野球拳



「野球拳をやるぞ」

学校のない日曜。
突然赤司っちに呼び出された俺たち。
赤司っちの家に行くと、開口一番にそう言われた。

「いきなり!?呼び出した理由ってそれっすか!?」
「お、いいなそれ」
「たまには気分転換もいいですね」
「やってやらなくもないのだよ」
「楽しそー」
「みんなまで!?」

なぜか俺以外のみんなはやる気満々だ。

「もちろん涼太もやるよな?」

笑顔でそう言うけど、目は少しも笑ってないし、それにどこからか取り出したハサミをチョキチョキと鳴らしながら言うので迫力がハンパなかった。

「…は、はい…」

当然そんな赤司っちにたてつく勇気など、俺にはなかった。

部屋の中央で、みんな円を作るようにして立った。

「では、始めるぞ」
じゃーんけーんぽん!

じゃんけんの結果は、俺はグー、俺以外のみんなはパー。
つまり、俺の一人負けだ。

「あぁぁーっ!負けたっすー!」
「ざまーねぇな」
「ご愁傷様です、黄瀬君」
「無様なのだよ」
「ドンマーイ」
「さあ、脱ぐんだ涼太」
「…うぅ…分かってるっすよ」

着ていた上着を一枚脱ぐ。

「よし、次だ」
じゃーんけーんぽん!


結果は、俺はパー、俺以外のみんなはチョキ。

「また俺の一人負けっすか!?」
「だっせーっ!」
「黄瀬ちん弱ー」

俺こんなにじゃんけん弱かったっけ!?

靴下を脱ぎながらそう考えていると、次のじゃんけんが始まった。
しかしまた俺の一人負けで、そのあともずっと一人負けが続いた。

俺はもう下着しか残っていない。

「ちょっ!ここまでくるともう誰かの策略としか思えないんすけど!」
「自分の弱さを人のせいにするのはいけないな」
「そーそー。恨むんなら自分の運の悪さを恨むんだな」
「でもやっぱりさすがモデルですね。下着姿でもとてもカッコいいですよ」
「これが峰ちんだったら、ただの脱ぎ癖の酷いおっさんにしか見えないもんねー」
「おい!」
「もう後がないのだよ、黄瀬」
「次が楽しみだね、涼太」
「全然楽しみじゃないっす…」

みんなが楽しそうに話している中で、俺は一人テンションが上がらなかった。

「そろそろ次をやろうか」
「おう」
「そうですね」
「あぁ」
「そうだねー」
「………(もうやりたくないっす…)」
じゃーんけーんぽん!
「……ん?」
「…あっ!」

赤司っちがグーで、それ以外はパー。
初めての勝ちに涙が出そうなほど嬉しくなる。

「やったー!初めて勝てたっすっ!」
「よかったですね」
「おめでとー」
「赤司っち早く脱ぐっすよ!」

嬉しくてついそう言うと、赤司っちが俺の前に来た。

「僕に命令するなんて頭が高いぞ」
「…えっ」
「脱いでほしいならもっと他に言い方があるだろう?」
「えっ、えっ?」
「…そうだな。上目使いで『お願いします赤司様。この駄犬のために脱いでください』と言うんだ」
「何でっすか!?だって負けたの赤司っちだし、脱ぐのはルールっしょ!?」
「…そうか、僕に口答えするのか」
「違うっす!ごめんなさい!あ、でも上目使いって言っても、赤司っち身長低いから無理……あ」
「…あーあ」
「僕は知りません」
「命知らずなのだよ黄瀬は」
「黄瀬ちん正直すぎーー」
「……涼太はそんなにしつけ直されたいのか…」
「直されたくないっす!ごめんなさい!そういう意味で言ったんじゃなくて、つい本音が出ちゃっただけで…!」
「…へぇ、本音?」
「ああ!今のも違うんす!」
「バカだなあいつ」
「でもそんなところも可愛いですよ」
「あ、俺もそう思うー」
「………」
「な、何で近づいてくるんすか!?」
「涼太が逃げるからだろ?」
「逃げないと捕まっちゃうじゃないっすか!てかみんな見てないで助けて!」
「やだね」
「とばっちり食らうのは嫌ですから」
「一人で頑張れー」
「自業自得だな」
「ヒドイっ!」
「大人しく諦めるんだ」
「い、嫌っす!来ないで!!ひっ!いっいやあああああああああ!!!!」





「あ、そういえば黄瀬君に言い忘れましたね」
「じゃんけんのことか?」
「そういえばー」
「赤司とおなじの出せば絶対に勝てるってやつか?」
「はい。昨日黄瀬君以外で話し合った通りでしたね」
「ま、最後は黄瀬があまりにも不憫だから赤司が負けてやったんだろうけど、それが逆に仇になったな」
「それより、こんな茶番を計画する赤司も赤司なのだよ」
「暇人だねー」


‐END‐

キセ黄…?
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