もう、これで何度目になるのだろうか。
両の指の数を超えてるのは確かだ。
吐きそうなほど気持ち悪いこの行為。
好き合っているもの同士がやるはずのこれは、自分には嫌悪感や疵痕を生むだけのものだった。
恋人や皆を守るために我慢しなきゃいけないとは分かっているが、はっきり言って限界だ。



先輩たちが俺にいい気を持っていないことは知っていた。
というか、生意気な態度を取っていれば敵を作ると最初から分かってた。
けど、出来ない者が出来る者を恨み妬む奴らが悪いと、態度を改めようとはしなかった。
しようとも思わなかった。
それがこんなことになるなんて。

殴られるだけなら外傷が増えていくだけで、派手に転んだと思えば済む。
でもこれは外傷よりも心の傷の方がどんどんと増え、癒えることはない。
乱暴に身体をまさぐるゴツゴツした手。
時折痛みを与えられ、その痛みの傷が点々と皮膚に付けられる。
幸いなことに、傷は服に隠れる場所にだけしか付けられなかった。
先輩等もさすがに傷を見える位置につけるとヤバイと思ったのだろうが。

「……っ、」

身体の中にある異物に犯されながら、俺は声だけは出すまいと口唇を強く噛み締める。
一気に四人も相手したのに、休ませることはさせてくれず五人目の相手をしていた。

「…黄瀬くんさぁ、声だしてくんない?つまんないじゃん」

ぐったりと項垂れてる俺の顔を持ち上げられ、先輩と目線を合わせられる。
それにたっぷりと嫌味を込めて鼻で笑ってやる。

「…っは」

「……へぇ?まだ歯向かう気力残ってたんだ?」

そう言うと、俺を囲うようにして見ている他の先輩たちがニヤケながら口を開く。

「…他のスタメンにも同じことしてやる?黄瀬声出さねーしつまんないじゃん」

「…っ!?」

「そうだなー、それもいいかもなー。あいつらもちょっと調子乗ってるみたいだし?」

「おい…!約束が違うっ!俺がこれ黙ってれば皆には手出さないって最初に約束しただろ!!」

「そんな約束したかなー?」

「止めてほしければちゃんと声出せよ」

「……わ…かった…」

卑怯なやり方に屈するのは大嫌いだが、ここで嫌だと言えば、皆もこんなことされてしまうかもしれない。
青峰や紫原なら返り討ちに出来そうだが、それは相手が一人の場合だ。
六人もいたらさすがに誰も叶わない。
皆と楽しくバスケするには、俺が我慢すればいいんだ。
素直に、従っていれば。
口唇を血が出るほど噛んでいた歯を緩め、再開された行為に嫌々声を出す。

「…ふ…、んぁ…っ、や、ぁっ」

「はは…っ、やっぱ声出してくれた方が楽しいわ。それに黄瀬君モデルなだけあって顔も中性的でキレーだし?男だって分かっててもコーフン出来るし」

もう何でもいいから、早く終わらせてほしい。
早く、家に帰らせてほしい。

それから暫くして、満足したらしい先輩たちは不敵に笑いながら立ち上がった。

「じゃ、また来週この時間この場所に集合な。来なかったら他のスタメンが黄瀬の変わりになるって分かってるよな?」

一言投げかけ、横たわる俺を置いて帰っていく。
先輩たちの出て行った扉を、涙で潤み滲む目で見つめる。
動く気力がちっとも沸かない。
身体中汗や精液などでぬるぬるしていて、色々と最悪だった。
せめて服だけは着ようとゆっくり起き上がり、散らばっている自分の制服を集める。

そして袖に腕を通したところで、誰かの視線を感じて扉に目をやった。

「……黄、瀬…君?」

「黒子っち…!?なんでここに…っ」

扉の横にいたのは黒子だった。
瞳は大きく見開かれていて、その両目に俺を映していた。

「おーいテツ、黄瀬いたかー?」

どこからか青峰の声も聞こえてくる。
それにこちらに近づいてくる複数の足音も。
青峰の他にも皆がこっちに来ていることはすぐに分かった。

「どうしたんだよテツ?倉庫になんかい…っ、黄瀬!?」

「涼太がどうしたんだ?……、これは」

黒子の後ろから顔を出した青峰も驚きに目を見開き、その後に来た赤司、緑間、紫原も眉を寄せ顔を歪ませる。

「…何があったのだよ黄瀬」

「…黄瀬ちん、誰にやられたの?」

「だ、誰も関係ないっスよ…!というか、なんで皆帰ってないんスかっ?もう部活とっくに終わってるのに…っ」

急いで服を着ながら、立ち尽くしている皆に言う。
それに答えたのは赤司で、

「部活終わった途端に涼太の姿が見えなくなったから探してたんだ。部室に鞄置いたままだったからまだ校内にいると思ってね。今日皆でコンビニ寄っていこうと約束していただろう?」

と言いながら隣に来て俺の鞄を渡される。

「あ、そうだったっスね…、忘れてたっス…。鞄、ありがとう…」

「そんなこと今はどーでもいいだろうが!誰にやられたんだよ!」

「…だから、誰も関係ないっスよ」

「そんなわけねーだろ!先輩か!?それとも、」

「関係ないって言ってんだろ!!」

バァンッ!!

