」
「やりましたね」
二人とハイタッチをして、相手の三人にニコニコと笑顔を向ける。
「うぁー、なにその勝ち誇った顔ー。峰ちんも黒ちんも捻り潰すよ」
「ふん、たった一度点を入れたぐらいではしゃぎ過ぎなのだよ」
「次は僕らの番だ。倍返ししてやろう」
赤司の言葉を合図に、再びボールの奪い合いが始まる。
今日は休日で部活がなかった。
しかし、赤司の提案でキセキの面々はストリートで3on3のゲームをするとこになった。
最初は面倒だと渋っていた緑間や青峰、紫原も、今では負けまいと熱中している。
チームを決める時が一番困った。
全員が口を揃えて黄瀬と同じチームになると言い、口喧嘩が始まったのだ。
黄瀬が黒子と付き合っていることは皆が知っているので、特に黒子へと反感が向いた。
収まりそうにない喧嘩を、黄瀬はグッパーで決めようと言い、どうにか収めた。
結果は黄瀬、黒子、青峰がグーで、赤司、緑間、紫原がパー。
結局いつものチームで赤司たちは気に食わなそうだったが、青峰と黒子のドヤ顔に腹が立ったらしく、喧嘩という名のゲームが始まって今に至る。
「真太郎」
「…ふ…っ」
赤司からパスされたボールを、緑間は宙へと投げる。
そのボールは綺麗にゴールに入り、スリーポイントが決まる。
「ナイッシュー」
「当然なのだよ」
「これで同点だねー」
かれこれもうゲームを始めて一時間経つ。
休まずぶっ続けのため、少しずつ皆の動きが鈍ってきている。
赤司は服の裾で額の汗を拭くと、唐突に話をきりだす。
「丁度同点だし、勝負をしようか」
「勝負?どんなだよ」
青峰の問いに、口元が妖しく吊り上がる。
この赤司の笑みは、大体良からぬ事を考えている時だ。
「次で終わりにしよう。それで、点を入れて勝ったチームの言う事を一つ、涼太は聞かなくてはいけない」
「えっ!?ちょ、それ俺への虐めっスか!?」
「虐めな訳ないだろ。一番のご褒美に相応しいのは涼太しかいないんだ」
「喜んでいいのか分かんないっス…。というか、俺らのチームが勝ったとしても、俺のご褒美ないじゃないっスか!」
「まぁないとは思うが、もしお前たちが勝った場合の涼太のご褒美は、テツヤが言う事を一つ聞いてくれる、でいいだろ?」
「あ、それならいいっスよ!」
「よくないですよ」
「へ?」
赤司と黄瀬の会話を静かに聞いていた黒子が、眉間に深くシワを寄せて言い放つ。
「黄瀬君は僕の恋人なんです。許す訳ないじゃないですか」
「く、黒子っち…!」
黒子から恋人という言葉が出てきて、黄瀬は嬉しさに頬を染める。
対して赤司はゆっくりと腕を組み、挑発的な視線で黒子を見やった。
「勝てばいいだけの事だろ?それとも、勝てる自信がないのか?」
「…っ、…あります」
「ならいいじゃないか」
そう言い、赤司はボールを取りにゴール下へ行った。
「…青峰君。絶対に勝ちましょう」
「当たり前だろ。黄瀬がかかってんだからよ」
「二人共…!ありがとうっス!」
「恋人なんですから当然ですよ。それに、赤司君は黄瀬君にいやらしい事言う気でしょうし…、絶対に阻止します」
「…黒子っち…!」
「…おい、俺をのけ者にしてイチャつくんじゃねーよ」
「さぁ、始めるぞ」
赤司の掛け声に、ゲームが始まった。
黒子がボールを奪い、青峰と黄瀬がゴールを決めようする。
だが紫原に阻まれ、ボールが弾かれた。
それを緑間が拾い、すぐにスリーポイントシュートの態勢を作る。
黄瀬が素早く緑間の前に行き、ジャンプをしてボールを奪おうとしたのだが、緑間は赤司へとパスをした。
