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その夜。
窓際、月明かりの下で自分の髪に触れる。
お姉さんが綺麗と褒めてくれた髪、ボクの自慢の髪。

男のクセに、ナヨナヨしいとか思われちゃうかな?
でも、いいんだ。だって、嬉しいんだもん。
他の人にそんな風に思われたりするのはイヤだと感じる。でも、名無しさんさんに褒められるのは悪い気がしない。


早く、早く、会いたい。


会いたいと思えば思うほど会えない事も多いと耳にするけれど、そんな負のジンクスはボクに通用しなかった。



___



「すっごい大雨だね…これじゃ傘なんて役に立たないかなぁ」

「っ…お姉さん、早くタオルで拭いて下さい…!っていうかもうシャワー浴びて下さい。体、冷えちゃいます」

「お姉さんは大丈夫、甲くんこそ子供なんだからシャワー浴びていきなさいっ!」



夕方から天気が崩れると聞いていたので、早めに修行を切り上げ帰っていた矢先。

名無しさんさんとバッタリ出会った。

たわいないお話をしていると予報通りに雨が降ってきた。小雨ならまだしも、まさかの豪雨。
ボクは濡れても問題ないけれどお姉さんが濡れて風邪でも引いたら大変だ。ともかく屋根のある所に移動しなきゃと、慌てて近くを見渡す。

その瞬間、グッと腕を掴まれる感覚。

え??

少しだけ思考回路が停止、そのほんの少しの間に物事は急展開。屋根のある場所へ移動していて、なんとその場所はお姉さんの家だった。
すぐに帰ろうとしたら引き止められて挙げ句の果てにシャワーまですすめられた。


なんていうか子供だからって言われるのが、複雑だし…つらい。

…つらい?

いやいや、違う。
子供でもボクは男なんだし、そう簡単に家に上げちゃいけないってヤツだ!



「お姉さんっ、ボクは…男ですよ?」

「え?うん、男の子だよね。いくら髪が長くて綺麗でも甲くんを女の子に間違わないよ?」

「ぅ………。シャワー…お借りします…」



男の子、男の子…

名無しさんさんにとっては所詮、ボクは男の子。

そんな事、分かりきっているはずなのに言葉にされるとショックは大きい。
それを、ごまかすように一目散へとお風呂場へ向かった。



「ゆっくり入ってね?服は用意しておくから」



濡れた服を脱いでお湯を頭から浴びる、冷えた身体が温まって気持ち良い。
そうして気付く、ここは名無しさんさんがいつも使っているお風呂場。
シャンプーやボディソープ、その他もろもろ。
お姉さんから香るものが、全て揃っていて…
悶々とする何かを沈めようと、わざと冷たいシャワーを浴びた。

ボクは、鍛えてるから風邪なんて引かない!



「シャワー、ありがとうございました…」

「ちゃんと温まった…って、甲くん、髪の毛ベタベタじゃない。もう、ちゃんと乾かさなきゃダメでしょ?」

「……」

「甲くん、聞いてる?」



ある意味、上せていたボクは軽くだけ水分を拭いてお姉さんの前に戻ってきた。
すると名無しさんさんはボクの髪に触れて少し怒った音色で問いかける。

ちゃんと聞いてます、どんな貴女の声もボクは聞こえている。


知ってますか?
ボクが髪を伸ばすのは、名無しさんさんが髪に触れてくれるからだって事を。

貴女が触れる度に感じる、この感情は何だろう?

今のボクにはまだはっきりしたものは分からないけれど…この時間がとても大切で、大好き。


ねぇ、ボクのお姉さん。


今日もボクの髪を触って?梳いて?
その心地良い声とともに。



でも気付いてしまったんだ。
名無しさんさんのネイルが変わっていた事に、薄桃色が濃い赤色へ。
それが、ただの気分転換なら良いんだけれど。


───数日後。
その不安は的中する。






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