友達以上




「…最近、黄瀬君忙しそうですよね」

昼休み、キセキの面々は屋上に集まって昼食をとっていた。
秋も後半となると肌に当たる風が冷たい。
そのせいか、屋上には六人以外誰もいなかった。

「そうだな。…ん、涼太?」

黄瀬は箸を持ったまま首をカクカクとさせていて、今にも眠ってしまいそうに目を細めていた。

「おい、黄瀬!弁当ボロボロこぼしてんぞ!」

「へっ?は、ふぁい!何スか青峰っち!」

「だから、弁当こぼしてんぞ」

「え、あぁっ!ズボンの上に!」

服の上にこぼれたご飯を叩き、「よかった、染みになってない」と安心したように呟く。

「食べながら寝るとは器用なやつなのだよ」

「眠いなら俺の膝貸してあげるよー」

「大丈夫っス、ありがとう紫原っち」

「お前最近学校来てねーけど、何してんだ?」

青峰の問いに、黄瀬は少し眉を下げて笑う。
ここ一週間近く、黄瀬はほとんど学校に来ていなかった。
部活の時だけは体育館に来てバスケをしているのだが、それ以外は校内にすらいない。
今日久しぶりに全員集まっての昼食だった。

「仕事っスよ。ほら、先週大会があったじゃないっスか。そのために暫く仕事お休みもらってたんス。部活の練習に集中するために。大会終わったから、休んでた分溜まった仕事を今片付けてるんスよ。でも思ってたより沢山溜まっててさ、学校の時間削ってまでやらないと間に合わなくて」

「…大変ですね」

「ちゃんと休んでるの?黄瀬ちん」

「まぁ、なんとか…」

言葉を濁し、ポリポリと頬をかく。
これは嘘をつく時の黄瀬の癖で、それを知っている赤司が声をかけようと口を開くと、「あぁっ!」と黄瀬が大声を上げる。
その目線は腕についてる時計に向いていた。

「やばっ、もうこんな時間!ごめん皆、俺この後仕事あるからもう行くね!部活までには戻ってくるから!じゃ!」

弁当を素早く片付け、黄瀬は忙しなく屋上を出て行った。

「は!?黄瀬!?」

「…行ってしまいましたね」

「まったく、騒がしいのだよあいつは」

「仕事なんかサボっちゃえばいいのにー」

「学校ではないんだから、そんな訳にはいかないんだよ、敦」

「だってー、仕事の所為で黄瀬ちんと全然遊べないじゃん。仕事とか嫌い」

拗ね始めた紫原を宥め、赤司は静かにため息をついた。



******



部活の始まる五分前に黄瀬は息を切らしながら体育館に来た。
そして急いで部室に行き、体操着に着替えて戻ってくる。
まだ練習をする前だというのに、黄瀬は既に汗だくだ。
どこからかは分からないが、きっと走って来たのだろう。

