素直に




「あ、あそこにベンチあるぜ涼ちゃん!ちょっと休まない?」

「そうっスね」

和成君に先導され、小さな公園にちょこんと置いてあったベンチに腰を下ろす。

久しぶりに重なった休日に、恋人である和成君からデートのお誘いを受けた。
特に当てもなく思い立った場所を歩いて回ってる最中で、ちょうど足が疲れてきたところだ。

和成君に気づかれない程度にため息を吐き足を休めていると、こちらにいつもの柔らかい笑顔を向けられる。

「自販機探してこようと思うんだけど、涼ちゃんは何飲みたい?買ってくるよ」

「え、いいっスよ。俺も一緒に行く」

「いーからいーから!涼ちゃんは休んでていいよ」

「でも、申し訳ないし…」

「もうちょっと俺に甘えていいと思うぜ?遠慮しすぎだって。ね?」

頭をわしゃわしゃと撫でながら、ほら、と催促される。
乱れた髪を戻しながら、申し訳なく告げる。

「…じゃあ…ミネラルウォーターがいいな」

「ははっ、涼ちゃんいつも水ばっかだよな。飽きないん?」

「美味しいじゃないっスか」

「俺は炭酸とかのが好きだけどなー。いつものメーカーのだよね」

「うん。お願いするっス」

「はーい、んじゃちょっとひとっ走り探してくんね!」

そう言い残して、肩越しに笑いかけ駆け足で行ってしまう。
残された俺は、することもなく足をぶらぶらとさせながら、ぼーっと帰りを待つことにした。



******



「………、ん……あれ…?」

何かの視線を感じて薄らと目を開けると、和成君が覗き込むようにして俺を見ていた。
眠ってしまっていたことに少し驚きつつ、ゴシゴシと目を擦る。

「おはよう、涼ちゃん」

「俺、いつの間にか寝ちゃってたんスか」

「俺が戻ってきた時にはもう寝てたよ」

ニコニコしながら、冷たいミネラルウォーターを手渡される。

「ありがとう。起こしてくれてよかったのに」

「いーえー。涼ちゃんの寝顔可愛いから起こすの勿体なかったんだもん」

「可愛いって…、俺男だってば」

何かと和成君は俺に『可愛い』とよく言う。
女の子なら嬉しいだろうけど、生憎と俺は男なのであまり嬉しくはない。
いつもそう言っているのだが、笑顔でまた同じことを俺に告げるのだ。

「可愛いものは可愛いんだって」

「…それに俺、和成君より背デカいし、一応モデルだし…」

「そんなの関係ないって!俺には涼ちゃんは可愛いの!」

「………」

そんな事俺に力説されても…。

でも和成君は、これだけは譲れない!と俺が何を言っても意見を変えようとはしない。
だからここは俺が流すしかなかった。

「…ありがとう。和成君もカッコイイっスよ」

「ホント!?涼ちゃんに言ってもらうと嬉しさが増すんだよね」

「喜んでくれて俺も嬉しいっス」

「……っ」

笑顔でそう言うと、和成君がいきなりワナワナと震え始めた。

「ど、どうしたんスか?」

「…っんとに涼ちゃん可愛すぎだって!!今すっごく抱きしめたいんだけど!」

「えっ、ちょっとそれは…っ、ここ公園っスよ!人に見られたらどうするんスか!」

「大丈夫だって!そんなのは後で考えれば!」

そう言うやいなや、強く抱きしめられる。
離れようと少し抵抗してみるが、和成君の腕はびくともしなかった。
周りに人がいないのがせめてもの救いだけれど、当の本人は多分周りの事なんか気にしてないのだろう。

「もー、和成君は相変わらず強引っスね…」

「まーまー、いいじゃんいいじゃん!」

まるであやす様に片手で俺の頭を優しく撫でる。
ため息をつきながらも、自分もそっと腕を回した。

(…ホント、緑間っちといる時と感じ違うっスよね…)

緑間っちといる時は頼れる相棒って感じでカッコイイのだが、俺といる時はデレデレという言葉が似合うほどにニコニコしていて、これでもかってくらいに甘やかしてくるのだ。

まるで親バカのように。

(…まあ、どっちもカッコイイし、好きなんスけど…)

でも、俺は甘やかされるよりも、もっと一緒に、近くにいたいんスけどね…。

ねえ和成君。

気づいてよ…。



‐END‐

遅くなってすみません!
少しでもリクエストに添えられていたら嬉しいです^^
リクエストありがとうございました!


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