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04


「私の名は名無しさん。性は…名無し。秘術を扱う一族だった」
「だった…?」
「もう、名無しさん以外に一族はおらん」
「私の一族は、その秘術ゆえ滅ぼされた」


目を閉じれば思い出す、忌まわしき光景。
泣いても、叫んでも、何も変わらない。
血飛沫が飛び散り、バタバタと倒れていく人々。まさに地獄絵図。

でも、それは全て自分が見たものじゃない。
全て情報として得たもの。

その時、私はまだ母親の体内にいた。


木ノ葉より少し離れた場所に一族はひっそりと暮らしていた。
その為、救援が間に合わなくて三代目火影様を含めた精鋭が駆けつけた時には、火が放たれ焼き野原と化していた。
急いで水遁の術で鎮火し、そこから生存者の確認。探しても探しても誰も生きている気配はなかった。


だが、そこで小さな声。


女は臨月で、子供が産まれるかの瀬戸際だったようだ。いや、産んでいる最中に殺されたというのが正しいのかも知れない。

その産まれた子供が私、名無しさん。


「とまぁ、生い立ちはこんなものかな。よくある話といえばそう。で、その秘術というのが…大雑把に言うと人の情報…つまり記憶や遺伝子を知る事ができる」
「情報…記憶、遺伝子…?」
「その方法として…まずは相手の血を得る事。そして名無し一族に代々受け継がれる特殊なチャクラで覆い、それを自身の中へと戻す。すると記憶や遺伝子といった情報を知る事が出来るんだ」


そう、だからこそ私は全てを知った。
母親と繋がる臍の緒から血を通して。

もちろん母親の愛も、記憶として得た。
喪失と愛情、二つのものが一気に駆け巡った衝撃はいつまでも経っても忘れる事はない。


「…あ、それと、膨大な情報を持ち移動するのは危険だから…」


つい、過去の事を思い出し口が止まってしまった。
すぐさま気持ちを切り替えチャクラを練りピアスに触れる。すると出てくる小さな巻物。
 

「忍具口寄せの一種。ここに情報を纏ったチャクラを封印する。それで必要に応じて欲しい情報を取り出す感じ?ちなみに得た情報は自分の意思で消せるよ。だからもし捕まって拷問と自白剤とかされても真っ新な記憶になれるわけ」
「…だ、だからボク達の情報も…?」
「そーいう事。二人の噂はよく耳にもしたし、病院に世話になる確率も他の忍より高かったから血は容易く手に入った」
「そんな一族があったなんて…」
「だからこそ、名無しさんはワシを含め里の上層部でしか存在を知られてはいないんじゃ」
「ま、危険因子という意味でもね」
「ぬ、そんな事一言も言っとらんじゃろう!」
「あー…まぁ…でもねぇ」
 

火影様はそんな事思っていないのは知っている、純粋に私の身を案じてだろう。

それでも私には心を許す者が誰もいなかった、回りに人がいたとしても、孤独。
だからこそ自分の居場所を守らなきゃ、その為には力をつけなきゃ、強くならなきゃ。
隔離された部屋で、毎日修行。
何年の月日が経ったのか…実力も、秘術も使いこなせるようになった。
それが間違いだったのか。

実力を認めた上層部…主にダンゾウの目に止まり、まずは里の忍全員の情報を奪えと。
得た情報は普段ならチャクラを練り込み巻物に移行さてピアスに保管するが、その時だけは一手間掛けて文字にへと実体化させる。私の仕事はそこまで、書物となったあとの事は知らない。

それを機に他里の忍の情報を得る為の任務が増えた。殺す事はしなくても、血さえ奪えばいい日々。
そんな自分が里の危険因子として見なされるのに時間はかからない。なんせ敵の情報も含め、里内の全ての忍の情報を把握し実力も申し分ないのだから。


「…この時代の名無しさんは…今、隔離部屋ですかね」
「あぁ…」
「…私は自身の立ち位置をよく理解しています。それでも希望は捨てなかった…貴方のような理解者がいてくれたから。今、こうして三代目の前にいれる事がその証拠かと」
「名無しさん…」
「…とまぁ、こんな感じ!理解出来た、二人とも?」
「っ、あ…あぁ…その済まない、ツラい過去を話させてしまった」
「…カカシだって、そうだろ?もちろんテンゾウも」
「…強いですね、貴女は…」
「二人も、ね」 


尊敬すべき父であるサクモの自害を目の当たりにしたカカシ、人体実験にされ唯一の生き残りであるテンゾウ。

人は様々な過去を持っている、本来それを勝手に知る事なんてあってはいけない。それでも自分が生きる為、存在する為に私は歩まなければならない。

少なくとも、敵の情報を持ち帰るということは里にとっての大きな武器になる。


「…名無しさん」
「なに、カカシ」
「いや、名前を呼んでみたかっただけだよ」
「へ…あ、そう」
「ボ、ボクも…呼んでいいですか」
「はは、名前くらい好きに呼んでよテンゾウ」
「はい、名無しさんさん!」


あくまで隠密で動く自分には、知り合いはいない。
そんな中、名を呼ばれて向けられる笑顔。


何だろう…心が、あったかくなった。





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