※カゲロウデイズパロです。
R18はエロではなくグロの方です。流血表現などがありますので、何でも許せる方のみお読みください。




『…あ…あか、し…ち…っ』

もう嫌だ。

『…ねぇ、赤司っち』

こんな光景。
こんな結末。
こんな別れ。
こんな…

『赤司っちってば…っ。起きてっ。ねぇ!』

恋人の穏やかな笑顔。

『…ぁ…、か…し……っ、ぅ、うああぁあぁぁあぁっ!』




「…っ!……はぁ……、…夢…」

夢の中から一気に引き戻され、カーテン越しの朝日に目を細める。

「…涙」

無意識の内に目から出ていた涙は、枕をしっとりと濡らしていた。
服の裾で涙を拭い、学校指定のジャージに着替える。
今日は8月14日。
学生は夏休みのまっただ中で、遠出をしたりプールに行ったりと満喫してる頃だろう。
もちろん黄瀬の通っている帝光中も夏休みに入っているが、バスケ部だけは違っていた。
強豪と言われるからには、他のどの学校よりも練習に時間を注ぎ、日々スキルアップに向けて力をつけている。
そのため、バスケ部だけは夏休みと呼べる日は8月の最後の一週間しかなかった。
なので今日も部活がある。
普通なら行きたくないと思う人が多いだろうが、黄瀬は早く体育館に行きたくて仕方がなかった。
夏休みなのに毎日恋人に会えるなんて、嬉しくないはずがない。
それに皆に会えるし、なによりバスケが好きだから。
どんなに練習がキツくても、少しずつではあるが青峰たちに近付いていくと思うと楽しく感じられた。

「よし、行ってきまーす」

靴を履いてバッグを肩にかけ、玄関を飛び出す。
朝から蒸し暑い気温の中、学校へと向かった。



*****



「今日はこれで終わりだ。各自片付け、終わった者から速やかに帰宅するように」

監督の言葉に大きな声で返事をし、それぞれ散らばっていく。
黄瀬はすぐに赤司の元へとかけより、笑顔で話し掛ける。

「赤司っち、お疲れ様!」

「ん、涼太か。お疲れ」

優しい笑みで返事を返され、嬉しくて思わず後ろから抱きつく。

「暑いぞ涼太」

「俺も暑いっスよー」

「なら離してくれ。さすがに練習終わりは汗で気持ちが悪い」

「はーい」

赤司の言葉に素直に従い、赤司から離れる。

「服を着替えて、早く帰ろうか」

「そうっスね」

部活終わりは、いつも赤司と一緒に帰っている。
寄り道をしたり、買い食いをしたりして、黄瀬には幸せな時間だった。
素早く着替えを済ませ、赤司と家路を歩く。

「今日も練習キツかったっスねー。それに暑いし」

「そうだな。でも、楽しいだろ?」

「そりゃもちろん!」

いつもと同じ道を、いつもと同じ他愛のない話をしながら歩く。
たが、一つだけいつもと違うものがあった。
赤司の顔が曇っていることだ。
笑顔ではあるが、時折周りをキョロキョロと見渡しては、ため息をつき顔を曇らせている。
どうしたのかと聞いても、曖昧に言葉を濁してはぐらかされる。

「…それにしても、ホントに今日暑いっスねー。汗留まんないっスよ」

「確か今日は30度以上あったかな」

「げっ。マジっスか。暑いはずっス。てか、赤司っち相変わらず涼しい顔してるけど、暑くないんスか?」

「暑いに決まってるだろ?…涼しそうに見えるのは、多分僕が恐れてるから、だよ」

「え?恐れてるってなにを?」

「…いや、なんでもない。それより、ほらハンカチ。服で拭くと染みになるからこれで拭くんだ」

「あ、うん。ありがとう」

赤司からハンカチを受け取り、額の汗を拭く。
またはぐらかされた気もするが、言いたくないことを無理に聞くのは好きじゃない。
なにか必要なことだったら赤司から言ってくれるだろう。
そう考え、気にしないようにしていると、一匹の黒猫が黄瀬の足元に寄ってきた。

