「みんな助けてーっ!」
「ん?」
「あー?」

大声で叫びながら体育館に入ってきたのは、見知らぬ女の子だった。
可愛いとも、美しいともとれる美少女で、所々ほぅ…という部員たちのため息が聞こえてくる。
不思議なことに、女の子は帝光の゙男子制服゙を身につけていた。

「…えっと、どちら様ですか?」
「この雰囲気、誰かに似ているな」
「俺もそう思うー」

この人懐っこそうな雰囲気に、柔らかそうでさらさらな金髪。
身近に似てる雰囲気、というか、全体的に似てる人を知っている気がする。

「俺っすよ!黄瀬涼太っす!」
「黄瀬ぇー?」
「黄瀬は男なのだよ」
「似ている気はするが、君みたいな美人な子は知らないな」
「うんうん」
「何で誰も信じてくれないんすか!?黒子っちはもちろん信じてくれるっすよね!?」
「僕は…むぐっ」

答えようとした僕に、女の子が抱きついてくる。
身長差があるせいで、胸が思いきり顔に当たる。

この抱きつき方は…間違いなく黄瀬君…。
しかし、その姿で抱きつかれるのはすごく、ものすごく困るんですが。

「黄瀬く…っ、離しっ…」
「何て羨ましいんだテツのやつっ!」
「最悪だなこの男」
「峰ちん変態ー」
「涼太、信じるからテツヤを離してやれ」
「ホントっすか!?」

ぱっと僕から笑顔で離れる黄瀬君。

…助かった。

「口調とか、すぐに黒ちんに助け求めるとことか、まんま黄瀬ちんだもんねー」
「それより、何でそんな姿になったんだ?」
「俺にもよく分からないんすよ。朝起きたらこうなってて」
「何だそれは。戻り方は分からないのか?」
「分かるわけないっすよ」
「まぁいい。今は部活の時間だ。早く着替えてこい」
「でも…」
「部活が終わったあとに考えてやろう」
「分かったっす!」

黄瀬君は走って部室に入って行く。

「あ、そういや黄瀬のやつ、あれ着けてんのか?」
「あれとは何なのだよ」
「ほら、何てったっけな…。あぁ、ブラジャーとかいうやつ」
「着けてないと思いますよ。持ってないでしょうし」
「だねー。それがどうしたの峰ちん」
「女の体でユニホーム着たら絶対脇から見えると思うぞ?胸が」
「!」
「!」
「!」
「あー、そうだね」
「だろ?」

驚く僕らをよそに、二人は普通に話をしている。

「止めてくる」
「そうですね。色々と大変です」

僕と赤司君は急いで部室に行き、扉を開けた。

「っ!?」
「っ!?」

扉を開けた先には、上半身裸の黄瀬君がいた。
服を脱いだところだったらしく、手にユニホームを持っている。

「あれ、どうしたんすか?何か忘れ物っすか?」

バターンっ!
赤司君が勢いよく後ろに倒れた。

「赤司君!」
「赤司っち!?大丈夫っすか!?」

心配そうな顔で裸のまま部室から出てくる黄瀬君。

「ちょ…!」
「ぶふぉっ!」
「っ!?」
「………」

そんな黄瀬君を見て青峰君は吹き出し、緑間君は真っ赤な顔で絶句、紫原君は口を開けてポカンとしていた。

「ど、どうしよう!赤司っち!」
「………り、涼太」

黄瀬君がガクガクと赤司君を揺らすと、ゆっくりと目を開けた。
そして黄瀬君の体を隠すように抱きつく。

「…頼むから…服を着てくれ」
「え?あ、そうだ!今女の子だった!」
「テツヤ、涼太の服を持ってきてくれないか」
「あ、はい…っ」

部室に戻り、落ちている黄瀬君の服を持ってくる。
頭から黄瀬君に被せて着せた。

なんて心臓に悪い…。

「ありがとうっす黒子っち」
「いえ…」
「…ちっ」
「大輝、今舌打ちしたな…?」
「してないしてない!幻聴だ!」
「ならいいが」

青峰君のことですから「余計な事しやがって」とか思いましたね絶対。
相変わらずの変態っぷりです。

「涼太は今日制服のままやるんだ」
「分かったっす!」

この日の練習は、今までで一番やりにくかった。
それはみんなも同じだったようで苦い顔をしている。

「今日はこれで終わりだ」
「あ゙ぁーっ!やりにくいんだよ黄瀬ぇっ!」
「何すかいきなり!?」
「やりにくかったですね本当に…」
「同意なのだよ」
「ちょっとねー…」
「否定はできないな」
「みんなまでっ!?」
「男だし、黄瀬だとも分かってんのに、見た目が女だからボール取りにくいんだよ!」
「しょうがないじゃないっすか!俺だって元に戻りたいけど、戻り方が分からないんすから!」
「戻り方をどうにか考えないと練習出来ないですね」
「うわーん!黒子っちーっ」
「っ!!緑間君!」
「ん?」

また僕に抱きつこうとする黄瀬君の前に、隣にいた緑間君を引っ掴んで持ってきた。
黄瀬君はそのまま緑間君に抱きつく。

二度は喰らいません!

