写真「…最近さー、黄瀬のやつおかしいんだよな」 「おかしい…とは?」 部活中、唐突に言った俺の言葉に、黒子が首をかしげて返す。 「目が怖いってゆーか…笑顔が怖いってゆーか…」 「…は?何ですか?それ」 「昨日のことなんだが、黄瀬があんまりデートデートうるせぇからしてやったんだよ。その最中に先輩に会って少し話してたら急に黄瀬無表情で黙り始めてさ、先輩と別れるまで睨むように先輩を見てたんだ」 「…嫉妬、じゃないですか?」 「…嫉妬ねー…。けどその後どうしたって聞いたら、パッと笑顔に戻って何でもないって言うんだぜ?その笑顔も何か怖ぇし」 「本人に聞いてみてはどうでしょうか。確か今日黄瀬君来るんでしたよね?」 「あぁ。部活終わったらこっち来るって言ってた」 今朝、『今日、部活終わったらそっち行っていいっすか?』とやたら絵文字やらデコメやらの多いメールがきた。 大丈夫だとメールを返したら、数分後に『じゃあ、誠凛の校門前で待ってるっすね!』と返ってきた。 きっと黄瀬が来たら、校門の周りに女子がたむろってるんだろうな…。 思った通り、部活が終わって校門に行くと、女子に囲まれている黄瀬がいた。 「黄瀬」 「…あ!火神っち!…と、黒子っち」 俺に気付いた黄瀬は、いつもの人懐こい笑顔で俺を呼んだが、明らかにトーンの下がった声で黒子を呼んだ。 「お久しぶりです。黄瀬君」 それには特に触れずに、黒子はいつも通りの口調で言った。 「…あ、うん。久しぶりっす」 無理に笑顔を作っている黄瀬を見て、さすがの黒子もおかしいと思ったのか、俺の目をチラリと一目見て言う。 「じゃあ、僕はこれで」 「おう。また明日な」 「…さよならっす」 俺らの返事を聞いて、黒子は一人で帰っていく。 黄瀬はその背中をまたあの睨むような目で見ていた。 「…なぁ、黄瀬」 「な、なんすか?」 「これからさ、お前んち行ってもいいか?話したいことがあるんだけど」 「えっ、俺の家!?で、でも今汚ないし…っ」 なぜか必要以上に慌てる黄瀬。 「別に俺は気にしねぇけど」 「……わ、分かったっす」 小さい声でそう言うと、黄瀬は浮かない顔で歩きだした。 黄瀬の家に行くの初めてだな、とか考えながらその後ろをついていった。 誠凛から遠くもないが、近くもないところに黄瀬の家はあった。 「少し片付けてくるんで、ここで待っててほしいっす」 「分かった」 玄関で待っていると、五分ぐらいして黄瀬が戻ってきた。 「お待たせしましたっす。どーぞ」 「お邪魔します」 中は意外と綺麗で、少し殺風景だった。 「俺の部屋二階っすから。飲み物持ってくるんで、先に行ってて」 「おー」 黄瀬がリビングに行ったのを見て、俺は二階に上がり黄瀬の部屋に入った。 部屋の真ん中にテーブルが置いてあったので、その隣に腰を下ろした。 「………」 じっとしてるだけだと何だか落ち着かない。 周りをキョロキョロ見渡していると、机の引き出しから一枚の紙がはみ出しているのを見つけた。 悪いとは思ったけど、好奇心でその紙を取って見てみた。 「…!!」 それは誠凛のバスケ部の先輩の写真で、カッターなどで引っ掻いたような傷が沢山あった。 「…何だ…これ…」 もしかしてと思い、この写真がはみ出していた引き出しを開けると、同じように傷や切り裂かれている写真が大量に入っていた。 その写真に特に共通点はなく、色んな学校のバスケ部の人たちが写っている。 「…これ…黒子、だよな…?」 特に傷の酷い一枚を手に取って見ると、それには黒子が写っていた。 切りすぎで所々穴が空いていて、黒子と判別するのも難しい程傷は酷かった。 「飲み物持ってきたっすよ」 「……黄瀬」 「…っ!それ…!」 ジュースとコップを持って入ってきた黄瀬は、俺の手にある写真を見てさっと顔色を変えた。 「…何だよ、これ」 「………」 俺の問いには答えず、机にジュースなどを置いてその場に座った。 「…黄瀬、答えろよ」 「………火神っちと仲のいい人とか、火神っちと話したことのある人たちっすよ」 「そんなこと聞いてるんじゃない。この傷は何なんだ?」 「………」 「黄瀬」 「…これでも我慢してるんすよ」 「…は?」 「本当は今すぐにでも殺してやりたいのを我慢してるんすよ…!」 「…殺…?何言ってんだ…?お前…」 殺してやりたいって…。 この写真の人たちのこと言ってんのか…? 「火神っちは俺のなのに……。俺以外と話したりしてるとこ見るとイライラして…何度手が出そうになったか…」 「…お前」 「その写真はイライラを収めるためにやったんすよ」 半ば諦め気味に言う黄瀬の目に、涙が滲む。 「俺おかしいっすよね…。変っすよね?普通じゃないっすよね?…もう、俺のこと…嫌いになったっすよね…?」 「………」 確かに黄瀬は普通じゃないと思う。 俺と話しただけでその相手を殺したくなるなんて。 写真を引っ掻いたりしてそれを抑えてるなんて。 …でも。 そんな黄瀬を軽蔑したり、嫌いになるどころか、愛しいと思う自分も十分におかしいのではないだろうか。 「…嫌いになってない」 「…本当に…?」 「あぁ」 「火神っち…」 笑いかける俺に、そろそろと近づいて抱きついてくる。 黄瀬の頭をガシガシと撫でてやると、俺を抱き締める腕の力が強くなった。 俺は、自分が思っていた以上に黄瀬を好きなのかもしれない。 もしかしたら本当に黄瀬が人を殺しても愛しいと思うのかもしれない。 そうなら、狂った者同士お似合いだな、と心の中で一人納得して苦笑した。 ‐END‐ これで6000Hit全て書き終わりました! 最後がこの話だと少し後味悪いですね← 6000Hit本当にありがとうございました! 戻る |