「あ、猫っスよ赤司っち!可愛いなー」

足に擦り寄ってくる黒猫の背中を、しゃがんで撫でる。

「………」

「…赤司っち?」

返事が返ってこないので心配して振り返ると、赤司は真っ青な顔で猫を凝視していた。

「…涼太、早くその猫から離れるんだ」

「…?」

「今日は真っ直ぐ家に帰ろう」

「わ、分かったっス」

そのただならぬ様子に、黄瀬は猫から離れようと立ち上がる。

「…っあ!」

立ち上がった瞬間、手に持っていたハンカチを猫が咥えて盗って行ってしまった。

「赤司っちのハンカチ!返して!」

「おい、涼太!」

猫を追いかけ、何も考えずに飛び出した場所は、車が行き交う道路だった。

「…え」

トラックのクラクションの音に驚いて足を止める。
音のしてきた方へ視線を向けると、すぐ近くにトラックが迫ってきていた。

「…──っ!」

「涼太っ!」

その場から動けずにいる黄瀬の体を思い切り引っ張り、歩道へと引き戻す。
しかし、全速力で走ってきた赤司の足は止まらず、黄瀬の代わりに道路に出てしまう。
それは一瞬のことだった。
赤司の体をトラックが勢いよく撥ねとばし、何十メートルも引き摺っていく。
その際に赤司の髪の色の様に真っ赤な血が、黄瀬の体や道路に飛び散った。

「………ぁ…」

いきなりの事で、黄瀬の頭は回らなかった。
今、何が起きた…?
猫を追いかけて道路に飛び出して、俺を助けた赤司っちが俺の代わりにトラックに撥ねられて…。

…それで、赤司っちは?

「……ぁ、か…し…」

道路に飛び散って広がった血と、自分にもかかったまだ温かい赤司の血が視界いっぱいに映り、吐き気が襲ってくる。
口を手で覆い、上がってくる胃液をどうにか押し止める。

「……嘘…だよ、ね?赤司っち…生きてる…よね?」

ふらふらとおぼつかない足を立たせ、赤司を引き摺っていったトラックに近づく。
数分かけてトラックの元にいき、恐る恐るアスファルトに目を向ける。

「…っ!?」

そこには確かに赤司の体が転がって倒れていたが、最早原形を留めていなかった。
この状態で、生きてる訳がなかった。

「…そ、な……、赤司っち……」

黄瀬はその場に力なく座り込んだ。

「……俺の、せい…で…」

俺のせいで赤司っちが死んだ…?
俺が確認もせずに道路に飛び出したから赤司っちが…。

「…嫌だ…嫌…、赤司っち…っ」

目から溢れてくる涙が、頬を伝って地面に落ちる。
頬についている赤司の血が涙と合わさり、真紅色の涙となって落ちる。

「起きてよ…っ。赤司っちっ!赤司っちっ!!」



*****



「──はっ、」

目を開けると、そこは自室だった。

「…また…夢?…どこから…どこまで…?」

ゆっくりと起き上がり、携帯を開いて日付を確認する。

「…8月、14日…」

ということは、さっきの出来事はやはり全て夢だったのか。
リアルすぎる夢に困惑しながらも、部活の支度をし、学校に向かう。


夢と同じ練習メニューに、夢と同じ部員たちの会話。
黄瀬と赤司以外、なにもかも夢の通りに進んでいき、とうとう帰りの時間になってしまった。
このまま帰れば、赤司が夢の通りにトラックに引かれてしまうかもしれない。

「…ねぇ、赤司っち」

「どうした?」

「今日さ、ちょっといつもと帰り道変えないっスか?」

変に思われないように、なるべくいつもと変わらない笑顔で提案を出す。
その提案に赤司は少し眉を寄せて答える。

「…いや、いつも通りの道で帰ろう」

まさか拒否されるとは思っていなかった黄瀬は、驚きに言葉を詰まらせる。

どうしよう…。
このままじゃ赤司っちが…っ。

「お、お願い赤司っちっ!今日だけいつもと違う道で帰ろう!?今日だけっスから!」

手のひらを合わせ、必死に説得をする。
暫く黙っていた赤司だったが、深いため息を吐くと、ふっと優しく微笑んだ。

「…分かった。違う道で帰ろうか」

「…!ありがとう赤司っち!」

「だが、一つ約束だ。絶対に僕の隣から離れてはダメだよ。約束出来るか?」

「約束するっス!」

よく分からないが、それを守れば帰り道を変えてくれて、赤司が助かるのだ。
約束しないはずがない。
コクコクと頷くと、赤司は家路を歩き始める。
もちろんいつもとは違う、少し遠回りになる道を歩く。
赤司と約束した通りに隣を歩く黄瀬は、久しぶりに来た道に周りを見渡す。

