いつもの朝。1/5



一様に髪をつんと逆立てた男子学生達からは、ワックスの臭いが漂ってきそうで、
妙に甲高い声を発する女子学生達からは、実際に甘ったるい臭いが漂ってきた。

何が言いたいのかと言えば、彼らがふてぶてしく横行する朝の通学路が僕は好きじゃない。

そして他でも無い僕は、彼らと同じ制服を着ている。

通勤途中なスーツ姿の男性が、今にも溜息を吐きそうな目で彼らを見たり、
車が彼らに向かってクラクションを鳴らすだけで、僕の矮小な心は金切り声をあげる。


いつもならそんな彼らの隣を、持ち前の存在感の無さを駆使し悠々と通り過ぎるのだが
今日はいつも通りでは無いかもしれない。

影の薄さを彷彿とさせる、名前の間違いはあれど
僕は昨日、3人の女の子と普通に会話することができたのだ。

いつも通りなら、まず不可能なことのはずなのに。

なら今日の僕も、もしや人並みに存在を感知されてしまうのではないだろうか。
目の前を行く集団の、つんとした瞳に刺殺される僕なんて容易に想像できるのだ。


しかし、脳髄を刺激する期待と不安は、何故か決して具合の悪いものでは無かった。






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