痴漢勉強


「あーーー…スケベされたい」

クーラーの壊れた蒸し暑い部屋で、開け放った窓から電車が見えてついポロリとこぼしてしまった。

「……え、なに、フェラとかそういう事?」

家庭教師にバッチリ聞かれた。何という事だ。

「……………何でもないっす」
「そう?まーそういうのしたい年頃だよねー。オレはいつでもそうだけど」

心無しウキウキしている家庭教師。
人間誰しも好きだよな。猥談。でもオレとこの兄ちゃんじゃぜってー話合わねーしな。

「この公式意味分かんないんすけど」
「えぇーそういう話しないの?! 今のはする流れでしょ!」
「そういう話をするために雇ってんじゃないんで」
「そうだけどさぁ。堅いなぁ晃クンは」

チェっと口を尖らせる家庭教師。
大学生のコイツは教師というにはいささか子供っぽく、人懐っこく、かつイケメンで、まぁモテるだろうと予想される。オレのような後ろめたいスケベではなく、真っ当なスケベを年中お楽しみな事だろう。はは。爆発しろ。

「もうちょっとリラックスしようって、ね?」

言いながらオレの椅子を回転させて、両脇に手を突いて覆い被さる。机と家庭教師に挟まれ逃げ場のないオレだが慌てる所かむしろ心は冷めている。

「欲求不満だと勉強に身が入らないし?フェラはヤらせる専門だから出来ないけど、手コキくらいならセンセーがシてやろっか?」

肉食系のドエロい目で真っ直ぐに見つめられてますます萎える。この兄ちゃんはこうして童貞男子をからかうのが好きなんだと。

「キンタマ蹴っていっすか」
「止めたげてよぉ!」

オレの半眼に本気を感じ取ったらしい。手を上げ焦って離れた兄ちゃんは、四畳半の狭い部屋でクローゼットの取っ手に背中を打ちつけた。

「ッてェ…!うぐぐ、オレの顔で迫って赤くもならないなんて…堅いどころか枯れてんじゃねーの晃クン!」
「男に迫られてもねぇ」
「男でも赤くなるんだよ普通マジで!オレの顔舐めんな!」
「別に顔で選ばねーし」
「うっ、何かオレのアイデンティティ否定された…!」
「顔だけの自覚あったんすね」