「こっちの道、すごい久しぶりに通ったっス」

「そうか」

「あれ、あんな所に高層ビルなんか作ってたんスね!でっかー」

黄瀬と赤司が歩いている道の少し先の通りに、まだ半分程しか出来ていない、作りかけの高層ビルがあった。
上の方はまだ骨組みが剥き出しの状態で、いくつか鉄柱もぶら下がっている。

「これなんのビルっスかね。マンション、とか?」

「…さぁ、どうだろうね」

そう言ってビルを見上げる赤司の顔は、夢で見た時のように青ざめていた。
なんとなくここに居てはいけない気がして、黄瀬は赤司の腕を引っ張り、ビルの横を素早く通り抜けようとする。

ブチッ!

「…ブチ?」

紐の切れる音と、風を切る重たい音が頭上から聞こえ、ビルを見上げる。
そこには、ちゃんとビルに繋がってぶら下がっていたはずの鉄柱が、黄瀬目がけて数本降ってきていた。

「…ぇ…」

「涼太っ!」

夢の中のように動けない黄瀬の身体を、赤司は思い切り突き飛ばす。
突き飛ばされさせいで強く尻餅をつき、ビルの下から出される。

「─っ、赤司っち!」

赤司が隣にいないことに戦慄し、すぐに先程自分が立っていた場所に目をやる。

「…………」

そこにいた赤司は何故か、綺麗で思わず見惚れてしまう程に屈託のない笑顔を黄瀬に向けていて、曇りの一つもなかった。
そんな赤司の体に、落ちてきた鉄柱が突き刺さる。

「──赤司っちっ!」

背中から刺さった紺色の鉄柱は、胸から貫通し鮮やかすぎる程の赤に色を変え、地面に落ちた。
赤司に向けて伸ばした手は空を切り、なにも掴まずに黄瀬の足の上に力なく戻っていく。
倒れた赤司の体から血が溢れて流れだし、周りに水溜まりを作る。
ピクリとも動かないそれを目の前に、黄瀬は拳をキツく握り地面を叩く。

また自分の代わりに赤司が死んでしまった。
また何も出来ずにただ見ているだけだった。
何かが起こるかもしれないとは、分かっていたはずなのに。
なのに、なのに…。

「……っんでだよっ!」



******



「───…、…ゆ、め?」

まるでお決まりのように自室で目を覚ます。
重い体を起こし、携帯を開く。
ディスプレイには8月14日の文字。

「さっきのも夢…?…なら、今、この時も夢?」

携帯を握りしめ、頭を抱える。

「…もう、どれが夢で、どれが夢じゃないのか…分からない…」

夢の中では必ず最後に赤司が自分を守って死んでしまう。
もし今見ているこれも夢だとしたら、また赤司が自分のせいで死にゆくのを見なければならないのか。

「…そんなの、もう、嫌だ…」

絶対にこれ以上赤司を死なせない。
何か、死なずに済む方法があるはずだ。
未だに溢れて留まらない涙をタオルで拭きながら、部活の準備を始める。



時計を確認せずに家を出たために、随分と早い時間に学校に着いてしまった。
今考えれば、部活に来ないで家で大人しくしているという選択肢もあったが、それでは解決しない気がする。