「まだ練習始まってないっスよね…っ?」

「あぁ、これからだよ。…涼太、今日は外周の走り込みからのメニューだが、大丈夫か?走って来たんだろう?」

「全然大丈夫っスよ!心配しないで」

「…そうか」

少し心配だったが、いつもの笑みで言う黄瀬に安心して練習を始める。

止めておけば良かったと後悔したのは、走り込みが終わる直前のことだった。

「…ぼ、僕、もう…ぜぇっ、無理…ごほ…です…っ」

「相変わらず体力ねーなーテツ」

「あと100mちょっとだ。もう少し頑張れ」

「…?おい、黄瀬足が止まりかけているのだよ」

緑間の声に全員が黄瀬に目を向ける。
と同時に、黄瀬は前のめりに勢いよく倒れた。

「黄瀬!?」

「涼太!」

近くにいた緑間がすぐに抱き起こし、顔色を伺う。
規則正しく寝息を立てているだけで、他に変わったところはない。
熱もないし、顔色も悪くない。

これは…。

「…眠っているだけなのだよ」

「眠ってるだけ!?」

「なんだー、ビックリしたー」

「…良かったです」

「なんであれ、とにかく涼太を保健室に連れていくぞ」

そう赤司が言うと、緑間が黄瀬を抱き上げようとした。
だがそれを紫原が横から黄瀬の体を押さえて止めた。

「黄瀬ちんは俺が運ぶんだしー」

「何言ってるのだよ。連れていくのくらい誰でもいいだろう」

「誰でもいーんだったら俺が連れてってやるよ」

「いや、ここは僕が連れていこう。お前たちは練習を続けるんだ」

「分かりました、なんて言う訳ないじゃないですか。僕も黄瀬君連れていきたいです」

「テツは無理に決まってんだろ。赤司だって無理じゃねー?」

「僕に不可能なことなどないよ。涼太ぐらい軽々持てる」

「僕だってちょっと引きずってしまうかもしれませんが連れていけますよ」

「引きずるのはやめるのだよ」

このままでは埒があかないので、何故か相撲で決めることになった。

「なぜ相撲なのだよ。ジャンケンでいいだろう」

「ジャンケンだと絶対赤司が勝つだろうが」

「だからって何で相撲なんだ」

「相撲なんて、僕勝てるわけないです…」

「何でもいいから早くやろー」

勝負は紫原の圧勝で終わった。

それぞれが悔しそうな顔をする中、紫原は嬉しそうに黄瀬を持ち上げる。
そのまま保健室に連れていったのだが、途中途中で会う女子たちがやたらキャーキャー言うのに全員顔を顰めた。

「やけに女子五月蝿くねーか?紫原と黄瀬めっちゃ見てるし」

「それは紫原君が黄瀬君をお姫様抱っこしてるのが原因だと思います」

「意味が分からないのだよ」

「腐女子とググればすぐ分かるよ」

「…?」

保健室につき、黄瀬をベッドに寝かせてからまた練習に戻った。
保健医に当分目を覚まさなそうと言われた為だ。


部活が終わり保健室に行くと、黄瀬はもう起きていた。
黒子たちに気づくと、すまなそうに頭を下げる。

「俺倒れたみたいで…、迷惑かけてごめんね…。紫原っちが運んでくれたんスよね?ありがとう」

「大丈夫だよー。迷惑ってゆうか役得だったしねー」

「役得…?」

「それより涼太、倒れるまで無理をするな。仕事が落ち着くまで部活は休んでちゃんと眠るんだ」

「そ、それは嫌っス!俺部活は毎日の楽しみなんスよ!」

「倒れたら元も子もないのだよ」

緑間の一言に、黄瀬は口を噤んだ。
その通りだと思ったからだ。
そんな黄瀬に赤司は提案を出す。

「どうしても部活に出たいなら、仕事にキリがつくまでマネージャーとしてなら出てもいいぞ」

「…マネージャー?」

「練習するのは禁止だが、お前なら僕たちのプレーを見るだけでも勉強になるだろう」

「見てるとやりたくなるっスよー…」

シュンと項垂れる黄瀬に青峰がぐしゃぐしゃと乱暴に頭を撫でる。

「仕事にキリがついたらいくらでも1on1やってやるから我慢しろ」

「黄瀬君は無理しすぎですからたまには休んでください」

「…分かったっス。でも俺、マネージャーの仕事って何したらいいのか分からないんスけど…」

「それは大丈夫だ。マネージャーと言っても、僕たちにドリンクを渡したり、タオルを持ってきてくれるだけでいい」

「あ、それなら出来そう」

「それと、僕専用のストレッチの相手になってくれ」

「え?別にいいっスけど…」

断る理由もないのでOKすると、他の皆が一斉に喋りだす。

「ダメに決まってるじゃないですか!」

「赤ちんだけずるーい」

「なんで黄瀬もOKすんだよ!」

「黄瀬がいいと言っても、俺たちが許さないのだよ」

「残念だったなお前たち。言ったモノ勝ちだよ」

いきなり喧嘩を始めた皆を横目に、黄瀬はクスリと笑った。

「皆の相手もちゃんとするっスよ」



‐END‐

中途半端ですみません(つд⊂)
リクエストありがとうございました!!


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