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07


私が意識を失い、目覚めると側にはテンゾウがいた。そこから数日を共に過ごす。

誰かと過ごすなんて、今まで無いに等しかった。心が落ち着かない。
それでも、順応に対応して…何かを求めていく。


「明日、ですね」
「うん…」


あれから頭の整理もついた。

禁忌とされる術は、あくまで意識を別次元へ飛ばし相手の自由を奪うもの。
だけど私は意識だけでなく、身体全て。

火影様の元へ行く前夜、テンゾウに先に話す。


「多分…私が雷遁で相手に攻撃したのがキッカケで術が暴走したんだと思う。術を解けば戻れると思うんだけど…その相手は…もう」


どうしたらいいのか…
私は今、確かに此所に存在する。だけど、私の本当の世界はここじゃない。
此所には既に私が存在しているのだ。
幼少の自分と関わる事なんて出来ないし、上層部にばれるとややこしい事になるのは目に見えている。

考えれば、考えるほど自分の立場や存在が分からなくなって…
それはいつしか涙となって瞳から零れていた。

 
「…ボクがいる、名無しさんさんの傍にはボクがいます。もちろんカカシ先輩や、火影様も。貴女にはちゃんとした味方がいます。此所に、貴女はいる」


テンゾウの言葉が心に染み渡る。
手を握られ、更に彼は続ける。


「…その忍が未来から来ていなくても、この世界にその忍はいるはずです。そしていつかはその禁忌も覚えるはず…そうでしょう?だからきっと帰れます。時間はかかるかもしれないけど、それまで、ボクがいます、力になります、支えます。そりゃ名無しさんさんより年下で頼りないとは思いますが…ダメですか?」
「…不審人物だよ」
「そんなんじゃありません、貴女は未来から来たって自分で言ったじゃないですか」
「…だけど…」
「…記憶は封印するんでしょ?だったら、いいじゃないですか…人に甘えても、頼っても」
「っ、テンゾ…」
「火影様も貴女を蔑ろになんてしませんよ、大丈夫」


テンゾウは、私の欲しい言葉をくれた。

自分と同じように辛い過去を持っているはずなのに、どうしてこんな優しい言葉をかけられるのだろう。


「ありがとう…」
「お礼を言われるほどの物じゃないです。さ、もう寝ましょう?」
「……テンゾウ」
「はい?」
「今日、一緒に寝てくれない…?」
「っ……ボクで良ければ」


そんなテンゾウが急に恋しくなって、声を掛けた。 

真っ赤になる顔。
それでも彼は、今までのような少年の顔でなく男の顔していた。

違う、私がそう感じたのだった。



***



「落ち着いたか、名無しさんよ?」
「はい、ご心配おかけしました」


翌朝、テンゾウと一緒に火影様の元へ向かう。カカシも来るといっていたが、急な任務が入ったらしい。


「うむ、顔色も良くなったな。話を進めるがよいか?」
「はっ」
「相手の術は、精神のみを異空間に飛ばす…じゃったな?」
「はい、ただその瞬間に相手に止めを刺したので…そこから察するには…」
「術の暴発に巻き込まれた…と言うことか」
「ええ、それで…考えたのですか…」


気丈に振る舞いつつも倒れた身を案じて火影様は、わざわざテンゾウに休暇を与えて私の様子を看させた。
おかげで体調も、精神的にも落ち着いた。
だけどやはり不安からか、手が震えてしまう。するとすぐに暖かいものを感じた。  


「…テンゾウ?」


その正体はテンゾウの手。


「不安にならないで下さい。昨日言ったでしょう、ボクは…ボクらは貴女の味方だと」
「ん、ありがとう」


これじゃ、どっちが子供か分からない。
それほど、私の中でのテンゾウが大きく見えていた。

意を決して、口を開く。


「…それでこの術を解く方法ですが、解けるのは術をかけた本人のみ。でもその忍はこちらに飛ばされた訳でなく、向こうで死にました…だからっ…」
「…名無しさんさん、後はボクが伝えますよ。…火影様、彼女のいた世界の忍は死んだとしましょう。だけどこの世界の忍は生きているはず…そこを狙うというのは、いかがでしょうか。時代は違っても、彼女に術を掛けた本人には変わりませんし」
「うむ…名無しさんは、それで良いのか」
「え」
「そやつが術を覚えるとしても、ある程度の時間はかかるじゃろうに。その間…お主の生活は極端に制限される。監禁とまではいかんが…。ワシら以外の者にバレると色々大変じゃしな」
「…私、いてもいいんですか」
「んむ、そこからの話になるのか?当たり前じゃろう」
「つっ…」


当たり前。

その言葉一つで、自分が此所にいてもいいんだと再度実感し、涙が溢れた。


「ふぉっふぉっお!名無しさんは感情豊なんじゃな…知らなんだわ」
「す、すみませ…!」
「火影様、からかうのはそこまでに…ボクは女性の涙は見たくないです。だから名無しさんさんも泣かないで?ね、言ったでしょ…味方だって」
「うんっ…」
「過去に飛ばされ、不安じゃろうが…名無しさんは木ノ葉の忍。ワシが守るべき、愛すべき家族には変わらん」
「火影様っ…」


私にとっての喜怒哀楽、それは相手の記憶を通して学んだもの。たくさんの人の記憶を覗いた私にとって、どの場面でどういった表情をすればいいのかは容易い事。
でもそれはあくまで表面上。
ここにきて、本当の感情というものが始めてなんたるかを知ったかもしれない。

人と関わり、触れ合うことで温もりを知った。


「よし…名無しさんの住む家じゃが、ひとまずカカシの家で良いか」
「か、カカシ先輩の…家?」
「…そこは、私がどうこう言える立場ではありませんので火影様の一存に従います」
「ならばさっそく向かうが良い。カカシもちょうど落ち着いた頃じゃろう」
「…落ち着いたとは、どういう事ですか?カカシ先輩は今日任務のはず」
「その任務が落ち着いた。と言っておるのじゃ。気になるならテンゾウも行ってこい。名無しさんは隠密にな」
「はっ…とりあえず、テンゾウ案内してもらっていい?」
「ええ…」


そうして人目を避け、カカシの家に向かう事になった。

少しだけテンゾウの様子がおかしいと思ったが、私の気のせいだろうか?





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