「青峰っち…!」
「分かってる!」
瞬時に赤司のいる場所に走るが、それよりも早く、赤司がシュートを放つ。
ボールはゴールに少しも触れず、ど真ん中に入って地面に落ちていく。
「…ぁ…」
「…負け…ですね」
「ちっ」
肩を落とす黒子たちに、赤司たちが近づく。
「俺らの勝ちだねー」
「人事を尽くした結果なのだよ」
「さて、涼太に何をお願いしようか」
「あんまり過激なのは無しっスよ?」
「それは僕たちが決めることだ」
赤司たち三人は、円を作るようにして話し合い始める。
黄瀬に何をさせるかを決めているのだろう。
「…すみません黄瀬君」
「え?」
「負けてしまって…」
「黒子っちのせいじゃないっスよ!俺たち三人と赤司っちたち三人の力は大体同じなんスから、運が悪かっただけっスよ!」
「そうだぜテツ。次やれば俺たちが勝つに決まってる」
「…そうですね」
黄瀬と青峰の言葉に、黒子は少しだけ微笑む。
「何すればいいんスかね、俺」
「僕も分かりません。けど、もし性的な要求でしたら例え赤司君でもイグナイトかまして殴りとばします」
「…お、おっかねーなテツ。頼むから俺は巻き込むなよ。まだ死にたくねぇ」
「…黒子っちカッコいいっス…!」
「誰を殴るって…?」
背後からの声に振り返ると、赤司たちがこちらを見ていた。
話し合いが終わったらしい。
「赤司君たちをですよ」
「へぇ…?」
「『ヤらせろ』とか『キスしろ』とか『触らせろ』とか、そういうものでしたら遠慮なく殴らせてもらいます。そしてもれなくボールが顔面にキスしに飛んできてくれますよ」
「それはジョークか?面白いこと言うな、テツヤ」
「ジョークじゃないです。本気と書いてマジです」
「…そうか」
黒子と赤司の間に火花が散って見えて、その場にいた全員が二人から離れる。
「おいおい…、テツの奴生きて帰ってこれんのか?」
「あんな黒子っち初めて見たっス…」
「まさに触るな危険、だな」
「あの二人怖いんだけどー」
ただならぬ雰囲気の二人を見つめながら口々に言う。
暫く黙って睨み合っていた赤司だが、急にふっ、と笑い出した。
「はは…っ」
「…?」
「そんな事言う訳ないだろ。僕だって一応お前たちが幸せになってくれるのを祈ってるんだから」
「…赤司君。見直しました、厨二のイタい人だけではなかったんですね…!」
「…それは誉め言葉として受け取っておくよ。…涼太」
「は、はいっス!」
名前を呼ばれ、ビクリと肩を震わせながら返事をする。
「今日1日、ここにいる全員に様を付けて下の名前で呼ぶこと。いいな?」
「は!?なんスかそれ!?嫌っスよ!」
「拒否するなら、お前の明日の練習メニュー10倍だが、それでもいいなら言わなくてもいいぞ」
「やっぱこれ虐めっスよ!絶対その様付けるってやつ赤司っちが考えたっスよね!?」
「赤司っちじゃない。征十郎様、だろ?」
「う、…く、黒子っちぃー!」
「黒子っちじゃないです。テツヤ様、です」
助けを求めて黒子を呼ぶも、楽しそうにクスクスと笑っていた。
絶対楽しんでる…!
手を組んだら勝てるはずもないドSコンビの赤司と黒子は、先ほどとは打って変わって笑いあっている。
「あ、青峰っちぃ」
「すまん、逆らったら殺されるから見てることしかできねんだわ」
「緑間っち…」
「今日のお前の星座は最下位だったのだよ。諦めろ」
「紫原っちー」
「俺赤ちんの味方だから。ごめんねー」
「ここに俺の味方は一人もいないっス!」
その日、本当に様を付けて呼ばされたのは言うまでもない。
─END─