オレからすれば顔なんかより、更に言えば性別なんかより、オレの欲求を満たしてくれるかどうかが問題だ。

「…顔で選り好みしないなら彼女出来そうなもんだけど。なんかツンケンしてて堅そうな感じするからかなぁ」

家庭教師は、自身の顔だけ問題から目を背けてオレの彼女いない問題に目を向けたらしい。いらん。

「それに服も堅いよねぇ。顔は悪くないんだから、それなりの格好すれば彼女出来んじゃねーの?したらフェラも夢じゃないって!」
「別にフェラして欲しいとかないっす」

いや、彼女が出来てしてくれるというのなら、もちろんやぶさかではない。やぶさかではないけれども。身体の底から求めているのはそれではない。

「え、じゃあして欲しいってなんだったの?」

言えるわけがない。

「……彼女は欲しいっすけどね」

言いながら思わず自嘲したわ。出来るわけねーし。
したらその自嘲を見た家庭教師がなんか急にやる気出した。いらん。

「出来るってマジで!晃クン服ねーの服!もっとオシャレなやつ!」

やる気出した家庭教師の兄ちゃんは、あろうことか背後にあったオレのクローゼットを開けやがったコンチクショウ。

「ほ、ほんとに蹴るか普通…!」
「正当防衛です」

クローゼットを閉めるついでに流れるようにキンタマ蹴ってた。うずくまる家庭教師を見てるとオレのソコまで痛い気してくる。オレじゃないこの足が勝手にやったんだ。

「え、てか今の、えー…晃クンそういう趣味…?」
「過剰防衛していいすか」
「これ以上?!」

キンタマ蹴っても記憶は消えなかったらしい。くっそ爆発しろ。

「いや別にね、人の趣味に口出す気はないけど、え、女装が好きなの?」

口出してんじゃねーか。

「って事は、欲しいのは彼女じゃなくて彼氏…?」

言いながら身構える家庭教師。だとしても顔だけのテメーを狙わねーよ。

「…ホモでは無いです」
「えっ、…あぁ!女装家ってやつ?」
「別に、女装が好きとかでも無いです」
「えっ、でも今、え?」

クローゼットを指差してうろたえる家庭教師。確かにそこには面白味のないの男物の中で明らかに異質な女物の洋服がある。
くっそ。このままだとあらぬ誤解を受けてしまう。

重ねて言うがオレは女装趣味ではない。ホモでもない。いらん誤解は受けたくない。
なら仕方ない。

「女装すれば痴漢してくれるかと思って」
「………………うん?」
「女の人が痴漢してくれたら一番いいすけど、痴女なんてそうそういねーし。男に痴漢する男もそうそういねーし。女装すれば痴漢して貰えると思っただけで」
「………………うん、うん?」
「だから、痴漢願望があるだけで女装好きでもホモでも無いんで。勘違いしないで下さい」

きっぱりと言い切ったオレに、ポカン顔の家庭教師。

「……いや、そっちのが割と衝撃の性癖なんだけど」

えっ、まじか。


☆☆☆


高校二年生の教え子からとんでもない性癖が飛び出した。
んだと思う。ぶっちゃけまだピンと来てないけど。

「えーと、それで?痴漢には会えたの?」
「痴漢もそうそう居ねーすわ」
「そーなんだ」

オレの衝撃を意に介さず、机に戻って参考書に向かう晃クン。それに倣って椅子に座って机を覗き込むけれど、オレぜったい勉強に身が入らない自信がある。

「かれこれ13回電車に乗ってるけど全部不発」
「そんなに?!」
「やっぱ満員電車ねらうかなー…」

普段つっけんどんな晃クンが、痴漢に会いたくて憂いを帯びたため息をこぼす。少し視線をずらせば見える汗ばんだ項が無性に気になってきた。
暑いとさ。なんかムラムラするよね。

「で、この公式は?」
「あぁ、これは…」

とはいえ晃クンはこっちのムラムラなんてお構い無しで、いつものようにツンケンした声で事務的なお勉強。

なんか、ちょっとムカつく。
晃クンの性癖はまだピンと来ないけど、つまり男に触られたくてわざわざ女装してた訳でしょ?目の前にこんないい男がいて、2人っきりで、なのに全く意識してないってどゆこと?
大学一のモテ男としてはちょっと許せませんよ晃クン!

って言っても教え子を本気で襲う訳にもいかんから、軽いジャブで止めておこう。じゃなきゃまた蹴られるし。晃クン怖い。
指さされた公式を説明しながら股間の痛みを思い出して、思った以上のソフトタッチで晃クンの太ももを触る。

「キンタマ蹴っていっすか」

と、お決まりのセリフが来るかと思いきや。

「……………」

ピクッと太ももが反応したにも関わらず、気づいてませんとばかり無視する晃クン。
おや?これは…。

「……だからここがこうなる訳」
「………………」

サワサワと太ももを撫でてもまだ無言。足を閉じて摺り合わせてるくせにまだ無言。むしろ不自然なくらい無言。
おやおやー?

「分かった?」
「ん…………」

摺り合わせて汗ばんだ内ももに手を差し込んで尋ねれば、いつもと違って健気にコクリ。
うわぁ。うわぁ。

「晃クン」
「ん…」
「キス、しよっか」

顔を覗き込んでにっこり笑えば、晃クンはまた健気にコクリ。

「ハァ?」

ってすると思ったのに、すっげードスの利いた声で蔑まれた。

「キンタマ蹴っていっすか」
「ええぇえ何で?! 今の流れだったじゃん!そういう流れだったじゃん!」
「これだから真っ当なスケベは」

あげく舌打ちされた。

「何でー?いいじゃん晃クンもちょっとムラってしたでしょー?」
「男とキスなんてする訳ない」

オ、オレとのキスを鼻で笑うなんて…!くっそ!なんて生意気なガキだ…!さっきまでノリノリだったくせにぃ!