「…あ、黄瀬君、おはようございます」

「…え、黒子っち…?」

誰もいないと思っていた部室の扉を開けると、中には黒子がいた。
長椅子に座り、本を読んでいたようだ。

「早いですね」

「黒子っちこそ。どうしたんスか?」

「目覚ましを早くかけてしまったんです。家にいても特にすることもないので、部室で本でも読もうと思って早めに来ました」

「そうだったんスか」

「黄瀬君はどうしたんですか?」

「…俺は、…ちょっとじっとしてると落ち着かなくて…」

苦笑い気味に言うと、黒子が顔をしかめる。

「…何かあったんですか?」

「あ、いや、別になにもないっスよ」

心配させてしまったと急いで首を振るが、黒子は顔をしかめたままだ。

「僕でよければ話聞きますよ」

「ホントになにも…」

「僕じゃ力になれないでしょうか」

「………」

夢を繰り返してる、なんて信じてもらえるのだろうか。
だけど、信じてもらえなかったとしても、何か案を出してくれるかもしれない。

「……あのさ…」

黄瀬は夢のことを相談することにした。



******



「…つまり、現実だと思っていたことが全て夢で、今も夢かもしれない、と」

「うん…」

「最後は赤司君が黄瀬君を庇って死んでしまう、を繰り返してる、ということですか?」

「そうなんスよ…」

黄瀬の話を静かに聞いていた黒子は、難しい顔をして言う。

「…信じて、もらえないっスよね」

「信じますよ。こんな思い詰めた顔で冗談なんか言わないと思いますし」

「…!ありがとう…っ」

「でも、そうなると今黄瀬君と話してる僕も夢の中の人、ということになりますね」

「…ぁ、…それは…」

深く考えないで黒子に話してしまったが、よく考えればそうだ。
本人を目の前にして、お前は実物しないんだ、と言っているようなものだ。

「いえ、責めてるわけではないんです。少し確認したかっただけで。…赤司君が助かる方法なんですが…」

「…何かあるんスか?」

「何かといいますか…、黄瀬君の話に似た内容の本を読んだことがあるんですが、その本では………」

「───、」



******



もう三度目になる同じ部活の時間が終わり、黄瀬と赤司は話ながら家路を歩いていた。
どう足掻いても最後は死ななければならないのなら、賭けに出るのもいいかもしれない。
今回は帰り道を変えず、黒猫に会った道を歩く。
もしまた黒猫に会ったとしたら、その時は一回目と同じ行動をしなければ。

「ニャー」

考えていた通りに一匹の黒猫があの時と同じ所から姿を現し、黄瀬の足元に寄ってきた。

「あ、猫っスよ赤司っち!可愛いなー」

足に擦り寄ってくる黒猫の背中を、しゃがんで撫でる。

「………」

「…赤司っち?」

振り向いて、真っ青な顔で猫を凝視している赤司を見る。

「…涼太、早くその猫から離れるんだ」

「…?」

「今日は真っ直ぐ家に帰ろう」

「わ、分かったっス」

猫から離れようと立ち上がるが、その瞬間ハンカチを猫が咥えて盗って行ってしまう。

「…っあ!赤司っちのハンカチ!返して!」

「おい、涼太!」

猫を追いかけ、道路に飛び出す。
ここまでは考えていた通りに出来た。
ここからは…。
トラックのクラクションの音に足を止め、後ろから追いかけてきている赤司に向けて腕を伸ばす。
その腕を掴もうと赤司も腕を伸ばした。
お互いの手が触れる直前に赤司の手を避け、赤司の体を突き飛ばして歩道へと押し戻す。
地面に倒れこんだ赤司は目を見開いて黄瀬を見る。

「…ごめんね、ありがとう…」

「───っ」

赤司に笑顔を向け、謝罪と感謝の言葉を放つ。
今まで助けられなくてごめんね、庇ってくれてありがとう。
微笑む黄瀬の体を、トラックが勢いよく撥ね飛ばす。

「涼太ぁっ!」

一瞬の酷い痛みに軋む身体、そして赤司の叫びを感じながら、黄瀬は意識を手放した。
これでもう、赤司っちがいなくなる場面を見なくてすむ。
この繰り返しの夢が、終わる。
やっと。



******



「……りょ、た…」

黄瀬がトラックに撥ねられた後、赤司は目を覚ました。
すぐに起き上がり、呆然と座り込む。

「……また…ダメだった…」

顔を酷く歪ませ、その瞳には涙が滲んでいた。
もう何十年も続いているこの悪夢の中で、黄瀬を助けることだけが赤司の願いだった。
だが、その半分は助けられずに恋人の死を見届けていた。
笑顔で死んでいく、恋人の姿を。

「…今日こそは、絶対涼太を死なせない」

強く、強くそう呟き、赤司はベッドから降りて支度を始めた。




─END─


黄瀬君がヒビヤ役、赤司様がヒヨリ役です。
色々変えたのでおかしな所が沢山あると思いますが、そこは気付かないふりで読んでくださると嬉しいです)ω()ω()ω(
本当は黒子っちがコノハ役で、二人を助けようとしてる場面を最後に書こうとしたのですが、見事に力つきました\(^O^)/


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