「っ!?」
「あれ、黒子っちじゃない!」

緑間君のメガネがパリーンっと音を立てて割れる。
顔はもう茹タコのように真っ赤だ。

「あーあ、ムッツリツンデレメガネにはまだ女の体は早かったか。テツ、変わりなら俺が喜んでやってやるのによー」
「下心満々の青峰君は絶対に駄目です」
「大輝は変態だからな」
「おっぱい星人だもんねー」
「お前らな…」

黄瀬君がぱっと緑間君から体を離すと、僕の方に真っ赤な顔のまま近づいてくる。

「…く、黒子…お前…」
「すみません緑間君。隣にいたのでつい」
「ついじゃないのだよ!ついじゃ!」
「見事な乱れっぷりー」
「もう俺は帰るのだよ!」
「おい緑間」
「何なのだよ!」
「お前ってシャイボーイだったんだな」
「今時の草食系男子というやつか」
「ムッツリツンデレシャイボーイメガネだねー」
「長くて覚えずらいっす」
「みなさんはっきり言うと可哀想ですよ。気にしてるかもしれませんし」
「………お…」

僕らの話を静かに聞いていた緑間君は、プルプルと肩を震わせている。

「お?」
「お?」
「お?」
「お?」
「お?」
「お前らなんか嫌いだーっ!!」

物凄い剣幕でそう叫ぶと、走って体育館を出て行った。

「みどちん行っちゃったー」
「少しからかいすぎたかな」
「さて、緑間君は帰ってしまいましたが、考えましょう」
「…あっ!やべぇ!今日マイちゃんの特番の日じゃねーか!」
「マイちゃん?」
「ほら、青峰っちがよく読んでる本に載ってる女の子っすよ。あの胸が大きい子」
「俺帰るわ!黄瀬明日までには元に戻っとけよ!じゃーな!」
「…青峰君も帰ってしまいましたね」
「…ん?そういえば敦」
「何ー?赤ちん」
「今日は敦の新しいバッシュを見に行くんじゃなかったか?」
「あー、そういえば」
「そのバッシュはもう草臥れてきたし、早めに変えた方がいいだろう」
「うん」
「…まさか、お二人も…」
「あぁ、すまないが帰らせてもらうよ。店が閉まってしまうかもしれないからな」
「ごめんねー」
「えぇ!?二人もっすか!?」
「じゃあ、あとは任せたぞテツヤ」
「ばいばーい」
「…帰ってしまいました…」
「みんな酷いっすよー!特に青峰っち!」
「いつもの事じゃないですか」
「うぅー…、どうしよっか黒子っちー」
「そうですね…」

皆さん帰ってしまいましたし、これは僕一人で何とか出来るとは思いませんし…。
こういう時はやはり…。

「では、僕も帰ります」
「え!?何でっすか!?黒子っちまで俺を見捨てるんすか!?」
「いえ、違いますよ。今急に用事を思い出したので帰らなければいけないんです」
「絶対嘘っすよね!?」
「嘘ではありませんよ。家で精神統一しなければいけないんです」
「精神統一!?そんなのいつでも出来るじゃないっすか!?」
「え、じゃあ僕もマイさんの特番見たいので帰ります」
「じゃあって何すか!」
「じゃあ新しいバッシュを探しに行くので帰ります」
「明らかに嘘っすよね!?」
「大丈夫ですよ。黄瀬君なら一人で何とか出来ます」
「そんな温かい目で見ないでくださいっす!」
「ほら、よくあるじゃないですか。次の日起きたら元に戻っているパターン」
「あ…そういえばそうっすね…」
「今回もそういうのですよ。ということで、また明日」
「待って!俺も一緒に帰るっす!」


次の日。

「みんな助けてーっ!」
「ん?」
「あー?」

大声で叫びながら体育館に入ってきたのは、見知らぬ男の子だった。
歳は小学1、2年生くらいで、何故か帝光の゙男子制服゙をぶかぶかながらも身につけていた。

「…えっと、どちらのお子さんでしょう?」
「この雰囲気、誰かに似ているな」
「俺もそう思うー」

この人懐っこそうな雰囲気に、柔らかそうでさらさらな金髪、つぶらな大きな瞳。
身近に似てる雰囲気、というか、全体的に似てる人を知っている気がする。

…まさか。

「俺っすよ!黄瀬涼太っす!」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」

絶対に皆さん「やっぱりか」って思いましたね。

「どうしよう黒子っち!戻るどころか昨日より酷くなっちゃったっす!」
「……よし、練習を始めるか」
「…だな」
「…あぁ」
「…そうだねー」
「…そうですね」

僕たちはそれぞれ配置について練習を始める。

「何でみんな無視するんすか!?誰か助けてよーっ!」


−END−


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