「もー!じゃあキスはいいから!最後までなんてしないし触るだけでいいから!」

なんて譲歩したのは、オレの手に悶える晃クンをもう一度見たいから。だってあのツンケンした晃クンがプルプルしてるとかすげー楽しい。

「ねっ?」

渾身の笑顔で後押しすれば、少し考える様子の晃クン。
ふふふ、オレの笑顔の破壊力たるや!

「じゃあ勉強しながらならいいすよ」

妙な条件が付いた。

「え、と、服脱いで勉強すんの?」
「ハア?」

また蔑まれた。


という訳で、一糸乱れぬ姿でお勉強中です。

「はいじゃあこの問題やってみて」
「ん………」

そしてオレの手は晃クンの背中を回ってシャツ越しの乳首を弄っています。
いざ触るとなった時にね、オレ野郎のチンコ触る趣味ねーしなーと思って。でも太もも触ってたらそっちに行っちゃうし。じゃあ胸揉んどこうと思って。いや野郎の胸触る趣味もないんだけど。
オレその気ないのにさっきのムラムラなんだったんだろーな。

って冷静になりながら胸触ってたんだけどね。なんかまたムラムラ再発したわ。

「……っ、………ふ」

だって晃クン健気!
シャツの上から乳首カリカリするとビクンビクンなくせに手で口塞いで問題解こうとして健気!全然解けてないけど必死にシャーペン握ってるの健気!エロ健気!

「さっき説明したのに解けない?説明聞いてなかったの?」
「ん…っんん……っ」

乳首カリカリしながら尋ねれば、口塞いだまま頭フルフルする晃クン。
くっそカワ!

「んー?じゃあなんで出来ないのかなぁー?」
「……っ…ぁっ」

乳首カリカリしながらもう片方で太ももを撫でると、ブルッと震えて堪えきれない可愛い声が。あーもームラムラする。
あんまりムラムラしたから服の上からチンコに触った。さほど抵抗なく触れた。
っていうか。

「…お勉強中になに濡らしてるの晃クン?」
「…っ……ッ!」

握り込んだらグシュって言った。晃クンの手からシャーペンがコツンと落ちる。そんで中腰の前屈みで両手でお口を塞いで、ふふふ、どんだけー。

「ほらほら早くしないと今日のノルマ終わらないよぉ?」
「んぁっふっふっ」

晃クンの下に身体を滑り込ませて椅子を押し出す。擦り合わされた足を膝で割って小刻みに揺すったらお口塞いだまま机に崩れた。
うわぁ。うわぁ。顔見たい!フルフルしてる顔ちょー見たい!

「やばいオレ変な道開いちゃいそう…」
「ん…ッ?」
「ふふふ、終わるまでずっとこのままだよーって言ったの」
「んッんッんッ!」

胸と股間を揉みしだいて乳首カリカリしながら膝ズンズンしたらアンアン息漏らしながら落としたシャーペンを再び握って問題に取り組んでマジ健気ぇー!
もう辛抱たまりません!

「っは、晃クン…!」
「っぁ…ッ?」

机に向かう晃クンを反転させると、驚いたような晃クン。
そのほっぺたは赤く色づいて、お目めはウルウル。
いや、顔の造形は普通なんだよ。普通なんだけどね。なんか、やばい愛しい。
片手間なんかじゃなくて、机の上なんかじゃなくて、ちゃんと晃クンを抱きたい。
男と出来るかは未知だけど。

「ね、ベッド行こ…?」

オデコをコツンと合わせて囁けば、晃クンの目がよりいっそう色づいて…。

「ハア?」

くれなかった!
むしろ蔑まれた!目で蔑まれた!

「キンタマ蹴っていっすか」
「何でよ!」

その性癖ほんと全然わかんない!


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