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正論


「…ドア前で居留守かい?」
「!」


ドア越しに声を掛けられる。
気配は完全に消していたのに、こうも簡単にバレるとは。
さすが長きに暗部に身を置いて総隊長として君臨し、大蛇丸の監視役に指名されるのは伊達じゃないと再認識。


「やっと時間が空いてね…これからの事話したいんだけど」
「あぁ…」


そういえば先日、近々連絡すると言っていた。つまり、わさわざ家まで来てくれたという事か。
それならば失礼な事をした。
一呼吸し、平常心を保ちながらドアを開ける。
 

「やぁ名無しさん、このまま無視されるのかと思ったよ。…ん、顔赤いね?」
「…任務明けで少し疲れたのかと。それよりすみません…わざわざご足労頂いて」
「それは気にしないでくれ、今の隊を離れてボクの下で任務に就いてもらうんだから。でも、体調悪いなら改めようか?」
「いえ…来て下さったし悪いです。私の体調の事は気になさらず…」
「それは助かる、次にいつ話せるか分からないしね。せめて君の身体に負担が掛からないように座って話をしたいんだけど…上がっても?」
「…お気遣い感謝します、狭い家ですがどうぞ」


体調が悪い部類に入るのか…そう見えるならまだいける。
来てもらった彼には悪いが、さっさと話しをつけて帰ってもらおう。

しかし、上がってもらった後に少しの後悔。
身体の疼きは治まらず…むしろたぎる一方。

任務の打ち合わせとはいえ、安易に異性を上げるのは不味かったか。


「案外、質素なんだね」
「意外ですか」
「いや、予想通りかな」
「なんですか、それ」
 

たわいない会話をしながらリビングへ移動。
コーヒーを用意して、椅子へ座る。


「ありがとう。で、これからの事なんだけど…」
「っ…」
「…どうしたの?」
 

話を切り出した彼に返事をしようとしたが、苦しくなって言葉に詰まる。うっすらと脂汗まで出てきた。


「…すみません、その、汗を流したくて…」
 

普通の男や後輩ならばすぐさま帰ってもらうが、相手は暗部総隊長で自分の上司、言わば雲の上のような存在。
そんな人に、やはり帰ってほしいと伝える事も出来ず仕方なしに汗を流したいと誤魔化す。
 
 
「そっか、任務明けだったんだよね?良かったらシャワー浴びてきなよ。ボクは今日非番だし構わない…と言っても、居座っていても良いならの話だけど」
「…何気にズルイ言い方をされるんですね。次いつ時間取れるかも分からないんでしょう?」
「ふふ、そうだね、何せ忙しい身だから」
「少し、待ってて下さい…」


そそくさと逃げるように脱衣所へ。
シャワーで汗を洗い流すと、肌に当たる刺激で余計身体が疼いた。
下半身に熱が篭る、だけど触れる事は決してない。

適当に服を着て、軽く髪の水分を拭き取ってからリビングへと戻る。


「早かったね、気を使わしたかな?」
「いえ…元々長風呂ではありませんし」
「そう…。で、続きだけど…」
「はい…っ」


この打ち合わせはとても重要な事だが、半分頭に入って半分入っていない。

頭がクラクラし始め、吐息も上がる。

明らか様子のおかしい私に、隊長は気づいているのだろうか…       


「名無しさん、ずいぶんツラそうだけどシないの?」
「…!…ど、どういう」
「ボクが分からないとでも?…舐めすぎだよ。媚薬か何か打たれたんだろう?」
「…っ、き…気づいて」
「まぁね、すぐ気づいたよ。どうするのか少し様子を見ていたんだけど、誰かを待ってるとかじゃなさそうだね。…もしかして、我慢してるのかい?」


堀の深い目元、大きな黒目が私を見据える。

暗部である程度の地位は確立したが、私よりもずっと前にその域に達しているこの人に勝るわけもなくて…どうやら全てお見通しのようだ。


「はぁ…っ、我慢…といえば、そうですね…」
「自慰が恥ずかしいの?…ってこの質問は愚問だね、君はもういい大人だし、それはないか」


顎元に手を添えて微笑む。

いい大人と表現したが、これは子供扱いもいいところ。軽い厭味といっても過言じゃないが、その微笑みに無駄に目を奪われて…

これがきっと大人の余裕と色気。


「っ…」
「ん、図星かい?」
「違いますっ…!」
「じゃあ…プライドが高いから、とかかな?」
「……」
「なるほど、君って思ってたよりも分かりやすいんだね」
「バカにしてるんですかっ…!」
 

その言葉についカッとなり喰らいつく。
だが彼はあくまで冷静に話を続ける。
 
 
「バカになんかしてないよ。ただ…今の自分の状態、分かってる?」
「状態…っ?」
「今の君の顔は紅く、息も淫れてきて、だんだんと妖艶になってきている。なのにプライドとかが邪魔をして疼く身体をどうする事も出来ない…。うん、耐え凌ぐ姿がとても官能的だよ、名無しさん」
「そんな…っ、こ、と…ない」
「そんなことあるよ、今の君じゃ襲われてもおかしくない」


指摘されて、自分の状態を改めて確認する。
 
薬が全身を浸蝕し始めたのか、小刻みに震える。顔は紅潮し、口からは吐息。
その口元は閉まることなく絶えず開き、唾液が零れそうになる。


「襲われる前に誘っている、の間違いかな?」
「っ、そんな、わけ!!」
「苦しいんだろ?だったら対処すればいいじゃないか…むしろ、早々に対処すべきだとボクは思う。もし、急な任務が入って呼び出されたら?そんな状態で向かうの?」
「そ…れはっ…」
「君は今はまだ、一小隊の隊長…隊の中では一番の責任者だ。風邪や怪我ならまだ分かる、だけど自力で処置出来るはずのものを放置して万全の状態を整えないなんて、それでも隊長なの?最低だね、命を預けてる部下の身にもなりなよ」
「っ…」


言い返せない。
何故なら彼の言っている事は全て正論だから。


「さっきからだんまりだけど、なにか言いたいことは?」
「……最低な、部隊隊長ですっ…返す言葉もありません…」
「なら…」
「っ!」

 
いつの間にか背後に移動した彼が、イスに手を添えて耳元で囁く。心地よい彼の澄んだ声が耳から脳内まで響いた。
恐怖による支配が好きだと聞いた事があるが、これはある意味にそれに似たようなものだ。

ビクンと全身が反応する。

隊長の声はまるで麻薬、催淫剤とのダブルパンチに思考が追い付かない。
イスに添えていた手が自然と肩に移動し、室内の奥のベッドへと誘導された。


「抵抗すると思ったけど…素直だね」
「…はぁ、っく…」


ベッドへと腰掛ける。
経験は人並みにあるし、それこそ子供じゃないので、これから起こる事はイヤというほど理解している。そう考えると急激に身体が反応して、苦しくなり倒れ込む。


「大丈夫かい?」
「はぁ…ふぁ…」


一旦意識をすると、もう疼きは止まらない。
口からは甘い吐息が漏れ、シーツを掴み足を擦り合わせる。触らなくても分かる、下肢はあり得ないほど濡れていると。

意識が保てなくなる。
いっそのこと意識さえも狂ってしまい、自我を保たず無茶苦茶に抱かれたい。
そうすれば、あと腐れがないから。





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