青峰の言葉についカッとなって、思い切り壁を殴る。
殴った拳から薄らと血が滲み出てきた。

「…ごめん。本当に、なんでもないっスから気にしないで」

いきなり声を荒げた俺に驚いて口を噤んだ青峰にいつもの笑顔を向けようとしたが、引きつった笑顔しか出せない。
このままここに居たら、また当たってしまいそうだ。

「探してくれたのに悪いっスけど、俺帰るっスね。じゃ、また明日」

何も言わない皆を残して、俺はその場を後にした。
皆何か言いたそうな顔をしていたが、それを聞く余裕は今の俺にはなかった。
とにかく早く家に帰って、身体を洗いたい一心だった。



******



次の日、何か言われるのを覚悟で学校に行ったが、誰も何も聞いてこなかった。
まるで何もなかったかのようにいつも通りに話しかけてきてくれる。
そのことを疑問には思ったが、自分には好都合だったのでこちらもいつも通りに接した。

そのまま何も起こらずに六日経ち、俺は部活が終わったので部室に行こうとする。
しかし途中で先輩たちとすれ違い、去り際に耳元で小さく囁かれる。

「待ってるからな?」

「…っ!」

…そうだ。
すっかり忘れていたが、確か今日だった。
この後すぐに、またあれを…。
………もう、嫌だ。



気づいたら俺は、先輩たちの待っている倉庫ではなく、屋上に来ていた。
そして柵を乗り越え、あと一歩でも足を踏み出せば落ちる位置で立ち止まる。
目に前に広がる鬱陶しいほど綺麗な青空と町並みを眺めながら、自嘲を含んだ笑いを零す。

「何してんだろ、俺…」

こんなとこに来て、自殺でもしようとしてるのか…?
なんで?
またあの行為をされるのが嫌だから?
つまらないこの世界に飽きたから?

「…違う。皆がいるこの世界が好きだから、嫌いになってしまう前に終わらせたいんだ…」

ずっとモノクロだった俺の世界を虹色に染め上げてくれた皆がいる、この世界を好きのままでいたいから。
このまま我慢し続けていたら、近いうちに嫌いになってしまう。
この世界も、大好きな皆も、バスケも。
そんなのは、嫌だ。

「…やり残したこととか沢山あるけど、いっか。最後に皆とバスケ出来たし、十分満足っスよ」

でも、恋人を置いていくのは結構辛い。
俺が死んだら悲しんで泣いてしまうかもしれない。
泣き顔は合わないし、涙も流してほしくない。
決めたことだからもう後戻りはしないけど。

そうだ、せめて最後に皆にさよなら言わないとっスね。

俺はポケットから携帯を取り出し、メール作成画面を開いた。



******



「…また黄瀬がいなくなっているのだよ」

緑間の言葉に、全員が目を合わせる。
部室にはやはり黄瀬の鞄が残っていた。

「…今日、ってことですね」

「あぁ、行くぞお前たち」

「おう」

赤司を先頭に、黄瀬が前居た倉庫へと走る。
黄瀬からは誰にされたか聞き出せない様子だったため、赤司たちはまた黄瀬が居なくなるのを待つことにした。
居なくなったら倉庫に行き、その場にいる奴全員を容赦なく絞める。
そしてもう二度とやらないと約束させる。



倉庫には六人の先輩がいた。
口を開く暇も与えずに気絶寸前まで締めあげ、黄瀬に何をしたのかなど全部吐かせた。
泣きながら話す先輩等の話に、思わず絶句した。
自分たちが見た先週のあれが初めてだと思っていたが、既に十回は超えているという。
しかも一回で六人の相手をさせていて、青峰や赤司たちに言わなかったのは脅されていたから。
誰かに言ったり逃げたりしたら他のスタメンを黄瀬の代わりに犯す、と。
この話に怒りを覚えないわけがなかった。
大事な仲間に、友達にそんなことをしていたなんて。
黄瀬は自分たちを守るために黙って一人で我慢していたなんて。
こいつらをどうしようかと考えていると、全員の携帯が一斉に鳴った。
開いて確認すると差出人は黄瀬だった。
一斉送信したようで、内容は「さよなら、楽しかったよ」と短い一文だけだった。

「は?なんだよこれ」

「そういえば、黄瀬君ここにいないですね」

「…嫌な予感がするのだよ」

「…涼太を探すんだ、早く…!」

赤司のただならぬ雰囲気に、外へ出て黄瀬を探す。
すぐに紫原が声を上げた。

「ねぇ、あそこにいるのって黄瀬ちんだよね…!?」

紫原の指差した屋上には、今にも飛び降りてしまいそうな黄瀬が空を見上げていた。

「何をやっているのだよ!あいつは!」

「まさか飛び降りる気じゃ…!?」

ほぼ全員同時に屋上へと走りだした。
悪い予感しかしなく、走っていて暑いはずなのに冷や汗しか出てこない。
扉を勢いよく開けて屋上に出ると、それに気づいて黄瀬が振り返った。

「黄瀬君!」

「なにやってんだよ黄瀬!」

「黄瀬、こっちに来るのだよ…!」

「早くこっちへ来るんだ!今すぐ!」

「黄瀬ちん!」

制止の言葉を投げかけるも、黄瀬は笑うだけで後ろに下がろうとはしない。

そして笑顔のまま、

一歩を踏み出した。

「――黄瀬ぇっ!!」

重力に逆らわず落ちていく身体に、黄瀬は少しも恐怖を感じなかった。
むしろ落ちていくほど、心に積もっていた錘が軽くなっていく様に感じた。
恋人の顔を脳裏に思い浮かべ、そっと目を閉じる。



―ごめんね、バイバイ。




─END─

死ネタが書きたいな、と思って出来たのがこれですoh…。
色々はしょったら最後展開が早くなりすぎてしまいました。
黄瀬くんの恋人誰にしようか最後まで決まらなかったので、すきなcpで置き換えてもらえると嬉しいです←


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