「…笠松先輩って、恋とかしたことあるんスか?」

「はぁ?」

俺の唐突な問いに、思いっきり眉を寄せる笠松先輩。

「なんだよお前いきなり。気持ちわりーな」

「ヒドっ!聞いただけじゃないスか!」

最初から答えが返ってくるなんて思ってなかったけど。
頬を膨らませて講義してると、森山先輩がひょっこり顔を出した。

「そんなこと笠松に聞いてどうするんだよ。この純情君に」

「おいなんだと森山!」

「えっと…、最近気になる人がいて、でもコレ恋なのか分からなくて」

「なんだそれ。というか黄瀬に気になる人ができるなんて驚きだわ」

んー、と暫く首を捻るとおもむろに携帯を開く森山先輩。
暫く画面に向けていた目を俺に向け、ニコリと笑う。

「え、なんスかその気持ち悪い笑顔」

「俺のイケメンな素晴らしい笑顔を気持ち悪いだと!?せっかくお前の為に調べてやったのに!」

「何を調べてくれたんスか?」

「恋についてだよ」

そう言いながら携帯の画面を俺に見せてくれる。
丸いピンク色の文字でズラリと何か書かれていて、背景もハートや花などで飾られたいかにも女の子受けしそうなサイトだ。

「うわ、真っピンクっスね…。文字も読みずらいっス…」

「あー、じゃあ今から俺が黄瀬に何個か質問するから、イエスかノーで答えろよ?」

「了解っス」

俺の返事に、森山先輩は携帯に目線を戻して、読み始めてくれた。

「あなたはその人を目で追ってしまいますか?」

「はい」

「人ごみの中にいてもその人がどこにいるのか分かりますか?」

「はい」

「ふとした時、その人の事を考えている時が多々ありますか?」

「はい」

「その人の良いところ、悪いところ共にすぐ答える事ができますか?」

「はい」

「…それは恋です、だってさ」

「恋、なんだ…コレ。でも何かそう言われるとしっくりくるかも…」

悩んでモヤモヤしてた事が、スっと胸に入ってくるような。

恋だったんだ…。

「まあでも、本当かどうかは分かんないけどな。ちょっとしたテストだし」

「いや、すごく参考になったっス。…どうしよう…、やっぱ伝えた方がいいのかな…」

「…てか、お前が告白すれば大体の女はOKするだろ。そんな考え込まなくてもいいんじゃねーか」

「え?相手女の子じゃないスけど」

「…は?」

「…ん?」

「笠松先輩の事言ってたんスけど…、…あ、…」

「…はあ!?」

「相手って笠松!?」

ついポロっと口から零れてしまった言葉にヤバイと思っても、時すでに遅し。
笠松先輩は絶句、森山先輩も口をポカンと開けて俺を見ている。

「……あ…、いや、えっと…っ」

自分を恨みながらも、告白してしまった事に少しずつ顔が熱くなってきてしまう。

「…ご、ごめんなさいっ!!」

先輩の前に居るのが耐えられなくて、俺は頭を下げて誤ると急いでその場から逃げ出す。
別に悪いことは何もしていないけど、咄嗟に口に出た。

(俺のバカ!!本当に告白しちゃうなんてバカすぎるだろ!!)

森山先輩の呼び止める声が聞こえたけど、立ち止まることはしなかった。
出来るわけない。

(明日からどんな顔して先輩に会えばいいんだよ…!)



******



「おい!どこ行くんだよ黄瀬!?」

部屋から飛び出して行く黄瀬を森山が呼び止めるも、黄瀬はそのままどこかへ走っていってしまった。
追いかけようか迷うよりも、驚きすぎて体が動きそうにない。
そんな俺に困惑した様子の森山が話しかけてくる。

「…あー…、どうするんだ?」

「どうするって、何がだ」

「何がって、黄瀬のことに決まってるだろ?言い逃げして出て行ったけどさ」

「………」

どうすると言われても、俺だってどうしたらいいのか分からない。
まさか黄瀬に告白されるなんて思ってもなかったのだから。
黄瀬に好意を向けられていたのは知っていたが、それは先輩としてだと思ってた。
先輩として好意を向けている、それだけだと思ってた。

それがまさか、こんな意味でだったなんて。

「…あいつ、本気だと思うか?」

「どう見たって口が滑ったって感じだったじゃないか。飛び出してく時の顔だって、見たことないくらい真っ赤だったろ?」

「…俺はどうしたらいいんだ?」

「そんなこと俺に聞かれてもなぁ…。相手女の子じゃないんだし、専門外だ」

「…だよな」

相手が女子だったとしても森山には専門外だといつもなら突っ込んでいたが、今はそんなこと言ってられない。
考えすぎて、頭の中がぐちゃぐちゃだ。

でも、黄瀬に告白されて悪い気がしていないのはなぜだろうか。
むしろ、少し嬉しいような…。

「…いや、まさかな」

「ん?どうしたんだ?笠松」

「…なあ、告白されて少しでも嬉しいって思うのはなんでだと思う?」

「はあ!?まさかお前まで黄瀬のこと好きだなんていう気じゃないだろうな!?」

「ちげえよ!そんな訳ねーだろうが!」

「だよな…。ビクった…」

大げさに胸を撫で下ろす森山。
そんなことあるわけがない。
あいつはどんなに顔が綺麗だったとしても男なのだから。

「んー…、お前も可愛い後輩として好きってこと…じゃないか?」

「あー…、それは何か違う気がするんだよな…」

「それ以外にはないと思うが…。あったとしてもお前も黄瀬のこと好きってことなるぞ?」

「………」

そっちの方がしっくりくる気がするのは気のせいか。

でもそれじゃあ。
俺は…。

「…笠松?」

「…一体いつからだったんだ」

「なにが?」

自分のことなのに、今まで気づきもしないなんて。

「…俺あいつ追いかけてくる」

「は!?」

「黄瀬の行きそうな場所くらい検討つくしな」

「ちょっと待ってって!おい笠松!」

驚く森山は無視して、黄瀬の出て行った方へと走り出す。

あいつを見つけたら、何から話せばいいのか。
どんな顔をすればいいのか。
何て言えばいいのか。

考えを巡らせながら、黄瀬の居そうな場所へと足を早める。
見慣れた金髪の後ろ姿を見つけた時には、もう言いたいことはまとまっていた。
腕を引っ張り振り向かせながら、

「黄瀬、俺もお前に言いたいことがある――…」

真っ赤な顔でこちらを向く黄瀬に頭の中で何回もまとめた言葉を投げかけた。




─END─

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