チョコと嫉妬とバレンタインは毎年、女子から数えきれないほどのチョコを貰っていた。 それは今年も同じで、登校の時にいきなり渡されたり、靴箱や机の中に沢山入っていたり、休み時間のたびに女子に呼び出されたりして、もうチョコは紙袋三つ分以上ある。 もう少しで部活が始まる時間になるのだが、なかなか女子の列が途切れてくれない。 結局部活に行けたのは、練習が終わる直前だった。 「すいません!遅れました!」 「涼太、今何時だと思っている」 扉を開けると、仁王立ちをした赤司っちがいた。 眉に深くシワを寄せて俺を見ているので、怒っているのが分かる。 「それに何だ、その大荷物は」 「あ、これは女の子たちからバレンタインのチョコを貰って…」 「バレンタイン…?」 「はい、さっきまで女の子たちに呼び止められてて遅くなったんす」 「………」 理由を言う俺を、さらにシワを寄せて見る。 え、今の理由はダメだった…!? 怒りを増した赤司っちに、俺は姿勢を正す。 「…涼太」 「は、はいっす!」 「外周30周、今から行ってくるんだ」 「うぇっ!?今からっすか!?」 「僕の言うことは…?」 「絶対っす!」 「行け」 「はいっ!」 俺は荷物を置くと、急いで体育館をあとにした。 ****** 「…っあぁー!つっかれたーっ」 赤司っちに言われた通り外周30周を走り、疲れてその場に座り込んだ。 「はぁ…はぁ…。…あ、そういえば制服のままだった…」 汗だくの制服のシャツのボタンを半分開け、パタパタと手で扇ぐ。 いつもなら少し肌寒い風も、今はちょうどいいくらいの涼しさだ。 「お疲れ」 「…赤司っち」 俺の荷物と自分の鞄を片手に、赤司っちが隣に立った。 「部活終わったんすか?」 「あぁ、もうみんな帰ったよ」 「そっか。…あ、荷物ありがとう」 差し出された荷物を受け取り礼を言うと、赤司っちが俺の隣に腰を下ろす。 「………」 こういう時はだいたい先に赤司っちが口を開くのだが、なぜかじっと俺を見つめるだけで話さない。 「…えっと、俺の顔に何かついてるっすか?」 「僕にチョコはくれないのか?」 「………はい?」 「今日はバレンタインデーなんだろう?」 「そうっすけど…。でもバレンタインデーは女の子が恋人や好きな人にチョコをあげる日で…」 「外国では男があげるところもあると聞いたことがあるんだが?」 「………」 どうしよう…。 チョコなんて用意してないし、赤司っちが欲しがるとも思ってなかった。 「ご、こめんなさい!チョコ用意してない!」 「…そうか」 頭を下げて謝ると、赤司っちは方眉を下げて微笑んだ。 「本当にごめん!」 「謝らなくていい。僕も涼太に言われるまでバレンタインデーのこと忘れていたから」 「でも…」 「…ただ、涼太が女子からチョコを沢山貰っているのに少し嫉妬したから言ってみただけだよ」 「赤司っち…」 「それに、仕事柄断れないのも知っているからな」 そう言われても、俺は申し訳なさでいっぱいだった。 赤司っち優しい…。 「…何か俺にやってほしいことないっすかっ?」 「やってほしいこと?」 「チョコはあげられないっすけど、俺に出来ることなら何でもやるっす!」 「そうだな…」 赤司っちは手を顎に当て、考える素振りをする。 「…なら、涼太からキスしてほしい」 「っ!?」 予想外の言葉に、顔が赤くなる。 「駄目か?」 「えっ、いや…」 改めて言われるとすごく恥ずかしい。 「…じ、じゃあ目、閉じてほしいっす」 「分かった」 言われるままに目を閉じる赤司っち。 その整った顔に少しずつ近づく。 「………」 いつもキスは赤司っちからしてくるから気付かなかったけど、する側はこんなにも緊張するものなんだ…。 ぎゅっと目を瞑って触れるだけのキスをした。 「こ、これでいい?」 「…足りないな」 「…んっ!?」 離れようとする俺の顔の後ろを押さえ、強引に唇を塞がれる。 「…んぁ、…ふ……んンっ」 苦しくなって息を吸おうと口を開けると、その隙間から舌が入りこんでくる。 しばらく深いキスに身を任せていると、赤司っちが顔を離して言った。 「…ボタン開けすぎだぞ。誘っているのか?」 「えっ!?これは走って暑くなったから開けただけで…!…くしゅっ」 くしゃみのあと、寒さを肌に感じて身震いする。 「…走り終わったあと、汗拭かなかったな?」 「…はい」 「風邪を引いたらどうするんだ?」 俺のシャツのボタンをしめながら、赤司っちは俺に叱咤する。 その姿はまるでお母さんだ。 「風邪引く前に帰るぞ」 「分かったっす…」 赤司っちのあとについて、早足に学校を出る。 家路を歩いているとき、ふと疑問に思ったことを聞いてみた。 「そういえば赤司っち、俺に言われるまでバレンタインデーだって気付かなかったって言ってたっすよね?」 「それがどうしたんだ?」 「赤司っちは女子からチョコ貰わなかったんすか?」 モデル並みの整った綺麗な顔で、しかもバスケ部の主将だ。 女子がほっとくわけがない。 少なくとも一個は絶対に貰っているはずだ。 「ん、あぁ、何回か呼び止められたりしたが、恋人がいるからと全て断った。何でこんなに話し掛けられるのかと思ってたな」 「…まじっすか」 赤司っちって…意外と天然入ってる? そんなことを考えていると、 「ホワイトデーはさっきの続きをしよう」 耳元でそう囁かれた。 ‐END‐ 甘々というより、甘さ控えめになってしまいました← 戻る |