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小悪魔な貴女との駆け引き


非番の朝一。

影分身のカカシ先輩に叩き起こされ、紙切れを渡された。内容は『助っ人よろしく』と、地図の走り書き。
全然意味が分からなかったが、ここで無視をすると後が怖いので気だるい身体を起こした。身支度を済ませて、地図を見ながら目的地へ向かう。

そこはアパートだった。
場所は本当にここで合ってるのかと見直していると気配を察知したのか、ガチャっとドアが開き見知った人物がそこにいた。
 


「あれ…もしかして、カカシの言ってた助っ人ってヤマト?」

「…そう、みたいですね」

「みたいって、何それ。とりあえず上がって」

「…って、名無しさんさん!…足と手…どうしたんですか…」

「え、カカシから聞いてないの?」



見知った人物、それはカカシ先輩と同期の名無しさんさん。

聞いているわけがない、というよりここが彼女の家っていうのも知らなかったし。
それよりも驚いたのは両手と片足に包帯をガチガチに巻いていた彼女の格好。



「…その、それは任務で?」

「そうそう、ちょっと手練れとあたってさ。ボキボキに折られて筋もいって。一応医療忍術で治してもらったけど完治までは少し時間かかるみたいでね」



ひょこひょこと歩きながら室内に入っていく姿を見て、躊躇しながらも部屋に上がらせてもらった。



「お邪魔します…」

「散らかってるけど。あ、何か飲む?」

「あ、ボクがいれますよ!」

「ぉ、助かる。実は全然力入らなくて」



ソファに座り込んだ彼女に一言声をかけて、台所へ行きお湯を沸かす。

そこで深呼吸。
なりゆきとはいえ、ずっと好きだった人の家で二人っきりになるとは思いもしない。



「えっと、コーヒーで良かったですか?」

「うん、ありがと」

「いえ…」

「突っ立ってないで、横座れば?」

「…し、失礼します」



彼女が横と称したのは、自身が座っているソファの隣。
別に普通の事だが、なんせそれは二人掛けのものであってサイズは小さめ。女性二人が座るなら問題ないけど、体格の大きいボクが座るとなると…



「肩ぶつかるね」

「す、すみません…!」

「別に謝ることでもないけど…」



子供じゃあるまいし、挙動不審になりすぎだと分かっている。だけど、忍服ではなく部屋着の彼女はタンクトップと膝下までのパンツといったラフな格好で。

普段、露出が全くない分…意識をしてしまう。



「すみません…じゃ、なくて…えと、その最初に言ってた助っ人ってなんの事ですか…?」

「あぁ、それね。この現状見たらもう分かると思うけど…ちょっと私生活にも影響出てね」



片足を上げながら、ヒラヒラと両手を振る姿を見てパーツが揃う。



「なるほど…それで助っ人ですか」

「うん、一週間くらいはこれだから色々手伝ってほしくてさ。カカシに相談したら、任せないって言われて待ってたら」

「ボクが現れたと」

「そっ」



これはカカシ先輩に感謝すべきか?
というより、自分が来なければ誰がここに来てたのだろう。

気になる…
ここはもう、恥を忍んで聞こう。



「その、名無しさんさん…もしボクが来なければ…どうされてましたか?」

「ん?」

「あ、じゃなくて!…えっと、ボク以外の誰が来るかと思ってましたか!?」



情けない、声が裏返った。 
そんなボクに対して、クスッと小さな声が。

笑われてしまった?



「ごめん、ごめん。可愛いなーと」

「か、可愛いとか」

「私、そんなヤマトが好きなんだよね」 

「へ…わっ!」

「うん、ナイスキャッチ!」

「ちょ、名無しさんさん…怪我してるのにダメじゃないですか!」



いきなりの可愛い発言後の、好き宣言。
思考回路は軽くショート。

するとソファに座っていた彼女が、力を込めて抱きついてきたので慌てて受け止める。
いくら真横からと言っても反動やらに負荷はかかるだろう。



「でもちゃんと受け止めてくれたじゃない…うーん、ヤマトって見た目よりガタイいいよね」

「わ、わっ…」



受け止めてすぐ離れるかと思った身体は首筋に手を回し抱き締められる形に。心地よい程度に締め付けられ、密着する互いの身体。
豊やかな彼女の胸が自分の胸元に当たり、挙動不審になる。



「ね…ヤマト」

「そ、の、耳元はやめて…下さいっ」

「感じちゃう?」

「っ〜〜」

「じゃあさくっと伝えるね…私はカカシに助っ人じゃなくてヤマトを呼んで欲しいと伝えたの」

「ぇ…」



甘い吐息と憂いを含んだ声が耳元を擽る。
顔は真っ赤、動悸は激しいくらいに波打つ。

そんな中、冷静に彼女の言葉を理解しようと試みる。



「助っ人って、言ったけど…私はハナからヤマトに頼むつもりだったの…何でか分かる?」

「…す、すみません…今、頭が上手く働かなくて…」

「ふふ」



妖艶な笑みが目の前にあり、まっすぐ見つめられない。

だけど、自分の思い違いでなければ…



「そ、その…ボクを好きだから…ですか…」

「残念、違う」

「ええっ!!?」



なんだこれ、なんの罰ゲームだ!

今までのは全部嘘だったと?

さすがにショックが大きい。
所詮、ボクは彼女にとってからかいがいのある後輩なんだ。
 

「愛してる」 

「え…」



ぎゅっと、先程よりも密着された。
甘い香りが鼻腔を擽る。



「好きじゃなくて、愛してるの」

「っ、名無しさんさん…」

「ヤマトは?私のこと」



今さら実感。

彼女は強く、自由奔放で、掴み所のない女性。
だけど凛とした強い意志を持っていて。

そして、小悪魔ということを。



「愛してるに決まってますっ…!!」

「じゃあ…一週間よろしくね、私の可愛い彼氏さん?」



きっと色んな意味で彼女には負ける。
それでもそんな貴女が愛しいんだ。



「じゃあ…怪我治ったら…覚悟しといて下さい」

「分かった、体力落ちないように頑張る…でもその前に」

「ん…っ」



女性特有の細長い指が頬に触れ、唇が触れ合う。

ちゅっと軽く触れ合うだけの、それはまるで子供のようなキス。
物足りないはずなのに、心は満たされて…



「顔…真っ赤」

「もうっ…ほんと、覚悟して下さいねっ…!」

「はいはい」



まずは一週間、きっと我慢の連続だけど…



「…男を見せつけてあげますよ、楽しみにしてて下さい」



fin
20150701




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