黄瀬君が青峰君に恋愛感情を抱いていることは、すぐに分かった。
青峰君を見る時の、少し垂れ下がっている細められた目に、朱を帯びている頬。
本人は隠しているのだろうけど、僕からしたらそんなこと一目で分かる。
ずっとキミを、キミだけを見ている僕には。

だから本音を言うと、青峰君が部活をサボるようになって、内心少し嬉しかった。
喜んではいけないとは分かっているけれど、ちょっとは僕の方を見てくれると思った。
でも、やっぱりそんなに簡単にいってはくれなくて。


「…青峰っち、今日も来ないんスかね…」

開かない体育館の扉を見ながら、呟くようにそう言う。
僕に言っているのか独り言なのかは分からないが、一応返事を返す。

「…来てほしいですが、もう部活も終わりの時間ですよ」
「…そう、っスよね…」

青峰君の代わりに僕を映してくれると思ったその両目は、扉ばかりを映していた。
僕に悲しげに笑いかけると、早足で練習に戻っていく。

「……キミは…どうしたら、僕の方を向いてくれるのですか」

やっぱり、光と影とじゃ、天と地ほどの差があるのでしょうか。
光がなくては影はできない。
でも、影がなくても光はできる。
僕は青峰君という光のお陰で存在しているようなものだ。
なら、青峰君がいない今、僕自身の存在も薄れていっているのか。

いつも青峰君は黄瀬君の心を掴んでいて、いなくなってもっと黄瀬君の中で大きくなっていっている。
それに比例して、黄瀬君の中で僕の存在はどんどんと小さくなっている。

「黄瀬君の心を、僕が掴むことはできないのですか…」


それから少し経ったある日。
黄瀬君に相談された内容に胸が痛んだ。

「…黒子っちにだから言うけど…、俺ね、実は青峰っちのことが好きなんスよ。すっごく。だから昨日、青峰っちに部活に戻ってきてほしくて呼びに行ったんスけど、追い返されちゃったっス。少しも俺の方を向いてくれなくて……、俺…どうしたらいいかな…」
「…黄瀬君」

余程悲しかったのか、最後は泣きながら僕に抱きついてきた。
肩に顔を埋めて、体を震わせて。
そんな彼の背中を摩りながら、優しく言った。

「…大丈夫ですよ。今は少し心の整理がしたいんだと思います。その内ひょっこり部活に来ますよ」
「……そうかな…青峰っち、俺のこと嫌がってないかな…」
「…そんなことないですよ。青峰君も……黄瀬君のこと好きだと思いますよ」
「…そうだったらいいな…」

目の周りを真っ赤にしながらも、黄瀬君はふわっと綻んだ。
ありがとう、黒子っちに話し聞いてもらうとスッキリするっス。
そう言って、再度僕に抱きつく。

(…そんな笑顔を僕に向けないでください…)

思ってもないことを言って、むしろ戻って来ないでと思ってるのに、そんな笑顔を向けられたら後ろめたさでどうにかなってしまいそうです。


そして僕も色々合って部活に行かなくなって、黄瀬君と会わないまま、中学を卒業した。
中学卒業とともに、黄瀬君への想いは諦めよう、そう思った。
けれど、高校に入って新しい光と出会って、またキミは僕の前に現れた。
諦めかけていた僕の想いを、その笑顔で膨らませて。

「黒子っち」

鈴のようなその声で僕を呼んだ。


‐END‐

2に続く



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